第29話 アニー
ルークが落ちた川の下流には、アニーとその祖父ジョンの二人が、山奥で自給自足の生活を営んでいました。
アニーが川へ洗濯をしに行くと、うつ伏せに倒れた男性が流れてくるではありませんか!
「大変!こんなところに人が!」
アニーは慌てて駆け寄りました。
そこには血と痣で染まり、気を失ったルークが流れていました。
アニーはおぶって家に帰り、ジョンに事情を話しました。
そして、アニーはルークを手厚く看護をしました。
丸一日寝込んだのち、ルークは目を覚ましました。
ルークは初めて、見る場所に戸惑いを覚え、周りを見渡しました。
「いてて」
右手を動かそうとして、痛みに気づきました。包帯がまかれ、中から緑色の薬草が飛び出していました。
すると部屋にアニーが入ってきて、駆け寄りました。
「大丈夫?!私がわかる?私、アニーっていうの」
アニーはあまりにルークとの距離が近いために、ルークは思わずそっぽを向きました。
「名前、教えてもらいたいな。ううん、言いたくないんだったらいいけど」
アニーが遠慮しがちに言うので、ルークは名乗ることにしました。
「俺はルーク」
「ルークっていうの!よろしくね。何歳?」
「十六」
「私と同じだ!」
アニーはそう言いました。
それがメアリと初めて会ったあの時と一緒で、ルークはフラッシュバックをして感情が高鳴りました。
アニーはタオルを取り出して、ルークの額から汗を拭いました。
「いいよ」
「大丈夫。私がやってあげるから……」
ルークは過保護だなあと思いました。
アニーの話を聞いていると、ジョンが入ってきました。
「起きたか」
「はい。助けていただいて、ありがとうございます」
「それはアニーに言え。俺じゃない。
どこの出身のものなんだ」
「北国の領主の息子です。冒険者で、ただ、仲間とはバラバラになってしまって……」
「敗残兵だな。誰に負けたんだ?」
「魔王軍幹部の『デモリッシュ』と戦って」
「そうか。意識が覚めたなら、ここから早く出ていきなさい」
「おじいちゃん。こんな状態じゃあ、出ていけないよ!私が看護しないと」
アニーがそう止めました。
「駄目だ。『デモリッシュ』が追ってくるかもしれない。こいつを置いておくのは危険だ」
「俺もそう思います。出ていったほうがいい。ご迷惑をかけるかもしれない」
「ダメダメダメ!ここで休んでいきなさい!」
アニーが意地を張りました。
結局、ジョンは折れて、ルーク滞在を許可しました。
アニーは積極的な性格で、ルークと距離を詰めて、仲良くなりました。
ルークは自らの傷ゆえに、心を閉ざしていましたが、アニーといると少しだけ安心することができました。
右腕の骨折は、ここ近辺の特殊な薬草をつけたおかげで、すぐに回復しました。
ある日、アニーが台所で鼻歌を歌いながら、シチューを作っていました。
ルークは近寄って行って、アニーに声を掛けました。
「手伝うよ」
「ううん。病人は休んでいなさい」
「いいや、さすがに何もしないのは罪悪感がある。右腕もだいぶ良くなったから」
と右腕を、動かして見せました。
「じゃあ、切った玉ねぎと人参をお鍋に入れて」
ルークは、こんな簡単なこと、と思いつつ、入れました。
「上手上手」
アニーが拍手をしました。どこか子ども扱いされているように、ルークは感じました。同い年なのに。
「アニーはずっとここにいるの」
「うん。おじいちゃんと一緒に、ずっとここにいる。時々、冒険者の方がくるけれど。同年代は初めてかも。
だから、ルークが来てくれて、嬉しい」
アニーはそう言って、笑って見せました。
また、別の日、アニーとルークは山菜採りに出かけました。
アニーが言います。
「ここはおじいちゃんと初めて山菜取りに行った場所なんだ」
「アニーにとって、おじいちゃんは大切な人なんだね」
「うん。ルークは?大切な人はいる?」
ルークは、初めにメアリとジュリアを思い出して、その後、父『テール卿』を顔を思い出しました。
ただ、臆病にも引っ込めて、首を振りました。
「よくわからない」
アニーはルークの心が開かなかったことを感じて、少し残念に微笑みました。
「いないなら、私がなってもいいよ。そんなの寂しいだろうから」
「悪いよ、そんな。重すぎる。アニーに迷惑だ」
ルークはそう首を振って、
「おじいちゃんはどんな人なの?」
と話題を変えました。
「おじいちゃんは、昔伝説の冒険者だったんだよ。ドラゴンや魔王軍の残党を何人も狩ったんだ」
ルークはそれを聞くと、あることを思いつきました。
「おじいちゃんに修行をお願いしたいんだ」
ルークは、もう敗北の味を感じたくありませんでした。




