最初が肝心
前回の続き
(あー、やだやだ、本当にこれだからよりによって1番嫌いなタイプだわ・・・)
セットしている聴力強化のスキルを外そうかと思うくらい嫌な話が耳に入ってくる
その嫌な話をしている学生3人のうちの1人は今集まっている30人くらいの学生の中で一目で見てわかるほどにザ・貴族といった感じだ
それに多分この中でも1,2を争うくらいの金持ちなんだろう、髪の質や身に着けているものが周りとは別格である
(だから調子に乗っちゃうんだろうな)
そんな事を考えている時に少年が立ち上がりこの中で誰が一番強いのかという質問をした
どう考えてもヨシヤーノである
一緒に狩りに行った事はないが噂話はよく耳に入ってくる
大工仕事や引っ越しの仕事なんかの体力仕事が終わった後はよく居酒屋で飲み物を奢ってくれていたがその時だっていつも周りに冒険者たちが囲んでいて皆尊敬の眼差しを向けていた
結局冒険者と職業で最後にモノを言うのは腕っぷしだ
優しいから、人格者だから、それだけではあの視線を向けられる事はない
強いかどうか、結局はそこなのだ
だからオーカは何故私に視線が集まったのかがわからなかった
ヨシヤーノやマックがこちらを見るのは不本意だがまだわかる
ヨシヤーノは色々な経験をさせたいから、マックは世間知らずだから
ここまではわかる・・・だけど他の冒険者達は・・・いや、本当になんでなんだ?
慌てて拒否をしているがこうなったらもう無理だろう、今までの行動を考えるとヨシヤーノは私が前に出るまではずっと待つはずだ
(はぁ・・・まあ、いいや、ここで最悪の印象を与えて貴族とのつながりを全部ぶった切ってやろう)
「えー・・・初めまして、今ヨシヤーノさんからこの中で1番強いと紹介されたオーカだ、よろしく、ちなみに私はこれからの2週間貴様らのようなガキに対して媚びたりするつもりはない」
最初はこんなものでいいだろう、これでもしかしたらこの引率から外される事もあるかもしれない
だがオーカの視線の先のヨシヤーノ、さらにはナカモト学園長は笑っていた
ナカモト学園長なんかはもっとやれとでも言いたげな目を向けてくる
「な、なんだその言いぐさは!」
1人の少年が立ち上がる
ああ、さっきのガキか、ちょうどいい、そう思ったオーカは
「じゃあ君にその理由を説明しよう、名前はなんでいうのかな?ファミリーネームまで教えてくれないか?」
「俺の名前はデニス=ロイホスだ!」
(ロイホス?聞いた事ないな、まあ、でもそこまで言うと家までかかわるかもしれないからやめておいたほうがいいわね)
「そうか、ありがとう、ところでロイホス家と言うのは爵位はなんだったかな?」
「そんなものも知らないのか!田舎者だな!ロイホス家は侯爵だ!よく覚えておけ!」
「ああ、そうそう、侯爵様だったね、侯爵様となるとさぞ偉いんだろうね、君の御父上は」
「当たり前だ!」
「さて、これから私達は演習に出かける事になっているがその事はわかっているかな?」
デニスは何を馬鹿な事を言っているんだ?と言いたげな顔をしている
「今はまだいい季節だがこれがもっともっと寒い季節になったらどうなるだろう?雪は降るだろうし食料となる魔物も取りにくくなる、焚火用の枯れ枝だってなかなか集めにくいだろうなぁ」
「お前は何が言いたいんだ!?」
「そんな自然を相手にする時に侯爵家の名前を出したら吹雪が止んでくれるか?魔物が出てきてくれるか?そもそも魔物にその名前を出したら攻撃しないでくれるか?」
デニスは何も言い返さない
「そんな事になるならいくらでも媚びてやるよ、だがそんな事は起こらない、それなら今ここにいるお前ら全員が私からすれば足手まといのお荷物だ、お荷物に対して持っている感情は精々長持ちするようにする事くらいだろ」
オーカはデニスから視線を外し他の学生たちを見る
