ドワーフさん、初めまして
今日も書く
オーカ達は食料等を揃えると早速ヤキキンの街へと出発した
出稼ぎなどで移動している人が多いという状況なのでギルドで探せば護衛の依頼なんかもあったかもしれないが早さを優先する為に依頼を探す事は辞めた
今回も日が暮れるまで走り地面の中で寝て朝日と共にまた走り出す予定だ
護衛をしているとどうしても依頼主の速度に合わせないといけないので遅くなってしまう
まあ、そういうのは帰りでいいだろう
「ねぇ、ドワーフって会った事ある?」
走り始めてから数時間、機馬の上で食事をとるために少し速度を落としたオーカが初めてマックに声をかけた
「見た事は何回かありますけど話したりとかはした事ないっすね」
「イメージ的には酒好きの種族って感じなんだけどそれ以外なんかある?」
「うーん、酒が好き、で鍛冶仕事か炭鉱仕事を主に生業にしてる人が多いイメージっすね、確かドワーフの国は偉い人も鍛冶仕事はしてるって話聞いた事あるっす」
「へぇ、そうなんだ、本当に好きなんだね」
「そうっすね、まあ、もちろん全員が全員そういう仕事をしている訳じゃないとは思いますけど、冒険者でも鍛冶はやるって人もいるみたいっす」
「そっかー、じゃあこれを機に「赤黒」の素材を使ってマックの装備作ってもらいたいねぇ」
「師匠の分はいいんすか?」
「あれ?前に言わなかったっけ?私のは運さえよければなんとかなるって」
「聞いたような聞かなかったような・・・でもそれってどういう事なんすか?ダンジョンドロップ狙いって事っすか?」
「ん-、半分正解で半分間違えてる感じかなぁ、まあ、そのうちわかるから大丈夫よ、多分」
「そうすか」
「さ、干し肉も全部口の中に入れたしまた速度あげるわよ」
「へいっ!いきやしょう!」
それから二日後人間とドワーフが共同で開拓を進めている街、ヤキキンの街へとたどり着いた
「まずはギルドに声かけましょ、話は通ってるって話だしね」
「へいっ」
オーカ達は門番をやっている人間に話しかけギルドの位置を教えてもらった
扉を開け中にはいる
やはり視線は感じる、だがそんなもの今更気にするオーカではない
真っすぐに受付に進むとそこにはドワーフの女性が立っていた
身長は人間と比べると頭1つ分くらいは小さい、そして洋服の上からでもわかる腕の筋肉
受付嬢でも筋肉がここまであるのはドワーフという種族ならではだろう
「この街の近くのダンジョン調査する為にサブウエエの街から来た者なんですが」
「あ、お話は伺っております、ギルドマスターは今席を外しておりますのですいませんが待っていてもらってよろしいでしょうか?」
「あ、わかりました、ちなみに食事くらいならする時間ありそうですか?」
「そうですね、申し訳ないですがそれくらい待たせる事になるかもしれません」
「いいですいいです、じゃあそっちでご飯食べてますんでギルドマスターが戻ってきたら声かけてもらえますか?」
「はい、わかりました」
受付への挨拶もほどほどにすませやっぱり冒険者ギルドと併設している食事処へと足を運ぶ
人や仕事を探す所にこんなにもご飯の匂いを漂わせて大丈夫なのかとも思うがこの世界では大丈夫みたいなのでオーカはそれ以上考えなかった
ヤキキンの街でもやはりダンジョンアタックやパーティ勧誘を表示させている冒険者が多数いた
サブウエエの街との違いと言えばほとんどがドワーフな事とそのドワーフ達が全員酒を飲んでいる事だろうか
なのでご飯の匂いだけでなくここでは酒の匂いも漂っている
アルコールに弱い人が来たら匂いだけで酔ってしまうかもしれない
これから狩りに行くみたいなパーティもあるのに酒を飲んで大丈夫なのだろうか
食事の注文を終え席につくオーカとマック
冒険者ギルドに入ってから今までずっとオーカ達には周りのドワーフ達の視線が注がれていた
もちろんオーカとマックはその事に気付いている、しかしなんというか興味本位での視線と言うよりかはもっと別の、敵意みたいな視線が感じられる
だがすべてを無視していた
料理と一緒に水が運ばれてくる
その時1人のドワーフが声をかけてきた
「人間は酒飲まんのか?」
「ん?お酒は飲むけどこれから仕事だから飲まないだけよ」
周りがなにやら少しざわついた
「そうか、他の仕事でここに来ている人間も仕事前には飲んでないが冒険者も飲まないのか、やっぱり変な奴らだな」
「酔うと危ないしね」
「そうだな、人間は少しの酒で酔うからな、わしらドワーフは酒精の強い酒以外じゃ酔うなんて事はない」
「そうみたいね」
周りを見ればテーブルにお酒は乗っているが酔っている様子を見せているドワーフは誰もいなかった
「それで?わざわざそれだけを言う為に話しかけた訳じゃないんでしょ?」
「ああ、もちろんだ、お前らさっき受付でダンジョンの調査に来たって言ってたけどそのダンジョンはジエンジョのダンジョンの事か?」
「ん-、名前なんだったかな?」
「隠さなくていい、ここにいる冒険者達の中では有名な話だ、まだここが出来てから1か月ほどしか経っていないがここを根城にしようとしている冒険者達は多い、だがその俺達ではなく別の街の冒険者に依頼を出した、つまりそいつらは俺達よりも強いって事だろう?どんな奴が来たかと思えばまさかお前達みたいな人間だったとはな」
「ああ、なるほど、どんなのが来るのかと思ったらこんな小娘が来たから自分達にも行けるんじゃないかって思ったって所かな?」
