第12話 バイトに慣れた?ルーク君
こうして、ルークは居酒屋でアルバイトを始めました。
実はというと、メアリはパーティー全員でいたいとこのバイトに反対したのですが、
ジュリアの後押しもあり、結局新しいことがしたいとルークが言い、押し切りました。
お店の店長さんは、頬にくぼみのある男性でした。こちらも三十歳くらいでしょうか。
「俺はルークっていいます。よろしくお願いします」
「ルーク君ね。私はミア。あっちは店長のアンソニー。こっちは厨房係のエドとマーティン」
「ミアさん。よろしくお願いします」
注文の取り方を教えてもらったのち、ルークは初めてオーダーを受けに行きました。
「カニの味噌煮と山菜の和えも、あとアイスクリームを」
想像よりも早いペースでした。ルークは必死でメモを取ります。
「すみません!」
ルークは、メモを書き終えている途中、別のお客様に呼び止められました。
「このズューンの蒸し焼きを一つ」
「はい」
慌てて、書き加えました。
ルークは厨房に入り、注文を伝えます。
「カニの味噌煮と山菜の和えと、ズューンの蒸し焼きと、……ええと……あれ?」
ルークは何か重要なことを忘れている気がしました。
そうです! 注文は三つありました。
なんだろうと必死に思い出そうとしますが、思い出そうとすればするほど、どんどんとそれは奈落の奥底へ落ちて行ってしまいました。
厨房係が無言でせかしているのがわかります。
「アイスクリームだよ。ルーク君」
すると隣に、ミアが立っていました。
ミアはルークにウインクをします。
「すみません。ミアさん」
「ううん。全然。メモを書き終えてから、次のテーブルに行くといいよ
また、何か困ったら行ってね」
ミアのサポートもあり、ルークは順調に居酒屋のアルバイトに慣れていきました。
ジュリアも別のパーティーの魔法職の仕事を、臨時で引き受けて、それでお金を稼ぎました。
メアリはというと、仕事もせず、ただ雑貨屋を回り、それが終わると、バイト帰りのルークを待つという日々を過ごしていました。
一週間ほどたった時、ルークはミアと一緒に帰りました。
「バイトに慣れた? ルーク君」
「ええ。おかげさまで」
「良かった」
「ルーク君はここの住人じゃないよね」
「ええ。北方の諸侯出身です」
「へえ。すごい」
「ミアさんは、どこ出身なんですか?」
「私は南の方の村から来たんだ。もう十二年前かなあ」
「どうしてですか?」
「地元で色々嫌なことがあってね。だから仕事を求めてメアテに出てきたの。自由になりたくて」
「大変でしたね」
「でも、おかげで自立した女になれた。給料はそんなに高くないし、家も狭いけれど」
「自立。自立ってなんなんですか」
「うーん。私もわかんない。自分で生活費を稼いで、自分で家事することなのかな」
「俺もいつか自立できるのかな」
「自立しているんじゃないかなあ。その歳で、自分たちでお金を工面しているんでしょう? すごいことじゃない」
「パーティーは三人?」
「はい。ジュリアとメアリと言います」
「まあ、女の子二人と」
「そうです」
「女の子二人もいて、ほっぽりだすなんて、ルーク君もひどい子ね」
「いや、そういうんじゃないです。今も、宿で一緒にいて楽しいですし。
ただ、不安になったんですよ。ここにいていいのかなって。代わりがいる気がして」
「不安なんだね。分かるよ」
「分かるんですか」
「うん。一緒にいて楽しいのと、いていいのかは、別問題じゃないかって、私も思う」
ミアは近づいてきて、微笑みました。
「ねえ、お姉さんとデートしよっか」