「いいか!この学園で成長していけばお前らの中にも軍に入る奴もいるだろう!エリート中のエリートなら雪の中行軍をしなくて済むかもしれない!だがこの世界は魔物という全人類の共通の敵がいる癖に他の国とも戦おうとしている馬鹿だって存在する!そいつらが真冬に攻めに行けと言い出すかもしれない、真冬に馬鹿が攻めてくるかもしれない、そういう時に足を引っ張らないように少しでも勉強しておこうというのがこの演習の最終的な目的だ!さっきヨシヤーノさんが言った目的はお前らがガキだから遠慮して優しくいってくれたんだ!」
ざわつきがさらに大きくなる
真冬に戦争なんか行きたくないという声やエリートになればそんな事しないでいいのか?とかどうやったらそんな環境で生き残れるんだ?など感想は様々だ
「お前らが今足手まといなのは別に罪でも悪い事でもない、だがこの経験がお前らが組織の上の立場になった時に無理難題を言い出さないようにする為のものになってくれたら私は嬉しいと思う、2週間という短い間だが私はお前ら全員が少しでも足手まといから脱却できるようにサポートしよう、さて・・・まだ何かあるかな?デニス=ロイホス君?」
「な・・・なにもない・・・」
少年は何も言い返さなかった
「はっはっは、先の狙いまで全部言われてしまったな、まあ、よしとしよう、ではこれから出発する、道中は長いが疲れたりしたら言ってくれ、無理だなと思ったらこちらで対処できる事は対処しよう、さあ、出発だ!」
ヨシヤーノの号令で学生が立ち上がり列になって目的地へと歩いていく
目的地はコウラクエ森林の前にあるコウラクエ平原だ
来年は森の中へ、その次はさらに奥へいくのが習わしらしい
歩き始めてから数分してオーカはマックから話しかけられた
「師匠、あんな事言ってよかったんですか?いくら師匠が貴族の事嫌ってるからっていって」
「ああ、いいのいいの、軍隊に入ればもっとひどい事言われるよ、きっと、どんな命令でも躊躇なく行動できるように育てるのが軍隊ってものだし」
「え、ほんとですか?」
「いや・・・多分・・・」
「なんすかそれ」
他にもたわいのない話をマックとしていく、やがて話題もつき2人が黙りながら歩いていると
「あの・・・オーカさん、と呼んでいいかしら?」
「もちろん、お嬢さんの名前は?」
「私はランコム=シャネールよ、ランコって呼んで頂戴」
「うん、それでどうしたの、ランコ」
「ああ、名前で呼ばれるのって新鮮だわ・・・じゃなくて、オーカさんって冒険者なんでしょう?毎日戦いにあけくれて数日間家に帰らないときだってあるんでしょう?」
「まあ、あるね、それで?」
「お風呂だって毎日ははいれないでしょう?それなのにどうしてそんなに肌艶がよくて髪が綺麗なのかしら?」
「あ、あー・・・ん-・・・若いからじゃない?そのうち私だってボロボロになっていくよ、この商売やってる以上仕方ない」
「それだけじゃ説明できない気がするんですけど・・・」
気が付けば周りにいる女学生がこちらの話に必死に聞き耳と立てていた
話しかけてきたランコは学生の中ではひときわ美人だ、きっと毎日ケアを頑張っているんだろう
「本当はこの演習乗り気ではありませんの、2週間も野宿だなんて肌に悪いわ、それに私は軍に進む予定もありませんし・・・本当に憂鬱で憂鬱で・・・」
「あー・・・まあ、そうだねぇ、このくらいの年齢くらいから気にしだす子は気にしだすからねぇ」
「何をそんな年上みたいな事言ってるんです?どう見ても私より年下でしょう?まさか違うんですの!?どうやったらそんな見た目を維持できるんです!?」
ランコはオーカの肩を掴み前後に揺さぶってきた
「あー!あー!ごめんごめん、今のはただ言い間違えただけだよ、確かにまだ私の方が若い、若いから手を離して、締まる締まる」
肩を掴んでいた手はいつの間にか首にかかっていた、こいつもしかして殺し屋かなにかか?
