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第14話 ルークの失恋

 ルークは、ミアの支えもあり、ますますアルバイトに打ち込んでいきました。


 ジュリアの攻撃によって、五メートルのイノシシが音を立てて、倒れました。

「流石、ジュリア!」

 パーティーメンバーが言います。

 ジュリアはピースをしました。

 あるパーティーに臨時で参加しているジュリアも、活躍していました。


 メアリは、自分をごまかすよう、ずっと雑貨屋巡りに精を出していました。

 そろそろこの街、全ての店舗を制覇しそうです。




 ルークとミアの最初のデートから、二週間。


 いつもようにアルバイトを終えると、ミアが近づいてきて、一つの手紙を渡しました。


「はい、どうぞ」

「どういうことですか?」

「招待状。三日後の舞踏会で、私と踊ってほしいの。ルークに頼みたいの。

お願いできる?」


 ルークは頭の中が真っ白になりました。


 それで固まりました。ミアは不思議そうに彼を眺めていました。


「はい。ミアがいいなら、喜んで。でも、服がないんです。舞踏会なんて」

「私が貸すよ。安心して。この後、私の家においで」


 ルークは、緊張で心臓が高ぶりました。




 アルバイトが終わって、夕方。

「どうぞ入って」

「お邪魔します」

 ミアの家は、中心部から離れた城壁の近くにありました。家と家の間隔はきわめて狭いものです。

 玄関は、スニーカーを二足おけば、それで横は満杯でした。ですから、ルークはミアの前に置いたのです。


 隣にある下駄箱を除くと、男物のスニーカーが置いてありました。

 ルークは不思議に思いました。


 廊下からは三つの部屋に行くことができました。ミアはまっすぐと進みました。

 ルークは、進んでいいものか迷っていました。他人の領域です。


「おいで。入っていいのよ」


 ミアに催促され、ルークは入りました。


 その部屋には、ベッドと机、そしてクローゼットがありました。

 ミアは、クローゼットの中を探しました。


「ああ、私の部屋にはないか」


 ミアはそう、独り言を言いました。

「ちょっと待ってて、ルーク」

 そういうと、ミアは部屋を出ていきました。


 ルークはきょろきょろと見渡しました。

 人の生活している場所というのは、その人独特の匂いがするものですが、それがミアのものだと、ルークは分かりました。

 壁下の汚れも、それはミアがいつもここにいる証拠なのです。


「はい。サイズとかあっているかな」


 ミアは、スーツ一式を持ってきました。


「ありがとうございます」

「試着してみて」


 ミアはそういって、部屋を出ていきました。


 ルークは着替え、再びミアを呼びました。


「どうですか?」

「うん。似合っている。とてもかっこいい。素敵」

「ありがとうございます」

「良さそうね。それを持って行って。三日後、時計台の下で待ち合わせしましょう」




「まーた、変なものもらってきている。あの女に貰ったの?」

 宿で、持ってきたスーツ一式を確認しているルークを見て、ジュリアが言いました。


「借りた。舞踏会に出るから」

「変なことしているわね」

 ジュリアは興味なさげに言いました。


「そういえば、メアリとも話しなさいよ。少しは気を遣って」

「ああ。確かに、最近話せてないかも」


 そう思って、メアリに近づきました。


「メアリ、お疲れ様。今日はどうだった?」

「……」

「メアリ……? 最近どう?」

「……」

「メ、メアリ……?」

 メアリはルークを無視し続けました。


 ルークは困りましたが、どうすることもできませんでした。

 結局、寝ることにしました。




 三日後、ルークとミアは時計台で待ち合わせをして、


 ミアは、オフショルの赤いドレスを着ていました。


 しかし、参加しているメンバーをよく見てみると、貴族ではなく町民たちです。


「庶民階級でも、こんなことをするんですね」

「金持ちのものまね。楽しいからね」


 ルークは、ミアと共に座り、お菓子を食べました。

 談笑をしました。

 ルークは、ミアの将来の話を聞きました。

 ミアは夢があるそうです。でも、夢の詳細を語りませんでした。


 ミアはお酒も飲みました。


 音楽が鳴りました。ルークはミアに連れられ、踊り始めました。