「この世界は別に見た目だけで決まる訳じゃないのはわかっている、だがな、俺達は納得がしたいんだよ」
「話はわかるけど貴方が納得した所で私になにかプラスってあるのかな?ここで仕事するには皆貴方の了解を得ないといけないの?あ、もしかして貴方がギルドマスターさん?」
そういうと声をかけてきたドワーフは黙ってしまった
「違うならお引き取り願っても?」
「・・・お前ら冒険者の階級は?」
多分その数字を聞いて納得をしようと思ったのだろう
だがこの話題は確実に火に油な事をオーカはわかっていた
しかし答えなければ目の前にいるドワーフは引かないだろう
面倒な事になるのはわかっているがここは答えねばあるまい
「3よ」
「は?もう1回いってくれ」
「だーかーら、3よ、3、こっちの男は4」
周りにいるドワーフ達が一斉に立ち上がった
ふざけるなとか嘘をつくなとか罵詈雑言の嵐だ
「嘘じゃないわよ、見せてあげる」
オーカはステータスを表示し自分の冒険者階級を周りに見せた
「言っておくけど私はサブウエエの街の副ギルド長に、ここの言い方だと副ギルドマスターに直接依頼の話をもちかけられてここに来てるからね、文句があるならサブウエエの街の冒険者ギルドに言って頂戴」
だが1度火がついてしまったドワーフ達はそんな言葉では止まらなかった
(めんどくさいなぁ・・・はやくギルドマスター帰ってこないかな)
ちらっと横を見ると受付嬢や食事処の店員さん達も困った顔をしていた
やはり冒険者ギルドと食事処を併設するのは間違いなんじゃなかろうか
「師匠、俺がなんとかしますか?」
こういう時は黙ってくれと頼んであるマックがオーカに声をかけた
「いいわよ、仕方ないから私がなんとかするわ」
「なんとかってなんだ!たかが階級3の奴になにができる!」
オーカに最初に声をかけたドワーフが顔を真っ赤にしながら叫んだ
弱いお酒じゃ酔わないんじゃなかったんだろうか
「貴方の言い分もわかったわ、ここで頑張ろうとしているのに無理かもしれないからって事で他の街に助けを呼ばれてプライドが傷ついたって所かしら?ジエンジョのダンジョンにはまだ誰も入ってないの?」
「ああ、人間の軍の関係者以外はまだ誰も入ってない、だが奴らは俺達の強さも知らない!」
これはもしやこのままにしておくと人間とドワーフという種族の問題にも発展するのではなかろうか
そんな嫌な予感をオーカは感じ始めた
多分その軍の関係者は実力を知らないヤキキンの街の冒険者に頼るより信頼があるサブウエエの街の服ギルド長の人選に頼った方が早く仕事が進むと思ったんだろう
それのお鉢が今オーカに回ってきたのだ
「わかった、さっき言った発言は撤回するわ、貴方に納得してもらう事にする」
そう言ってオーカは立ち上がった
「なんだ!殴り合いでもしようってか!?」
「それはお店に迷惑でしょ」
オーカは近くにあった少し小さめのテーブルを見つけると持ってきた
「さ、腕相撲よ、ドワーフの国にもあるかな?」
オーカがテーブルに肘をついた
「当然だ!」
ドワーフが肘をつきオーカの手を握る
「ちなみに私のスキルは怪力の類だけど・・・ルール違反になるかな?」
「ならん!」
「んじゃそこのドワーフさん、合図よろしく」
オーカは最初に話しかけてきたドワーフのパーティメンバーであろう同卓のドワーフに声をかけた
「よっしゃ!任せろ!」
そのドワーフはテーブルを飛び越えると握り合っている2人の手の上に手をおいた
周りにいるドワーフもやれーだのドワーフの実力を見せつけろだのと騒いでいる
心配そうにしていた受付嬢や食事処の店員さんも今では真剣にこの勝負の行方を見守っていた
「レディー・・・ゴー!」
合図と同時に2人の上に乗っていた手が離れる
2人同時に力をいれる
ダンッ!
オーカはドワーフを秒殺した
静寂に包まれる
卑怯な手を使ったんじゃないのか?誰かがぽつりと口にした
「黙れえええ!!!」
勝負したドワーフが叫ぶ
「完敗だ・・・俺の名前はイスキーだ、名前を教えてくれ」
イスキーが右手を前に差し出した
「私名前はオーカよ、認めてもらえたかしら?」
がっちりと硬い握手が交わされた
「ああ、もちろんだ」
(でも大体この後のパターンって・・・)
「俺とも勝負しろ!」
「いや、俺とだ!」
(こうなるんだよなぁ・・・)
「全員と勝負してる時間なんかこっちにはないの!だったらこの中で1番強い人かかってきなさい!」
「なら俺だな」
後方から声がかかると一気に視線がそちらへ注がれた
「「「ギルドマスター!?」」」
「面白そうな事してるな、さて、俺が相手だ」
ギルドマスターと呼ばれたドワーフが机に肘をついた
「遠慮はいらんぞ」
ギルドマスターは笑っている
「あー、もう仕方ない!」
オーカが勢いよくギルドマスターの手を握った
「これが最後ですからね!」
「無論だ、誰にも文句は言わせん」
オーカは1度息を吐いた、握っている手で相手の実力がどの程度か想像がつく
かなりの腕力の持ち主であることは間違いなかった
「よぉし!いくわよ!合図お願い!」
「「「「「うおおおおおおおおおお!!!!!!」」」」」
本日の冒険者ギルド併設の食事処は開設されてから今までで1番の盛り上がりを見せていた
腕相撲って上腕骨折れそうで見てて怖い
でも回復魔法があればなんとでもなる




