第7話 ジュリアとウォーレット
ジュリアは、この村に生まれ育ちました。
両親、兄の四人家族です。父親は採掘工で、よく北のほうへ出稼ぎに行っていました。
ジュリアはお兄ちゃんっ子で、兄ウォーレットが放つ魔法……とくに煌びやかな炎魔法が大好きでした。
いつも、教えてもらうようせがんでは、ウォーレットから魔法を教わっていました。
ウォーレットも不器用ながらも、ジュリアを可愛がっていました。
父親は無関心でしたし、母親はジュリアよりもウォーレットの方をかわいがっていました。
幼年学校でも、ジュリアは女子と遊ぶよりも、男子と喧嘩ばかりしていました。
ジュリアが八歳のころ、父親は亡くなりました。
それ以来、ウォーレットは冒険と出稼ぎに行っては、お金を持って帰ってきたのでした。
ジュリアは兄ウォーレットのような前線魔法職になりたいと考えていました。
十三歳の頃、ジュリアはウォーレットに言いました。
「冒険に行きたい。私も連れて行ってほしい」
ウォーレットは冷たく言い放ちました。
「お前はだめだ。お前は嫁に行きなさい。冒険者や魔法職になってはならない」
「うーん……」
「起きたか、ジュリア」
「また、これ?」
再び、宿に戻ってきました。
ジュリアの寝ているベッドのすぐ横には、ルークが座っていました。
その部屋の奥には、メアリが心配そうに見ています。
するとドアが開いて、ウォーレットがやってきました。
「兄ちゃん、帰ってきていたの?」
「ああ。昨日帰ってきた。それよりも、これはなんだ」
ウォーレットは、ジュリアに近寄ってきました。
「冒険者になるな、戦闘に参加するなと、俺は言ったよな?
なぜ、攻撃魔法職をしているんだ」
「兄ちゃんには関係ないでしょう」
「わがままを言うな。身を滅ぼすことになるぞ」
「うるさい。やってみなくちゃ分からないでしょう」
「分かりきったことだ」
「ちょっとなんなんですか。いきなりやってきて言いたい放題」
「家庭の話に首を突っ込むな」
「いや、同じパーティーの仲間なんです」
「仲間? 笑わせるな」
ウォーレットは、ルークを笑ったのち、再びジュリアのほうを向きました。
「俺は許可していないから、今すぐ攻撃魔法職をやめろ。戦闘に参加するな」
「いや! 考えて決めたの!」
「お前の考え方は浅い。いうことを聞きなさい」
「聞かない!」
「また、来るからな」
ウォーレットは、そのまま大股に歩いて、去っていきました。
そうして、再び沈黙が覆いました。
「あの人がジュリアのお兄さん?」
「ええ。頑固な人でしょう」
「そうだな」
「どうして、お兄さんは、ジュリアが戦闘に参加するのに反対しているんだ?」
「分からない」
ジュリアは顔を伏せ、布団を握りしめました。
「ジュリアはどうしたいんだ?」
「私は攻撃魔法職を続けたい」
「どうして?」
「強くなりたいから。兄ちゃんみたいに」
「そうか」
「じゃあ、戦うしかないんじゃないか」
ルークが言いました。ジュリアは、俯きました。
「いや、戦うって。無理よ」
「目標の人に、ジュリアの力を認めさせるんだ」
「私に勝てるかしら……」
「勝てるさ」
ルークは言いました。
ジュリアが顔を上げました。
「だって、ジュリアは強いから。あとは、勇気さえあれば」
「というわけで、果たし状です」
「なんなんだ! 急に」
ルークとメアリは、ジュリアから教えてもらった自宅に押し掛けました。
「果たし状ですよ。ジュリアと決闘してください」
「いきなりそんなもの渡されたって、受け取れん」
「逃げるんですか? あれだけ言っておいて」
ウォーレットが、眉毛を動かしました。
「お前らはなんでそんなにあいつに入れ込んでいるんだ」
「仲間ですから」
「仲間だって、ほかにいくらでもいるだろう」
「このパーティーに入ろうとしてくれた最初の人ですから」
「ジュリア以外に入ってくれそうな人がいなかったのか」
ウォーレットが、ニヒルな笑みを浮かべていった。
「痛いところをつきますね! その通りですよ」
「その通りなのかよ!」
「ええ。アットホームな雰囲気なのにおかしいでしょう!」
「だからだ!」
ルークは一息おいて、また語り始めました。
「でも、ジュリアは大切な仲間です。そして、ジュリアがあなたを重荷に思っているなら、白黒つけてほしいと思っています。
俺は、ジュリアを応援していますから」
「手加減しないからな。いいんだな?」
「ええ。その代わり、もしジュリアが勝ったら、ジュリアがうちのパーティに参加し続けることを許可してくださいね」
「良いだろう」
交渉は成立しました。
「ルーク」
透き通る声で、メアリはルークに呼びかけました。
「うん?」
「どうして、ジュリアちゃんが勝つって分かったの?」
「あー、あれ。わからん。当てずっぽうだ」
「え?」
メアリは顔を青くしました。
決闘はどうなるのでしょうか。