第6話 リトライ・ダンジョン!
「さっさと憎たらしいあのダンジョンを攻略してしまおう。そのために、作戦を立てる」
ルークが開口一番そう言いました。
「メアリ。それあたりよ! おめでとう! 今日は運勢いいわ」
「そ、そうなの……?」
「そうそう」
「俺の話を聞いてくれ……」
メアリとジュリアはトランプ占いに熱中していました。
最初の頃は仲良くしていて良いと思って待っていたのですが、いつまで経っても終わらないものでついに言ってしまいました。
宿のベッドの上、トランプを広げています。
「何。あのダンジョンのことでしょう。前回はミスしただけ。あんなゴーレム、私の魔法で吹き飛ばしてやる」
「そうやって前回負けたんだろ……」
ルークが呆れた声を出しました。そう言って、ルークはベッドのトランプをしまいはじめました。
「話聞けないなら、没収するぞ」
「ちょっとあんたルーク! 返せ」
「おい魔力を貯めるな! 何しているんだ?!」
「ぶち殺す!」
「やめろ! 本当にやめろ!」
メアリは、ジュリアの変貌ぶりに呆れと恐怖が混じった眼で、見ていました。
ルークは咳払いをして、話始めました。
「まず確認しておきたいんだけども、ジュリアの電気魔法はあのゴーレムに効かなかったんだよね?」
「返せー」
「それしか喋らないつもりなのか……」
ルークがメアリの方を見ると、メアリはさっと視線を逸らしました。
仕方ないので、ため息をして、ルークはまたジュリアを見ます。
「ジュリア、答えてくれ」
「何? 私の魔法が弱かったって言いたいの?」
「そういうことは言っていない」
先走って、歪曲的に解釈するジュリアにルークはげんなりとして言いました。
「……確かに効いている感じはしかなった」
ジュリアはやや不満げにそっぽを向いて言いました。
「ああ、そうだろうと思った。ジュリアの魔法は強いのにおかしいよなって思っていたんだ。強いのにさ」
ジュリアは舌打ちをしました。ルークはまたげんなりしました。
機嫌を取ろうとしたものの、どうやらわざとらしかったようです。
「そこで、ゴーレム対策を考える。何か意見がある人ー!」
ルークの声が間延びしていって、そのあとに音連れたのはカラスの鳴き声でした。
誰一人発言しようとしません。
「うーんじゃあ、まずジュリア。何か意見を出してくれ」
「いや。なんで考えなくちゃいけないの。私が気合いで破壊するわ」
「少しは考えろよ」
「うるさい。じゃあまず、ルークから言いなさい」
「ええ? ううん……」
ルークはしばらく考え込みました。それで何かを思いついたようです。
「俺が剣で殴って、魔力をぶち込む」
「……」
「……」
「な、なんだよ。いいアイデアだろ」
「ルークの物理攻撃、聞いている感じだったの……?」
メアリが遠慮しがちに聞いてきました。
「いいや、効いている感じはしなかった」
「ほら駄目じゃない!」
「うるせえ!」
ここぞとばかりに、ジュリアはルークを茶化すのでした。
「とにかく強い魔法を打つ!」
「目玉焼きを作って、美味しい食べ物で死んでくれるよう、ゴーレムと交渉する!」
「頭下げて、ゴーレムに死んでもらう!」
「鹿肉を捧げる!」
ジュリアとルークがアイデアを出していきましたが、それはそれはひどい有様でした。
それを見ていたメアリは、不安が募り、恐ろしくなってきました。
「あのね……」
メアリが遠慮しがちに手を上げました。
二人が一斉にメアリを見ます。それはひどく苦痛でしたが、おずおずと話始めました。
「物体は急激な変化に弱いから、冷ましたり熱したりすれば弱るんじゃないかな……」
「それだ!」
「それよ!」
「メアリやればできるじゃない。最初からそう言いなさいよ。いつも黙ってないでさ」
ジュリアのぶっきらぼうな言い方に怯えてしまって、メアリは「もう当分発言したくない」と固く誓ってしまったのでした。
「まあ、メアリがいいアイデア出してくれたし、これで行くか。ありがとう、メアリ」
「う、うん。でも……あの……一つだけだと危ないと思うの。それが効かなかった時に次の手がないというか……」
「確かに」
「そうだなあ。ジュリア、何か意見を頼む」
「……話をループさせるつもり?」
