第16話 メアリの誕生日
ルークはそれから間もなくして、居酒屋のアルバイトをやめました。
無職です。
メアリは、それをうれしく思いましたが、同時に相変わらず怒りに近い違和感を持ち続けていました。
メアリと同様、ルークも、ふらっと散歩をするようになりました。
いつも、メアリが出かけた後、少し待ってから、ルークも出かけていきました。
「このパーティーに、無職を養う余裕なんてないんだけど」
ある日、ルークが出かける直前、ジュリアは言いました。
「そのうち仕事を探すよ。……メアリはどうなんだ?」
「あー。あの子も。あの子も大概よね。そろそろ働いてほしいわ。
あの子には、なんか言いづらいんだけどね」
「ジュリアは今日、予定あるの?」
「今日? 今日はない。一日、暇」
「じゃあ、付き合ってよ」
「え?」
「誕生日プレゼントねえ」
「そう。そろそろ、メアリの誕生日なんだよ。十六歳かな」
「なるほどね」
ジュリアとルークは、メアリの誕生日プレゼント探しに出かけました。
露天商を回っています。
「そこでネックレスをあげようかなって。バイト代もあるし」
「重すぎる。狂ってんじゃないの、あんた」
「ええ。そこまで言う?」
「いや、でも、メアリもルークにぞっこんだし、ありなのか……?」
ジュリアが小声で言いました。
「なんて言った?」
「いいの。とにかく、私だったらそんな重いプレゼントうんざりだわ。
食べ物とか消え物のほうがいいと思う」
「食べ物かあ。メアリ何が好きかな」
「ケーキが好きだったと思う。前に話してくれた」
突然、ジュリアはルークを引っ張って、物陰に隠れました。
「しっ!」
「おい、いきなり何するんだよ」
「いいから」
ジュリアはそっと物陰から、見ました。ルークも一緒にいました。
視線の先にはメアリがいました。どうやら、お店を回っているようです。
メアリはどこかを見ているのですが、それがどこなのかは分かりませんでした。
店員さんが声をかけても、いつも一拍遅れて反応するのでした。
「メアリ、元気ないな?」
「あんた、本当に気づいてないの」
「なあ、メアリが元気ない原因って俺のせいなのか?」
「そうだけど、でも、私からは言うなってことだろうし。
というか、そんな難しいことでもないんだから、自力で察しなさい」
ジュリアは、イライラした口調でした。
「まあでも、良かった。メアリの誕生日を忘れていなかったのね」
「なんでだよ。当たり前だろ」
「だって、あの女に夢中じゃない。ルーク」
「別に、関係ないよ。メアリは仲間だ」
「恋と仲間は別って言いたいわけ?
私はあんたが誰を好きになろうが知ったことないけど、そう思わない人だっている。
大体、あんな女のどこが良かったの?」
「俺、どうして、ミアのことが好きだったのか思い出せないんだ」
「あら、重症ね。もうおしまいかしら」
「そうかもしれない」
ルークは、ため息をつきました。
ジュリアは相変わらず苛立ちを持っていましたが、和らぎました。
「まあ、実らない恋だってある。そんなもの。
それより、さっさとメアリのプレゼントを買って帰りましょ。メアリは、フルーツケーキが好きだって」
そうして、ルークとジュリアは、メアリの誕生日プレゼントにフルーツケーキを購入しました。
夜、突然、ランプを消しました。メアリが驚き、周りを見渡しました。けれど何も見えません。
怖くなりました。
ジュリアとルークは、ろうそくを刺したフルーツケーキを持ってきました。
「メアリ、誕生日おめでとう!」
ルークとジュリアが言いました。
メアリがぱあっと笑いました。
ランプがつき、窓の外の景色が見えなくなります。
「ありがとう。買ってきてくれたんだ」
「うん。メアリ。最近話せなくて、ごめんね」
ルークは言いました。
「ううん」
こうして、ルークとメアリとジュリアは三人でフルーツケーキを食べ、誕生日を祝いました。
そして、夜。疲れた三人は眠りました。
寝る時、メアリは、今日の誕生日会のことを思い出しました。
楽しかったです。三人で久しぶりに、遊んだ気がしました。
けれど……
ケーキよりもネックレスとかの方がほしかったかも……、とメアリは思いました。
ルークがどこか特別なものをくれるものだと期待していたので、メアリは少し寂しい気持ちになったのでした。