第8話 ジュリアに勇気を!
さて、三日ほど経って、ジュリアもすっかり元気になりました。
決闘の日を迎えました。
村の郊外の野原に、ウォーレットとジュリア、そしてメアリとルーク、ジュリアの母がやってきました。
ウォーレットは母に聞きました。
「お母さん。ジュリアを戦闘に出すなって、あれほど言ったのに」
「仕方ないじゃない。ジュリアは話を聞かないんですもの」
「まあいい。あきらめてもらうだけだ」
ジュリアは一足早く立ち上がり、待っています。
ウォーレットも母との会話を終え、立ち上がり向き合いました。
「準備はいいか?」
「いつでもどうぞ。兄ちゃん」
静かになりました。
聞こえるのは風の音だけ。その風は、肌をなでると、そのまま遠くの小山まで去っていきました。
突然始まりました。
ジュリアがまずは、炎を放ち牽制します。
ウォーレットはといえば、全く動じず、加速を続け、ジュリアに近づいていきます。
ウォーレットが蹴りを入れました。
「うっ!」
ジュリアは空で一回転します。
ジュリアは、条件反射的にウォーレットを狙い、電気を放ちますが、外れました。
「当たらない?!」
ジュリアは後ろへ飛んで、距離を取ります。
ウォーレットは五、六本ビームを放ち、ジュリアを狙います。
ジュリアも対抗して、相殺させます。
一本、もう一本、ウォーレットがビームを放つのスピードの方が早いのです。
ジュリアは、徐々に押されていきます。
ウォーレットが突然、加速をし、ジュリアへ近づいてきました。
「そこだ!」
ジュリアはウォーレットに炎魔法を当てました。
至近距離で、できる限りの魔力を込めました。
しかし、黒煙からウォーレットが出てきて……
また、蹴り飛ばされました。
今度は、魔力を込めたのでしょうか、大きく吹き飛ばされます。
ジュリアは倒れこみ、立ち上がることができませんでした。
ウォーレットは、その様子を見ながら言いました。
「お前の負けだ、ジュリア。もういいだろう」
「ジュリア。俺が突撃してきたとき、こう思ったんだろう。
このまま押されてしまっては勝てない。私は、兄ちゃんとの撃ち合いに勝てない。だから、これはチャンスだ。
今至近距離で炎魔法を当てれば、私は勝てるのだと。
弱いから、そういう安直な発想をしてしまうんだ。
挙句の果てに、今後の戦いを心配して、魔力を節約した。まだ、魔力を残っているんだろう? ジュリア」
ウォーレットは首を振り、小馬鹿にしました。
「だから、お前は戦ってはいけないんだ。臆病だ。戦いの節々に自信のなさが現れている。
そのキツイ言動だって、本当の自分を知られたくないんだろう。
ジュリアには勇気がない。戦えば、死ぬだけだ」
「てめえ! 言いたい放題!」
ルークが立ち上がろうとして……
「引っ込んで、ルーク!」
ジュリアが叫びました。
「これは、私の戦い。私の問題なの。
私が戦わないといけない」
ジュリアはふらふらと立ち上がりました。
「戦いはまだ終わっていない。私は使える魔力を残している」
「何度やっても無駄だろうに」
ウォーレットは再び、ビームを放ち、ジュリアを切り刻もうとします。
しかしジュリアは打ち合わず、さっとよけました。そのまま魔力で浮遊しました。
ウォーレットは地面から石を浮遊させ、ジュリアにめがけて飛ばします。
ジュリアは、空を舞いながら、ひらりひらりとかわしていきます。
まるで蝶のようです。
しかし、ウォーレットは確実に逃げ場をふさいでいきました。
ジュリアは徐々に低空へ追い詰められます。
ジュリアは加速し、一か八かウォーレットに突っ込んできました。
全てのエネルギーを加速に集中させているので、バリアを出せません。
当たれば、終わりです。
「安直だな。俺の真似をして、突っ込むなんて」
ジュリアはすべてよけ、ウォーレットの懐に入り込み、
炎魔法を放ちました。
ウォーレットは、同じく炎魔法を放ちました。
二人の魔法が激突します。
ウォーレットは吹き飛ばされ、ジュリアの強すぎる魔法ゆえ魔力は揮散し、倒れこみました。
「安直? 上等だ。私は安直でいい。
正面から倒してやる」
ジュリアはウォーレットを見下ろして言いました。
「そうかよ……」
ウォーレットは体を起こして、尻もちをつきながら言いました。
「お前、本気でやっただろ。俺が死んだらどうするつもりだったんだ」
「死なない」
ジュリアは言いました。
「兄ちゃんは私のあこがれだもの。私にたくさんのことを教えてくれた。
だから、死なないって信じていた」
ウォーレットは、驚いた顔をしたのち、笑いました。
「そうか。強くなったなあ、ジュリア。大きくなった」
「なんで、私が冒険者になろうとしたのを止めたの?」
ジュリアは聞きました。
ウォーレットは、深呼吸をしたのち言いました。
「俺は、ジュリアに冒険者や戦闘職になってほしくなかった。
死ぬときは死ぬ。そういう仕事だ。だから、ジュリア。
お前が心配だったんだ」
「だったら、そう言ってくれれば良かったのに」
「言えなかった。こっぱずかしかったから」
「ジュリア、冒険者や戦闘職を続けたいか」
「ええ。兄ちゃんが反対しても、私はやりたい」
「そうか。行ってこい。応援している」
ウォーレットは、恥ずかしそうにそっぽを向きました。