第4話 消えたメアリ
朝。鳥がチュンチュンと鳴いています。俗にいう、朝チュンです。
ジュリアは宿のベッドに寝ていて、ルークはそれを見守っていました。
「大丈夫か?」
「応募書類に書いてあった『素晴らしい冒険体験』ができたわ」
ジュリアは、開口一番、そう吐き捨てました。
「まだこれからだ。今度は楽しい方をしよう」
ジュリアは、苦笑いに近い、呆れた笑みを浮かべました。
そして、自分に巻き付けられた包帯を見ました。
「あの後、私はどうなったの?」
「無事助け出せて、医者に診てもらえた。大丈夫だと」
「あんたが、助けてくれたの?」
「いいや、メアリだ。メアリが助けてくれた」
「そう。あの子がバフをかけてくれたのまで、覚えている」
「メアリは、悪い奴じゃないんだ。どうか、分かってほしい」
ジュリアは少し考えこみました。
「分かったわ。助けられたんだし、命の恩人ね」
「ああ。また、話そう。分かり合えると思うんだ」
「で、当の本人は?」
「一人になりたいからって、散歩に行った。珍しい」
ジュリアは起き上がり、顔を洗い、朝の支度をはじめました。
もう十一時を回って、遅い朝です。
ルークは、彼女が着替えている間、部屋を出ました。
そして、鹿肉のシチューをお皿に入れて、戻ってきました。
人参、じゃがいも、玉ねぎ、鹿肉、などなどです。
「昨日の夜に作ったシチューだ」
その頃には、ジュリアは着替え終え、朝の支度を終えていました。
「病人に鹿肉を出すつもり? 朝っぱらから?」
「美味しいぞ。本当だって」
「まあ、そんなに言うなら、食べてやるけど」
ジュリアは突然食べるのをやめ、
ルークに訝しげな視線を送りました。
「で、そういうあんたは食べないの?」
「食い過ぎて、飽きた。もう当分、食いたくない」
「……」
それから十四時を回っても、メアリは帰ってきません。
ジュリアは、ベッドの上でトランプ占いをしていました。
「これからどうすんの? このパーティー」
ジュリアが、ルークの方を見ずに、聞きます。
「もう一度、あのダンジョンを攻略しようと思っている」
「この雰囲気で? というか、あの子、私のこと嫌いだったのよ?」
「あの子じゃない。メアリだ」
「とにかく、こんな雰囲気で作戦立てられんのって、聞いてんの」
ルークは何も言えなくなってしまいました。
彼もどうしていいか、分からなくなってしまったのです。
十六時です。
「メアリ、どこに行ったんだろうなあ」
ルークは、入道雲をぼんやりと、現実逃避するように眺めました。
「さあ。私には分からないわよ。どっかで外食して、その後、雑貨屋巡りでもしているんじゃない?」
「そうかも」
どのくらいお金を使ったんだろう、ルークがパーティーのお財布を見て、驚きました。
「お金が一コインも減っていない」
ジュリアは、意味が分からず困惑した顔を返します。
「メアリは、昼ご飯を食べるお金を持っていないはずだ。何かあったのかもしれない。探してくる」
まず、ルークは最初にズューンを食べた、露店を覗きました。
メアリはいません。
次に、村の受付を訪ねてみました。
お姉さんに尋ねます。
「あの、メアリ見ませんでした? 俺の仲間の」
「さあ、見てないけれど」
次にジュリアの言う通り、村の雑貨屋を片っ端から訪ねましたが、
メアリはいません。
噴水広場。馬車乗り合い所。里山の入り口。鍛冶屋。
片っ端から、当たってみますが、やはりいません。
「メアリィイイイイイイイイイイイ! どこだぁああああああああああああああ!」
ルークは大通りで叫んでみました。
最初探した時は、「メアリは迷子になっているのかも」、なんて楽観視していましたが、
探しても探しても見つからず、ルークは段々と怖くなってゆきました。
メアリは、本当にもう何が何でも、ジュリアと同じパーティーになりたくなかったのかもしれない。
だから、メアリは一文無しでも、大慌てで逃げて行ったのかもしれない。