「動くものだから、関節部分が弱いとか。」
「……そこら辺を探っていくか」
結局、メアリの発想力に頼りきりでした。
「ここまでは簡単だなあ」
ルーク、ジュリア、メアリの三人は、再び最下層にやってきました。
問題はこれから、例のゴーレムです。
入口付近から部屋をのぞくと、四メートル程のあのゴーレムがのしのしと歩いています。
「円陣を組むか」
ルークが突然、言い出しました。
「ええ。馬鹿っぽい」
文句を言うジュリアを無視して、ルークはメアリと肩を組み始めました。
ジュリアもしぶしぶ従います。
「ゴーレム倒すぞ!」
「おー」
ルーク、ジュリア、そしてメアリの順番に部屋に入っていきました。
まずはルークが切りかかります。
しかし、剣は奇麗にはじかれ、ゴーレムはびくともしません。
ルークはゴーレムのパンチを、回り込むようによけます。真下はゴーレムの死角だと気づいたのです。
ジュリアは炎をぶつけますが、真っ赤に染まるだけで、中から無傷のゴーレムが現れました。
「やはり、普通に戦っても勝てない! 例の作戦をするぞ」
「オーケー!」
ジュリアは、そのまま凍結魔法を放ちます。
ゴーレムの左半身に氷の柱ができ、飲み込んでしまいました。
ゴーレムは残った右足で踏ん張り、力づくで脱出しました。
氷が飛び散ります。
効いてないのかと、メアリは疑念を持ちました。
次の瞬間、突然ゴーレムが跪き、冷却されたであろう左足にヒビが入りました。
「やった!」
しかし、ジュリアの叫びと同時に、ゴーレムは再び立ち上がり、ルークに襲い掛かります。
「仕方ない!」
次の作戦として、関節部分に剣を当てましたが、音程が微妙に変わるだけで、あまり意味がありませんでした。
「効いてない……」
どの作戦も通用せず、メアリは不安な気持ちに覆われました。
ジュリアが炎魔法を放ちました。
「効かないなら、魔法を使うな! ジュリア! 節約しろ」
「私の魔法が通用しないなんておかしい!」
「ムキになるなよ! 頭を使え!」
「うるさい!」
「メアリ、こうなったら、私にありったけの攻撃バフをよこしなさい! 私を強化して!」
「ルークいいの?! 本当にいいの?! バフ使い切っちゃうよ?!」
メアリはルークのほうを見ました。
「なんでルークに聞くの! 自分で考えなさい! そういうところが……!」
「やれ、メアリィイイイイイイイイイイイイイイイ!! このままだとじり貧になるだけだ!」
ルークが叫びました。
「うん!」
「いけええええええええええええええええええええ!」
ジュリアはありったけの炎魔法をぶつけました。
真っ赤な炎がこの大きな部屋全体を覆いました。
それからしばらくすると、跪いた真っ黒なゴーレムが現れました。
ゴーレムが立ち上がろうとした次の瞬間、左足の日々が広がり、そこから大きな音を立てて、バラバラになりました。
轟音がしたのち、また静かになりました。
ジュリアは叫び、ふらふらと回りました。
「ほら、見なさい。私が火力でねじ伏せたでしょう! 私の力よ!」
ルークは、あまりにもハイになっているジュリアに対して、どこか落ち着いた不安感を覚えていました。
壊れかけの機械が悲鳴に近しい音を立てた時のような……。
すると突然、ジュリアはふらっと倒れました。
「ジュリア!」
ルークは慌てて駆け寄って、ジュリアを抱きかかえました。間一髪です。
メアリはルークを見ましたが、ルークは首を振るだけでした。
結局、ルークとメアリは、倒した証拠としてゴーレムのコア部分の残骸を手に入れ、
またジュリアをおぶって、帰ることになりました。
「ダンジョン、攻略できて良かったね」
「ああ」
メアリは嬉しそうに言いました。
ルークと二人だけの時間、それがメアリにとって、嬉しかったのです。
村に帰る途中、ある男とすれ違いました。
ネイビーのローブを着て、杖を持った男です。彫の深い、随分と貫禄のある顔でした。
男が何気なく視線を向けてきて、すると目を大きく開きました。
「ジュリア! ジュリア! しっかりしろ!」
その男は、おぶっているジュリアに近寄っていきました。
「どちら様ですか?」
ルークは不安げに聞きました。
「俺は、ジュリアの兄、ウォーレットだ。お前らこそ、誰だ?」