「はっ!申し訳ありません、興奮しちゃって・・・」
「いやー、でも本当になにもしてないんだよねぇ」
嘘である、オーカは神様にもらったスキルを色々と活用して肌の潤いを保ったり血色をよくしたり代謝をあげたりと色々していた
この世界に美容品がないのは教えてもらっていたのでできる範囲で頑張っているのだ
それに加え神様に少し手を加えてもらっている影響もあり土埃の中で戦おうが返り血を浴びようが綺麗でいられるのだ
(本当は乳液とか化粧水くらいは持ってきたかったんだけどね、あとは髪がなー、トリートメントとか作れないかな、ハチミツが髪にいいって話は知ってるけど他の成分までは知らないしなぁ)
「はぁ・・・いいですわね、でも女性の冒険者ってどうなんです?」
「なにについて?」
「周りは男性が多い訳じゃないですか、しかも・・・そのムキムキな方とかもいらっしゃるし・・・恋に落ちたりしませんの?」
(ははぁん、この子マッチョ好きだな?しかも多分Mだな、私にはわかる)
「恋ねー、生きてくだけで必死な職業だからね、まあ、それだから恋をするって人もいるみたいだけど私はないかな」
さっきよりも聞き耳を立てている学生が増えた気がする
「そんなものですか、私実は吟遊詩人の歌や物語とか結構好きでして、恋愛の話とかもよくあるので皆そんなものなのかと思ってましたわ」
「まあ、その方が歌としては人気でるだろうからね」
(私は元の世界に帰りたいしな、こっちの世界で恋愛しても相手に悪いからな・・・まあ、周りに男もいないし、マックは・・・うーん、ないなぁ)
「あの、私からもオーカさんに質問があるんですけどいいかしら?」
その後どうしたらそのスタイルを維持できるのかとかこのような演習をしていれば痩せるのか、メイクはどこの店の物がいいのかなど美容系の質問が色々と飛んできた
(やっぱりどの世界でも女の子は女の子だなぁ)
「すまない、俺からも質問があるのだがいいだろうか」
「ん?」
美容系の話がひと段落した時1人の褐色の肌をした男の子から声をかけられた
「もちろんいいよ、なにかな?」
「先ほどの会話であの強そうな男性がオーカさんの事を師匠と呼んでいたが本当ですか?」
「ああ、マック?そうだよ、と言っても私が教えてるのは身体の作り方くらいであとは実戦形式で訓練してるくらいだけどね、流派があるとかそういう訳じゃないし」
「え?じゃああの男性とずっと一緒に行動してるんですか?」
周りにいた女子から黄色い声が飛び交う
恋仲なのかとかそういう質問に押されさっきの男の子の声が小さくなっている
褐色の肌でもわかるくらいに顔が赤くなっている、きっとこの子は女の子が苦手なんだろう、可愛いものだね
「そんなんじゃないよ、君達が想像するような関係じゃあないからあっち行ってなさい、それで君、ああ、名前聞いてなかったね」
「ああ、俺の名前はココチ=カルデイって言います、よければ俺の事を鍛えてくれないだろうか?」
真剣な顔をするココチ
「え、でもこの学園ってちゃんと武芸を教えてくれる先生いるでしょ?その先生に悪いよ」
「しかし・・・」
「それに君の事知らないのにいきなり鍛えてほしいって言われてもね、まあ、この2週間のうちに期待できそうだったら少しくらいは稽古相手にはなってあげるよ」
「あ!ありがとう!オーカさん!」
「頑張ってね」
貴族にもこのような子がいるのか、少し考えればいるのはわかるのだがオーカは頭っから貴族は嫌いという固定観念に囚われていたようだ
嬉しそうに決意するココチ、だがすぐに女子に端に追いやられる
まだまだ演習は続く、どうやらこの演習、少しは楽しめるもになるかもしれない
オーカはそんな事を考え始めていた
果たしてモブ3人衆は今後でてくるのだろうか?




