第5話 ジュリアの歓迎会
「……」
まず最初の難所は、ここでした。
メアリは、ジュリアの『引っ付き虫』発言を許すでしょうか?
ここを許さないのであれば、もうご破算です。
メアリはルークに視線を送りました。
「助けて」と。
いつものように、ルークに決めてほしい訴えました。
でも、メアリ自身が決めるしかありません。
受け入れられないなら、メアリが断り、
受け入れられるなら、メアリが許すことをしなければなりません。
ルークが断ったり、許しても、何も意味がないのです。
メアリはルークが、何もしてくれないのだと、察しました。
それから、長い長い時間が経ちました。
メアリは考え込みました。
けれど、ルークやジュリアは、絶対にせかしたりしませんでした。
「嫌だったけれど、もう二度と言わないなら、いい。許すよ」
メアリは、ゆっくりと小さい声で言いました。
言い終わると、ジュリアのほうを見ました。
メアリは、ちゃんと自分の意見を言ったのです。
「ありがとう」
ジュリアも、メアリにつられて、小さい声で答えました。
「うん。そういうことなら、夕食を考えようか。この話は、もう終わりにしよう」
ルークはできる限り、明るく、元気に言いました。
現在時刻は十八時くらいです。
二人は、さっきまでの雰囲気を引きずり、暗い顔でした。
「鹿肉は、もう飽きた。どんな美味しいものでも、五日連続で食えば、飽きるな!」
「そりゃ、当然よ……。鹿肉に限った話じゃないわ」
ジュリアは、いつもの顔に戻って、呆れました。
「そこで、外食しようと思うんだ」
「いいの? 貯金してるんじゃない?」
「もちろん、メテア行きも諦めない。でも、無理に切り詰めて、ストレスになったら、楽しい冒険にならないだろ」
「あと、自炊って、計算してみるとそんなに安くない。材料費とか、狩りや調理の時間を考えると」
「最初から計算して、始めなさいよ……」
「そういうわけだから、ちょっと良いところで外食しよう」
「じゃあ、ジュリアちゃんの歓迎会やったら……」
メアリが、おずおずと手を挙げて、遠慮しがちに言いました。
「それ、いいね!」
メアリが素晴らしいアイデアを出してくれました。
「カンパーイィイイイイイイ!! うおおおおおお!! ウェイイイイイ!!」
「カ、カンパーイ……」
「メアリィイイイイイイイイイイイ! 盛り上がってる?!」
「う、うん……。ありがと、ルーク……」
「ルーク、もしかして酒、飲んでる?」
三人は、レモンサイダーのジョッキで乾杯しました。
美味しいと評判のお食事屋さんで、食べ放題を頼んでいます。
メアリが、ルークのテンションに必死についていこうとしますが、
限界がありました。
ジュリアが、また呆れることになりました。
このパーティーに来てから、一生分くらい呆れています。
「飲んだらまずいだろ、年齢的に」
「素面でこれって、狂っているわ」
「ようし。まずは、ピザだな」
と言って、メニューを開きました。
「みんな、なんか頼む?」
「私もピザ食べようかしら。ここ、窯で焼いているみたいだし」
「メアリはどうする?」
「ちょっと待ってて」
メアリは、真剣まなざしで、メニューを見つめています。
もう、人生がかかったようなまなざしです。
そうです。メアリは、お昼ご飯を抜いているのです。
「ちょっと待とうか」
ルークの言葉に、ジュリアが頷きました。
「そういえば、ルークって、どこ出身なの?」
「北国。そこの諸侯の三男で……」
「はあ?! うそでしょ?!」
ジュリアがこの日一番で、驚きました。
「そんな、領主の御子息なんて……。見えない、全く……」
「なんか、無茶苦茶失礼なこと言われている気がする……」
「というか、諸侯の子供って、どんな生活するの?」
「家庭教師がいたり、武術を習ったり、メイドがお世話をしてくれたり。
でも、うちのメイドは、作法にうるさくて、
少しでも間違えると一からやり直しだから、なかなか食事が食べられないんだよ」
