第9話 女神の啓示
ジュリアとウォーレットのひと悶着から三日ほど経過しました。
ルークたちは、ゴーレムのコアを換金し、この村を旅立てるほどのお金を手に入れました。
「この怪しいパーティーについてくのもどうなのかしら……」
と言いつつも、ついてくるようでした。
ある日、ルークはいつものように里山で鹿を狩っていると、突然昼間にもかかわらず、あたりが真っ暗になりました。
オーロラが現れました。
ルークがあたりを見渡していると、突然声が聞こえました。
「私は、あなたがたの創造主、女神です」
「はい?」
「私は、あなたがたの創造主、女神です」
「はい」
「ルーク。あなたを、私は見ています。
あなたは、私に選ばれた特別なものなのです。
あなたは、私に選ばれたものとして、律法を守らなければなりません」
「鹿肉を食べてはいけません」
「どうしてですか」
「私がそう命じたからです」
ルークは首をかしげました。理由になっていないからです。
「もし鹿肉をたべるとどうなるんですか」
「やってみるといい。律法を破れば、私の力を思い知るでしょう」
そこまで言われてしまったらと、
ルークはさっそく鹿を狩り、その場で火を起こして焼き、
食べ始めてみました。
すると……
地響きが響き渡ります。
ゆっくりと何かが動いています。段々と音は大きくなっていきました。
次第に、低く鈍い音から、大きな音へと変わりました。
地面が揺れ、ルークは立つこともできなくなりました。
次第に収まりましたが、音が鳴ったのほうから叫び声がしました。
「地割れだ! 突然、地面が裂けたぞ」
「けが人はいないか?!」
ルークは震え上がりました。
ルークはメアリとジュリアの宿へ帰ってきました。
「女神様から啓示があったわ」
「どういうこと?」
「なんか、鹿肉を食べてはいけない律法を授けられた」
「状況が読めない。どういうこと?」
「女神様が突然現れて、『鹿肉を食べてはいけない』とのこと」
「そ、そう……」
ジュリアは、困惑しつつも、頷きました。
「大丈夫? ルーク」
メアリが心配して、ルークの額に手を当てて、熱を測ろうとしました。
「大丈夫だ。多分」
「食べたら、どうなるの?」
「食べると大変なことがおこるらしい」
「試してみましょう」
ジュリアはバケツから塩漬けの鹿肉を持ってくると、ルークにあげました。
すると……
大地は悲鳴を上げ、 里山のほうで大きな、大きな音が迫ってきました。
「な……何?」
ジュリアは慌てて、窓を開くと、里山のほうから地響きが聞こえてくるではありませんか。
「また地面が引き裂けるぞ! なんなんだ?!」
ある村民が、叫び、人々に呼びかけます。
少しして、それは止みました。
「なるほど。これは大変なことが起こるわ」
「だろう」
「さっきの地鳴りも、ルークのせいだったのね」
「俺のせいじゃない。女神様が勝手にやっているんだ」
「厄介ごとに巻き込まれて」
ジュリアがため息をつきました。
「ルークは女神様とお話しできるんだよね。聞いてみたら、どうかな……」
メアリは、恐る恐る言います。
「いや、いきなり話しかけられたから、こっちから話しかけて応答するかどうかわからない」
「つべこべ言わずにやってみなさいよ」
ジュリアの乱暴の言い草にむすっとしつつ、ルークは息を吸いました。
「女神様、女神様。話ししたいです」
すると真っ白な霧があたりを覆いました。ルークとジュリア、メアリがそこに引き込まれます。
「はいはい」
女神の声がしました。しかし、姿かたちは見えません。
「すごい。本当に女神だ」
ジュリアが感嘆の声を上げます。メアリに関しては恐れ多く、声を発せない様子でした。
「ほら言っただろ、女神様と話したって」
「これは認めるしかなさそうね。まあ良く分からないけど、女神に選ばれたっていうのも心強いでしょう」
「あの女神様。なんで、俺が選ばれたんですか」
「あなた方は魔王を倒す勇者だからです。
私が女神であることを受け入れ、律法を守りなさい」
「俺たちが魔王を倒すの?」
「そうです。一緒に頑張りましょう」
「ええ。魔法を戦うの……?」
メアリが震えた。
「大丈夫ですよ。私がついていますからね」
女神が微笑んだ。
「でも、律法があるから、鹿肉を食べられないんだが」
「そのくらい我慢しなさい!」
ジュリアが言います。
「ええ! 鹿肉食べたい……」
「我慢しなさい!」
「ルークルーク。女神様を放置したら、駄目だよ」
ルークは慌てて女神のほうを見ましたが、彼女はにっこりと笑いました。
「いいんですよ。楽しく冒険してくださいね」
「あのさ、何か対価ってあるの? まさか、無償で守ってくれるの?」
聞いたのは、ジュリアです。
「私は慈悲深いのです。ただし、自ら求める姿勢を忘れてはなりません」
「随分と古臭い道徳を聞いている気分だわ」
「そのうちにわかります。そういうわけですので、困ったらまた呼んでください。用事があったら、こちらから呼びますね。
愛していますよ、ルーク」
そういうと、女神様は去っていき、霧がなくなりました。
三人は不思議そうに周囲を見渡していましたが、やがて各々リラックスし始めました。
それから三日後、ルークとメアリ、ジュリアはこの村を発ちました。目指すは第二の都市メテアです。
ジュリアの母とウォーレットの姿もありました。
「行ってくるね、兄ちゃん」
「ああ。頑張ってこい」
「気を付けるんだよ」
「うん。わかっているよ、お母さん」
ジュリアは母の頬にキスをしました。
「行ってきます」
無事、メテアにたどり着けるでしょうか。