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領民が向こうからやって来た


「魔王様、人族の村長が訪ねてきました。お会いして話がしたいそうです」

ある日の昼下がり、魔王軍の一人が我の元にやってきて話した

「そうか、良いぞ通してくれ」

「わかりました」


暫くすると、一人の年配の男性が我の元にやってきた

「お初にお目にかかります、魔王様。私はタリウ村の村長をやっているものです。本日はご相談があって参りました」

そう言って村長は頭を下げた。人族の村長が敵対する魔王に頭を下げたら人族の王に怒られないのかと心配したが、我以外誰も見ていないから別に良いのだろう

「そうか。して相談とは何だ」

「タリウ村を魔王国の村にしてください」


え、何だって?

「すまん、いまタリウ村は魔王国になりたいと言ったように聞こえた。もう一度言ってもらえるか?」

「その通りでございます」

我は絶句して暫く声が出なかった


「何故だ。いや頭を上げて話してくれ」

村長はまだ頭を下げたままだったので、慌てて付け足した。村長曰く、タリウ村を配下に置いている城主はこの村を見捨てていて、何を願っても援助どころか返事も貰えないらしい

「一度私は城主様のお屋敷に出向きお話をしたのですが、お前らのような貧乏村はいらぬ、好きに生きよと言われました」

「城主は国王の命を受けてその地を支配しているのであろう。領土を勝手にいらぬなど言える権限はないはずだが」

「城主様は数年毎に変わります。任期期間に支配地から税金を巻き上げて懐に入ればそれで良く、我らの事はどうでも良いのです。この地は王都から離れていて軍も来ませんから」


ため息しか出ない。一体人族はどうなっているのだ。人族の王が心配になる

「用件は分かった。だが直ぐに返事はできぬから村に戻って暫し待て。返事は必ずする」

「ありがとうございます」


さて困った。どうしたものか。我は人族と敵対しているが、領土侵略の意図は全くない。大体自分たちの領地だけで手一杯なのに人族の領地など手に余る。だが、人族の王の権限を一地方城主が勝手に決めている事は見過ごせない。これが罷り通れば、国を維持することは出来ない。どうやら一度、人族の王と話をする必要があるようだ



それから数日後のある真夜中、我は空を飛んで人族の王城を目指していた。人族の王と話をする為だ。愛に相談したら今が良いと言われたので、手土産の山羊のチーズと山葡萄の酒を持って急いでいた。王都には商人と何度か来た事があるので、王城がどこにあるのか知っていたし、三度商人と王に謁見していたので顔も知ってた。愛に言われた窓から中に入ると、そこは執務室のようで王が書き物をしていた


「こんな遅くまで仕事か。人族の王は大変だな」

王が窓から入って来た我の方を見ると少し驚いた顔をしたが、何故か笑顔になった

「やはりあなたは普通の人ではなかったのだな」


「我は魔王、魔王国を統べるものだ。あなたを害するつもりはない。少し話したいことがあって手土産持参で来た。葡萄酒はどうだ」

我が縄で結んだ小さい樽を掲げると王は嬉しそうに頷いた。我のことをそんなに簡単に信じて良いのかと思ったが、都合が良いので黙っていた。我と王はテーブルを挟んで向き合いチーズを肴に葡萄酒を飲み始めた


「実はタリウ村のことだが」

我は事の顛末を正直に話した。我に侵略の意図は全くないので、真っ当な城主に替えてもらえぬかと願った。王は黙って聞いていたが、首を横に振った

「魔王殿、真っ当な城主など何処にも居らぬよ。奴らは地方に飛ばされた被害者だと思っているから、せめて金目の物を巻き上げないとやっていられないと思っている。もしそれを止めたら、暴動が起こる」

「城下を発展させれば税収が上がり潤うではないか。巻き上げるより効率が良かろう」


王は笑って首を横にふる

「あいつらにそんな情熱も知恵も勇気もない。だから地方へ飛ばしている。魔王殿には悪いが、使えない奴は王都から離さないと何を仕出かすか判らないからな」

我はため息しか出なかった

「タリウ村は魔王国の傘下に入れて良いか?」

「ああそうしてくれ。タリウ村に続いて他の村も配下になっても構わぬよ。むしろそちらで面倒を見てくれるならありがたい」

王はそう言って我に葡萄酒を差し出す

「それで良いのか人族の王よ。領土が減るだろうに」

「正直、手が回らないのだ。人も人材も不足している。王都周辺を維持するだけで手一杯だ。分かって貰えるだろ魔王殿」

「ああ、よく分かる。儘ならぬな」


人族の王は我の言葉に深く頷いた。酒が回ってくるとお互い愚痴を言い合い、意気投合してしまった。風が時間だと告げてきたので、我は帰ることにした

「では人族の王よ。我はここで暇する」

「また来てくれ、魔王殿。いつでも歓迎する」

我は窓から出ると空を飛び魔国を目指した


(人族の王の視点)

 魔王が空の彼方に消える様子を見ながら、やはりあの者は只者ではなかった、己の確信が確かだった事に自信が持てた。

最初に出会ったのは商人との謁見だった。商人の隣で何も言わず頭を下げているものに目が釘付けになった。只者ではない、そう思った。己の中にある何かが彼に首を垂れ、畏怖の念する抱いていた。だから三度会った。結局彼は一言も話さなかったが、彼が何を思っているのか明白だった。何故そうなる、そんな事で良いのか王よ、このままでは国が潰れるぞ、無言の中に強い警告が混ざっており、私はいつも背中に冷たいものを感じていた。それから私はいつも彼ならどうするのか、と自問している自分に気づいた。それ程印象が強かった。


 そして、今日、彼に再会した。魔王国の魔王だ、と名乗って貰えて嬉しかった。部下から魔王国の事は報告が上がっていた。辺境の森に国を作り、人だけでなく動物も国民とする変わった国が出来たと。大臣達は人以外が国民だと言って嘲笑っていたが、私はそれを脅威と受け止めていた。やがて軍隊が出来て周囲の村落に出向いて援助をしており、人気があると聞いた時には何故かあの商人の横にいた彼が思い浮かんだ。人族の真逆をやる、という国是は一見すると敵対勢力のように思うが、人が真っ当でない今ならそれは真っ当な国に違いない。誰もその事に気づかないが。


彼がタリウ村のことで相談に来てくれた事は何より嬉しかった。魔王国の真意がはっきり分かったこともあるが、彼が我を心配していることは有り難かった。同じ視点でものが語れる事がこれ程楽しいことだとは思わなかった。私の愚痴の真意を分かってもらえることが嬉しかった。世辞ではなくまた来てほしい。本気でそう思った。彼とは友人になりたい


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