「まあ、メイド?! 本当?!」
ジュリアは、今まで見たことないような、無邪気な笑顔を見せました。
ルークは、ニヤリと笑って、もったいぶって言います。
「メイドの話、聞きたい?」
「聞きたい! 聞きたい!」
もう、ルークは、とても愉快な気持ちになりました。
「いやあ、メイドはいいよ、メイドは」
「ちょっと、ルーク! 私を、そこに連れて行きなさいよ!」
「そんな横暴な……」
「決まった……」
メアリが、ルークに言いました。
「じゃあ、頼むか」
店員さんがやってきました。
「俺は、魚介たっぷりピザで」
「私は、熟成チーズピザで」
「ええと、これ……お願いします」
と言って、メアリは、竜の卵をさしました。
「かしこまりました」
「竜の卵?」
「私も、よくわからない……」
「メアリは、どこの出身なの?」
「私、孤児で……」
「あ、ごめんなさい」
「ううん」
「メアリとは、うちの領地で会ったんだ。そこで、『行く場所が無いなら、一緒に冒険しよう』って話になって」
「そういうことなのね」
待っていると、ピザがやってきました。
そしてもう一つ、竜の卵がやってきました。
しかし……
「卵白の一部を、焼いただけなのね……」
「まあ、高級品だしなあ。一人一個出していたら、採算が取れないだろう」
見た目は、普通の目玉焼きの卵白と見分けがつきません。
そこに寂しく、パセリが添えられています。
二人は、ピザをほうばり始めました。
「美味しい!」
「おいしいな!」
あっという間、平らげてしまいました。
「竜の卵、どうだった?」
「珍しい味だけど、量が……」
メアリが、残念そうに言いました。
「ピザを頼むといいよ。魚介たっぷりピザがおすすめ」
「メアリ。時代は熟成チーズピザよ。それを頼みなさい」
「ありがと……私もピザ頼もうかな」
こうして、メアリはピザを頼み、他に餃子やらカルビ肉、ズューンの漬物やらを頼みました。
レモンサイダーもおかわりしました。
「ジュリアは、ここの村の出身なの?」
「そう! 生まれも育ちも、ここよ」
「なるほど」
「冒険者になりたくて、でも実務経験なくて、ここに来ちゃったのよ」
「どうして、冒険者になりたいの?」
「私は、ビッグになりたいのよ。兄ちゃんを見返したいんだわ。それこそ、魔王を倒して」
「魔王を倒すのか?!」
「何よ? あんたも、できないって言うの?」
「いいや、違うよ。デカい夢で良いなって思って。応援するぜ」
「そ、そう? べつに、私なら、そんなでかい夢でもちちょいって、実現できちゃうかもだけど」
ジュリアは照れ臭くなって、とんでもない早口でまくし立てました。
「ジュリアちゃんは休日、何するの……?」
「そうね。トランプ占いとか」
「あ、私も好き。よくやってたよ」
「まあ、私と同じね!」
ジュリアが、メアリを見つめて微笑みました。
”俺はルーク。歳は十五。あっちの城に住んでいる。君は”
”メアリ……。十五歳”
”俺と同じだ!”
ルークと初めて会った時の会話を、メアリは思い出しました。
「でも、色々、あって、あのトランプ無くしちゃったから」
「また、買えばいいじゃない。ルーク?」
「いや、メアリがトランプ占い好きなんて、知らなかったぞ。
全然、買っていい。
というか、俺の許可いらない。高価なものだけ相談してくれれば良い」
ルークは慌てて弁明しました。
「ですって、今度、雑貨屋に行きましょう。メアリ」
お食事屋さんを出ると、メアリは上機嫌に、ルークに微笑みました。
ルークはそれを見て、うれしい気持ちになりました。
メアリは、相変わらずジュリアに苦手意識を持っていましたが、
それが少しだけ減った気がしました。
さて歓迎会も終え、彼ら彼女らは一致団結して、あのダンジョンを攻略できるのでしょうか。
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