そして、追跡
今日も書きたいぞ
サブウエエの街に駆け込んだオーカは速度を落とした
こればかりは仕方ない、何キロまで出していいとかの決まりはないが街の中でそんなにスピードを出してはいけない、というのは暗黙のルールだ
それは緊急クエスト中だとしても許されてない
曲がり角から誰かが飛び出してくるかどうかもわからないのだ
カーブミラーなんてものはこの世界にはない
少しでも早く速度を出す為にオーカは大通りを通らずに人が少ない裏道を走る
昼でも人が少ないその道は夜にはもっと人が少ない
ここならスピードを出しても大丈夫だろう、そう考えたからだ
だがオーカの目論見は外れてしまう
目の前に道の真ん中で4人立ち話をしているのが見える
読みが外れた
オーカは仕方なくさらに速度を落とす
だが予想外の言葉がオーカの耳に飛び込んできた
「お、本当に来たぞ」
「ああ、あの機馬だな、黒髪の女が乗ってる」
「情報は本当だったみたいだな」
「よし、お前らやるぞ」
本人達はもちろんオーカに聞かせようと大声を出している訳ではない
オーカの強化された聴力が声を拾ったのだ
(あいつら私が花を届けるのを知ってる?え、というかこのタイミングで、緊急クエストを邪魔する!?)
緊急クエストは貴族ですら邪魔する事はしない
それが一般常識だ
道中で人間に邪魔をされるなんて事は考えてもいなかった
そういうものだと思っていたから
オーカは機馬の速度をさらに緩めた
「すいません、通りますよ」
オーカは男達の声が聞こえてない振りをしながら近づいていく
「お、ああ、こんな所で突っ立ってちゃ邪魔だな」
1人の男が胡散臭く喋る
「そうだな、道は開けてやらねぇとな」
他の3人もそれに賛同したような口ぶりで道の端の方へと動く
動くときにそれぞれが持っている武器に手を伸ばしながら
(完全に素人ね、というか見た目的には冒険者に見える、それなのにこの状況の私に襲い掛かろうとしてるなんて・・・)
4人の男を見てみる
その身体からは先ほどの鳥の様に魔動力が溢れている様子はない
なにかされている訳ではないのだろうか
オーカが左右2人ずつに分かれた男達の真ん中を通ろうとする
その瞬間を待っていたかのように男たちは武器を取り出しオーカに襲い掛かる
オーカはハンドルを思いっきり上にあげた
そうすると機馬の前足は高く持ち上がる
それにより4人の攻撃を躱す
「ふんっ!」
今度はハンドルを下に押し付けた
機馬の足は地面へと勢いよく戻っていく
ズドンッ!
地面が少し揺れる
左右のちょうどいい所に顔が2つあったので若干の手加減をして殴ってやる
いい具合に2人ほど吹っ飛んだ
よく見るとちょうど蹴りやすい所にもう1つ顔がある
今度も若干の手加減をしてあげて蹴り飛ばす
なかなかよく飛んでいく、当たった先はレンガ作りの家だったので結構痛そうだ
少しだけ機馬を前に動かすと今度は掴みやすい場所に首があったので掴んでみる
思ったよりも軽かったのでちょっと持ち上げてみた
「あんた達今やってる事わかってるの?」
「な、なんの事だ・・・」
「この後ろの旗、あんた達も冒険者なら知らないとは言わせないわよ」
「その旗がなんだっていうんだよ・・・」
(緊急クエストの旗を知らない?それはおかしい、子供だって知っている事だ)
「まあ、いいわ」
オーカはそういうと腕に力をいれて持っているモノをちょっとだけ浮かす
「う、うわぁぁ!」
腕を後ろに引くとちょうどいい所にお腹が落ちてきそうだったのでまっすぐ拳をいれてやった
「なんだか変ね、とりあえずギルドに連れて行きましょうかね」
たった1発攻撃をいれただけで起き上がってこない4人のうち2人を機馬に、もう2人を左右の肩に担いで歩き出した
「あー、ほんとめんどくさい」
冒険者ギルドまでの道はもうそんなに長くはない
だがやはりこれは目立つ
何を言わないでも道がどんどん開いていくのは少しありがたかったが
(まーた噂されるわね)
女オーガ男4人を連れ去る、明日にはこんな話が酒場で花を咲かせるだろう
「何見てるのよ!」
オーカは周りにいる人に声をかけた
しかしこれは声をかけるふりをして魔動力を溢れさせるなにかがいるかどうかの確認の為だ
そしてあの鳥を見つけた
やはり普通に街の中にまで入ってきている
「いよいよ厄介ね」
オーカはもう周りを気にせずに冒険者ギルドまで歩く事にした
まずは1人の少女の命を救うのが優先だ
そこからは後で考えた方がいい
冒険者ギルドまでつくと元気よく扉をあける
「あ、サティさーん、スミスさん呼んでー」
中へと入ると受付嬢のサティの姿が見えたのでスミスを呼んでもらおうと思った
だがその声に反応したのかスミスの方からオーカの方へと駆け寄ってきた
「オーカ!早かったな!ちゃんと依頼の品はもってこれたのか?というかそいつらはなんだ?」
そいつらとはもちろん肩に担いでる2人の事である
「依頼はもちろん大丈夫、機馬も壊れてはないよ、傷ははいってるかもだけど、こいつらはちょっと訳ありで逃げられない部屋を借りたい、外にまだ2人いる」
「わかった、じゃあこいつらは部屋まで運んでもらうか、おい、こいつら縛ってその辺の部屋に連れてってくれ、起きても俺が戻ってくるまで縄をほどくんじゃないぞ、よし、依頼の品を届けに行くから渡してくれ」
