第17話 魔王軍
一方そのころ、南部では、魔王軍が次々と諸侯を攻め落としていました。
ある村を制圧すると、抵抗するものは女性や子供を含め、魔王軍は皆殺しにしました。
抵抗しなかった人間は並べ、魔王の前に謁見させました。
魔王の左右には、弓矢を持った魔人がいます。
一人目は、垂れ目の若い女性でした。
「俺のことが好きか?」
魔王が突然、問いかけました。
「どういう意味でしょうか……?」
「俺のことを愛しているかと聞いているんだ」
その女性は、きょろきょろとした後上目遣いで、言いました。
「好きです」
「そうか」
するとたくさんの矢がはなたれ、女性は死にました。
「俺のような醜い男を、女が愛してくれるわけがない。
だから、お前は噓つきだ」
二人目、また若い女性です。
今度は、鼻が高い人でした。
「俺のことが好きか?」
魔王はまた聞きました。
「いいえ」
「俺は、俺を愛さない女が嫌いだ」
たくさんの矢がはなたれ、女性は死にました。
三人目、また、若い女性でした。
「俺のことが好きか?」
「何も思いません。興味がありません!だから、私は早く解放して!」
たくさんの矢がはなたれ、女性は死にました。
「俺に興味を持て」
次は白髪のおじいさんでした。
「男は嫌いだ。話を聞きたくない。さっさと殺せ」
たくさんの矢がはなたれ、その老人は死にました。
皇帝を中心に魔王軍対策会議が始まりました。舞台は宮殿の会議室です。白い大理石で大きな天井の上には、美しい壁画が書かれています。
「女神の預言書によると、再び勇者が現れ、復活した魔王を殺すと」
リリース卿が言いました。
「千年前の与太話を本気で信じているのか?そんなものを待っていたら、魔王が首都『アミューデルト』まで来てしまう」
そう反論するのは、ニード卿です。
「ならば、いかがいたしましょうか。皇帝直轄の皇立騎士団を動かしますか?」
ブランチ卿、木綿工業で財を成した新興貴族です。
「そうだ。それがいい! 早く始末してしまえ!」
「しかし、これまた随分と金がかかります。戦のたびに、規定の手当を支払わなければなりませんから。
今のわが国の財政を考えれば、決して喜ばしいことではないかと」
ブランチ卿がニード卿を窘めました。
「う、うーん」
「大丈夫ですよ。預言者がそのうち来て何とかするでしょう。
その間、近隣の諸侯になんとかさせましょう」
「まだそんなことをおっしゃられるのか! リリース卿。
大体、その間に魔王が来てしまったら……」
「ニード卿。魔王の進軍速度は極めてゆっくりです。周りの村を略奪して回っています。まだまだ、首都にはこないでしょう。もう少し後で対応しても間に合います。
我々が直接動くには金がかかる。できれば避けたい。前回もちょうど都合よく勇者が現れ、魔王を封印してくれた。
今回も来るかもしれません」
「う、うーむ。しかし、民衆は……」
ニード卿は言いくるまれてしまいました。
「恐れながら、陛下のご意見を承りたく」
ブランチ卿が、頃合いを見計らって言いました。
「近々、宮殿の改修を予定しているのだろう?金がかかるのは嫌じゃ」
皇帝の意見に、リリース卿はにんまりと笑いました。
「ニード卿、出撃命令はでましたか?!」
会議を終え、ニード卿は待ち構えていたに詰め寄られました。
「急かすな。騒がしい、騎士団長」
「しかし! 村が荒らされているというのに、私たちは待機などできません!」
「うーむ」
ニード卿は、ブランチ卿とリリース卿をちらりと見ると、騎士団長を連れ、彼らと反対側の廊下へ行きました。
「事態は芳しくない。現状維持、当分は預言者に書かれた勇者の出現を待つことにすると」
ニード卿は、騎士団長にひそひそ話をするのでした。
「預言者に書かれたことを待つ?! ふざけているんですか」
「だが、前回は確かに、勇者が現れ魔王を封印した。今回も待つ価値はあるかと」
「ニード卿はそんなものを信じておられるんですか?千年前の話ですよ」
「私だって信じていない! だが、騎士団を動かすには金がかかる。まだ、魔王は首都から遠い。
分かるだろう? これ以上借金が増えたら、商人だって金を貸してくれなくなる。
それに、首都が危機になったら、騎士団を動かす」
「放置すれば、地方の民衆が死にます。そういうことですか?」
「そういうことだ」
「クッソ! そんなのって」
騎士団長は苛立ち交じりに、足を踏み鳴らしました。