もしかしたら、もう二度と会えない気がしてきました。
ルークは、よろけて、倒れこみました。
「こんな終わり方、あんまりだろ……」
ルークは、悲しみで立ち上がる気力がありませんでした。
通り過ぎる通行人は、彼に困惑した視線を送ります。
「俺はただ、メアリとジュリアが仲良くしてほしくて。
そうすれば、孤独なメアリにも、新しい友達ができて良いかなって。
俺はメアリを思って、やったんだ」
ルークは、言い訳をし続けました。
ですが、段々と自分の言っていることのおかしさを、理解できるようになりました。
結局、ジュリアを新しい仲間に向かい入れたのも、
メアリとジュリアが仲良くしてほしいのも、
メアリのためなんかじゃないんです。
自分自身、ルークのためなんです。
ルークが、やりたかったことでした。
それを、「メアリのため」と、自分の中ですり替えました。
夕日の見える時間帯。
ルークは、村の募集掲示板の近くで、メアリを見つけました。
近づこうとして、メアリが別のパーティーに勧誘されていることに気が付きました。
男性の前線職と女性の攻撃魔法職です。
奇しくも、ルークと年は同じくらい。
別に、俺のパーティーである必要なんてないんじゃないか。
そっちのパーティーに入ったほうが、メアリは幸せなんじゃないか。
ルークは迷いました。
”だったら、お前じゃなくとも良い”
またです。
また、次兄のフランクの言葉が彼の中で響きました。
「メアリは、うちの仲間なんです」
ルークは彼らの中に、割って入りました。
「行こう。メアリ」
ルークはメアリの手をもって、連れ出しました。
今ここで、メアリの手を引いたのは、メアリのためなんかじゃなくて、
自分自身のためだと、ルークは理解しました。
彼は、自分勝手な奴だと、思いました。
「心配した。無事でよかった」
ルークは、思わずメアリを抱きしめました。
メアリは、いつも以上に無表情でうつろな目をしていました。
「俺が悪かった。ジュリアを無理に、パーティーに入れたから。メアリの気持ちを考えていなかった」
メアリは何も言いません。
「俺はメアリの気持ちを聞きたい」
「ジュリアちゃんが、パーティーに入るのは、良いの。それは大丈夫なの。ルークがそれでいいなら」
「え? いいの?」と、ルークは内心驚きました。
「でも、もっと相談して、頼って欲しかった」
「メアリには、十分助けられているよ。相談は……メアリの話を待って、もっと聞けばよかった。
ジュリアがいてもいいなら、俺も仲介する。ジュリア、あんな口調だけど、悪い奴じゃないっぽいんだ。多分」
「うん。分かった」
「メアリ、帰ろう」
メアリは、笑みを浮かべました。
ルークは、随分と久しぶりにメアリの笑顔を見た気がしました。
メアリと新しい仲間であるジュリアが、どうか仲良くなって欲しいと、ルークは思いました。
それもまた、自分の都合を押し付けているのです。
帰路、メアリは、ルークのやや後ろを歩きました。
「噓つきは私。本当は、私を見つけてくれるか、試したかったの」
懺悔のごとく、小さな小さな声で呟きました。
ルークには聞こえません。
夕日が沈み切りました。
「ああ。見つかったのね」
大通りの途中で、二人はジュリアと会いました。
「ジュリアも探してくれたのか」
「ええ。あんたが血相変えて出ていくもんだから」
「ルークだ」
ジュリアは面食らったような、顔をしましたが、言い直しました。
「ルークが必死になって、探すもんだから、可哀そうになったのよ」
ジュリアも、メアリを探してくれていたのでした。
ジュリアは、メアリに近づきました。
「メアリ。『引っ付き虫』なんて言って、ごめんなさい。酷い言い方だった」
ややぶっちょう面ながらも、できる限り柔らかい顔をして、ジュリアは言いました。
はたして、メアリは、ジュリアの『引っ付き虫』発言を許すでしょうか?