「あー、それなんだけどさ、私も治療の様子を見せてもらうってできるかな?」
「うん?なんでだ?」
「いやね、結構大変な仕事だったし結末を見たいというか、それに花があるとどう違うのかも見てみたいしね」
「依頼人に言ってみるのはいいが絶対とは言えないぞ?それにお前もう何日も風呂はいってないだろ?治療する場所に汚い人間はいれられないって言われるかもしれん」
「あー、それなら・・・ほら、これでいいでしょ」
頼りになります便利魔法、浄化
これで何日もお風呂にはいってなくてもばっちりである
「まあ、いいか、じゃあこっちだ、ついてこい」
「了解!あ、そうだ」
オーカに連れてこられた4人を職員が縄で縛って移動させようとしている所に声をかけた
「マックが帰ってきたらこいつらを見張っとくように言っといて、絶対逃がすなって」
職員が了解してくれた
スミスが走り出す
オーカも慌ててついていった
「場所は?どこなんです?」
「サブウエエの街で金持ちが泊まる所って言ったら大体わかるだろ」
「あー、ホテル・テイコックですか」
「その通りだ、急ぐぞ」
「はーい」
オーカとスミスは走ってホテル・テイコックへと向かう
ここでは変なのに襲われることはなかった
超高級ホテル「ホテル・テイコック」、ここはその辺の冒険者が来れるような場所ではない
こんな所に泊まって娘に治療を受けさせている人はどんな人なんだろうか、オーカはそこにも興味があった
受付でスミスが連絡を取り次いでもらっている
周りにいる人全てが身なりがよく本当に金持ちだけしかいないんだろうな、という感じがした
(いやー、まさに貴族相手の商売って感じね、金ぴかすぎて落ち着かないわ)
あまりキョロキョロしているのもなんなのでオーカは大人しくしている事にした
少し待つと金持ち商人の使用人なのだろう、若いお兄さんが1人こちらへと向かってきた
「旦那様がお待ちです、こちらにどうぞ」
「ああ、所でこの冒険者が治療を見学したいといった件は・・・?」
「その方にもお礼をしたいと旦那様は仰っています、なのでこちらに来てください」
「あ、ありがとうございます」
若いお兄さんに先導されスミスとオーカは高級ホテルの中へと進んでいった
「こちらです」
馬鹿でかい扉の前でお兄さんが立ち止まる
コンコンと扉を叩くとドアがバッと開かれた
「どこだ!花はどこだ!娘を治せる花は!」
「あ、ここです」
オーカはマジックボックスに手を突っ込みウッドゴーレムの頭の上に咲く花を採りだした
「これか!礼を言う!」
かなりの速度で近づいてきたおじさんがオーカの手からウッドゴーレムごと花を奪う
やはり裕福なだけあってお腹がでている
それでもあの速度で動けるという事はそれだけ娘が心配なのだろう
扉の前にいるお兄さんに私もはいっていいかとジェスチャーで聞くとこくんと頷かれた
「お、お邪魔します~」
中にはいると部屋もでかい
更に部屋の奥へと進んでいく
そこは寝室だった
ホテルの受付や廊下の金ぴか具合とは違い、真っ白といった感じの寝室だった
(うーん、ジュースこぼしたら怒られるかなって考えちゃう所なんかやっぱりここは私には合わないわねぇ)
「マユや!マユ!お前の為に冒険者が花を採ってきてくれたぞ!この花は魔法の効果をうんと引き上げてくれるからきっと治るぞ!」
マユ、そう呼ばれた少女が広いベットの上で寝ている
(うわ、すっごい美少女、父親じゃなくて母親似なのね)
ベッドの横は母親とみられる美人がいる
ドレスが光っていて眩しいくらいだ、暗視魔法かけておいた方がいいかもしれない
だがその子の容姿についての感想はそこまでだ
彼女の身体からは魔動力が溢れているのが見える
だが今まで見てきた魔物のそれとは感じが違う
魔物や例の鳥は魔動力があまり動かずに安定している感じだった
だが目の前で溢れている魔動力は前々違う
消えかけたり激しくなったりと不安定だ
これはやはり呪いなのだろう
「ではその花を私に」
ベッドの奥の方に立っていた聖職者が商人に声をかける
「お、お願いします!なにとぞ!なにとぞ!」
「これは随分と状態がいい、これなら魔法の効果もかなり上がりますよ!」
(あー、最初にそういう事言っちゃっていいのかなー、病人相手に治るとか効くとか絶対とかって言わないのは元の世界だけでの常識なのかな、それともそんなに自信があるのかしら)
オーカがそんな事を考えていると花を手にした聖職者がその花を少女の上で両手で握りつぶした
その手から雫がこぼれ少女に降りかかる
「ディヴァインリフレッシュ!」
部屋に神々しい光が広がる
白とも金とも言い難いその光は呪いを払うのには効果絶大な見た目をしている
(暗視魔法をかけておいて正解だったみたい)
少女から魔動力が散っていくのが見える
むくり
先程までしんどそうに寝ていた少女が起き上がった
「おお!マユ!マユ!!」
父親も母親も、そして聖職者や使用人も皆嬉しそうだ
だがオーカは見逃してなかった
少女からほのかにあふれ出る魔動力と窓の外にいるあの鳥を・・・
今日も書いたぞ