 分からないルークのことを、ミアは引っ張り、導きました。


 ルークは本当に甘い時間を過ごしました。

 そこには白い砂糖が舞っています。

 その砂糖は空気と交わり、暖かく光り、緩やかな花のにおいを放ちます。

 それがルークとミアとの間に、待って、二人を結び付けました。

 お互いが柔らかなそれと触り、やすらいでいました。




 同じ頃、メアリはルークのことを考え、夜空を眺めていました。

 月光が、机から反射され、メアリに当たりました。

 その光はメアリをどこかへ連れて行こうとしていました。

 けれど、メアリにはどこかへ行く勇気がありませんでした。


 メアリは突然泣き出しました。机を濡らしました。


 ジュリアがやってきました。ジュリアはキツイ言葉を投げかけようとしてやめました。


 月光がジュリアを優しくしたのです。


 ジュリアは、目を赤くするメアリに向かって言いました。


「そんなに想っているなら、素直に伝えればいいのに」




 ルークとミアはパーティーを終え、帰路につきました。


 ルークはミアを家まで送りました。


「家に寄っていきなよ」

「もう夜遅いですよ。帰りましょう」

「いいから」


 ミアはフラフラとしながらも、自分の部屋にルークを案内し、椅子に腰かけるようにいました。

 そして、ランプで部屋の明かりをつけました。


 ミアはそのまま、何も言わずに出ていきました。


 暗い中、ランプだけは不気味に光り輝きます。


 ルークは急に怖くなりました。

 ここにいてはいけない気がしましたが、ミアを置いて逃げ出すこともできませんでした。


「ルーク」


 ミアがやってきました。

 ルークがうれしそうに振り返り、そして固まりました。


 もう一人男性がいました。あごひげを蓄えた細身の、やけに老け顔の男性でした。


 ルークはわけがわかりませんでした。


「あの、その方は?」

「私の夫のデット。紹介していなかったよね?」

「え? すみません、あの……」

 ルークは思わず謝ってしまいました。


 そのデットという男性は、ばつが悪そうに、そっぽを向きました。


「あのさ、ルーク。お願いがあるの」

 ミアが静かに口を開きました。


 ルークは、ただうなづきました。


「私たちね。夫婦なんだけど、子供がいないのよ。

お医者さん曰く、私の体質に問題があるらしくて。

でもね、子供を持つのが夢だったの。

ルークと一緒にいて、私、いとおしくて可愛いと思ったの。

もう、十五歳になるのにね。それでも可愛くて。


だから、ルーク。私たち夫婦の養子にならない?」


 ミアの声には熱を帯びていました。


 隣の男性は、ただ逃げ出したいように、視線を上下右左と動かしていました。


 ルークはただ肌を、針金で引っかかれたように、延々と傷ついていました。


 ルークは自立していると言っていた彼女が、急に幼稚な駄々っ子に見えてきました。


「だから、助けたんですか? 俺を」

「うん」

「対等ではなく?」

「困っていて、可哀そうだったから」

「哀れみから?」

「そうね」

「俺は子供ですか?」

「もちろん」


 ルークは初めて、ミアに対して激しい怒りがわきました。

 ルークは自分の存在を否定された気分になりました。


「そんなもの必要ありません。さようなら!」


 ルークは立ち上がり、ミアの家から出ました。

 それで、泣きながら、走って宿に帰りました。


「あら帰ってきた。遅かったわね」

 ジュリアが言いました。そして、ルークの顔を見て、真剣な顔をしました。


「なにかあったの?」

「別に、なんでもない」


 メアリはルークの顔を見て、何が起きたのか、察しました。


 破局したのです。メアリが望んだことでした。

 嬉しいはずなのです。

 ですが、それを喜んでいいのか、メアリには分からなくて、

 メアリもまたとても苦しい気持ちになりました。


「ねえ、何があったの?」

 ジュリアは、それでもしつこく聞きました。

「何でもない」

「教えなさいよ」

「好きな女性が既婚だったんだ!」


「あははははははは!」

 ジュリアが突然、それを聞いて、笑い出しました。

 メアリは、顔を真っ青にして、縮こまりました。

「笑うなよ!」


「ごめん。ごめん。でも、笑うしかないでしょう!

あんたも災難ね!!」

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