第13話 ミアとデート!
「ルーク。あんた急に荷物から服あさって、どうしたのよ」
「いや、ちょっと、出かける用があって。おしゃれな服あるかな」
デートの誘いがあった翌日の早朝。宿での出来事です。
ジュリアがルークに声を掛けました。
メアリはきょとんとしています。
「デートでもするの?」
「いや、違う! そういうんじゃない」
「ふうん。デートか! やっぱりデートか。
あんたも物好きなことするわね。あんなことするなんて」
「だから違うって!」
「デートの準備くらい、前日に済ませておくことね」
ジュリアは笑いました。
メアリがぎょっとした顔で、ルークを見ました。
待ち合わせの約束した時計台の下、ルークは待っていました。
ルークは半信半疑でした。自分がデートをするなんて。
だから、来ないものだとさえ思っていました。
「つけて行って、大丈夫なのかな……」
「いいや、あんたが言い出したんじゃない。なんで、私に責任を押し付けるのよ、メアリ」
建物の陰に、密かに後をつけてきたジュリアとメアリがいました。
すると、ミアがやってきました。花柄のワンピースを着ていました。
ルークを見るとにっこりと笑います。
それがルークを捉えて、締め付けました。
ぎこちなくルークも応じました。
「待った?」
「いいえ。今着いたところです」
「そう。良かった」
メアリは目を大きく開き、逃さないように凝視していました。
「メアリ……? 大丈夫? 帰る?」
「ルーク、好きな人がいんだ。しかもあんな年上……」
「男なんだから、そんなもん。
男は、みんなマザコンでしょう。恋愛なんてしないに限る。
分かったら、とっとと帰りましょ。雑貨屋に行ったほうがいい」
「ううん。もう少し、ついていきたい」
ジュリアはそれ以上行っても、無意味に傷つくだけだと思いましたが、
メアリがそういったので、従いました。
「あの、デートプラン考えてきたんです」
ルークがミアに言います。
「あら、嬉しい。どんなの? 教えてよ」
「あっちの山が見晴らしがいいみたいなんです。そこがいいかなって」
「山……」
ミアは見つめました。
「確かに、きれいな景色をみたいね」
「でしょう! 俺が案内しますよ」
「でも、ちょっと遠いのがネックね」
「確かに……」
「町の小高い丘にしましょう」
「でも、せっかくのデートだから」
「いいの。私はルーク君といられれば、幸せだもの。
君は違うの?」
ミアはルークに微笑みました。
「いいや……もちろん」
またです。それはまた、ルークを締め付け、拘束し、動けなくするのです。
そうして、ルークとミアは小高い丘に行きました。
デートの途中、街道で、子連れの家族が歩いてきました。
父と母と六歳くらいの小さい娘との三人でした。
ミアはそれをゆっくりと視線で追いかけました。
じっとりと、何か思いつめたように……。
「どうかしましたか?」
「ううん。何でもない」
ミアはそう言って、笑いました。
次に、雑貨店に行って、お揃いのアクセサリーを買いました。
鍛冶屋に行って、二人で飛び散る炎を見ました。
ルークは、いつもミアが自分のしたことを肯定的に承認してくれるのがうれしかったのです。
それでいてミアが、単に自分を必要としてくれるのではなく、どこか母のように守ってくれるのが幸せでした。
いつも自分を立ててくれるのに、いつもどこかで守っているのです。
夕方、再び、小高い丘に戻ってきました。
「あっという間だったね」
「うん」
「ルーク君が一緒にいたからかなあ」
「その、ルーク君っていの」
「うん?」
「やめませんか」
「じゃあ、ルーク?」
「はい。ミアさん」
「私もミアって呼んでよ」
「そうします。……ええと、ミア?」
「あはははは!」
ミアが突然大きな声で笑いました。
「なんで笑うんですか」
「だって、ルークが照れているんだもの。なんてかわいいの。面白くて」
「笑わないでください」
夕陽が、ルークとミアを彩りました。
「また、デートしましょうよ」
ミアが言いました。
「もちろん」
ルークが答えました。
ルークが、デートから帰っている途中、突然声がしました。
「ルークやルーク」
「女神。お久しぶりです」
「あの女が好きなのですか? あんな女やめておきなさい」
「ええ? ミアのことですか? いい人ですよ」
「ああ。もう! 私の言うことが聞けないというのですね!
もう結構! とにかく、あんな女やめておきなさい!」
女神はルークに怒鳴りつけて、そのまま消えてしまいました。
ルークは不思議そうに首をかしげました。
ルークが宿に戻ってくると、ジュリアとメアリがいました。
メアリが大きく落ち込んでいるのがわかりました。
「メアリ? どうした? 何かあった?」
「ううん、何でもない」
「いや、なんでもありそうな感じだけど」
ルークはジュリアに聞いてみることにしました。
「ジュリア、メアリに何かあったの?」
「察しが悪い男ねえ。あんたってやつは」
「どういうこと?」
「そりゃあ、メアリという可愛い子が……」
すると、メアリがギュッとジュリアの腕をつかみました。
どうやら、言うなということらしいです。
「分からないなら、今は黙っておくことね」
「うん?」
ルークはますます困惑するのでした。