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第10話 森林での出来事

「水がない! 助けてくれ!」


 ルークが叫びました。


 メテアを目指し南下し始めてから、一週間ほどたちました。

 

 ここは森の中の獣道。飲み水など見つかりません。


「だから、言ったのよ。あの集落で水を多めに買っておこうって!」

「しょうがないだろ! こんなに間隔が長いと思っていなかったんだから!」

「でも、このままだと渇き死ぬわ! 今から戻っても、この水の量だと足りない」

「どうするか……」

 ルークはため息をついて、座り込みました。


「湧水を探す……とか……?」

「湧水なんてこの辺りにあるのか? 仮にあっても、飲み水として使えるものなのか」

「それは、わかんない」

 メアリは肩を落としました。


「いいんだよ、アイデア出してくれてありがとうね」

 すると、メアリはにっこりと笑いました。


「行商人でも探す?」

「こんな森の中に行商人なんて」

「いなさそうよね」


 ジュリアはため息をつきました。


「女神様に頼んでみるか?」

「あんまり気が進まないのよね。何をするかわからないし、女神」

「でも、心優しいから助けてくれるかもよ」

「メアリはお花畑ね」

 ジュリアは呆れました。


「女神様。水をお恵みください」


 すると、白い霧があたりを覆いました。


「あれ……?」

「今回、この空間に呼んだのはルークだけですよ。あなたは、私が特別に目をかけている存在ですから」

「あ、ありがとうございます?」


 ルークのたどたどしい姿に、女神は微笑みました。


「ああ、水がほしいんです。水がなくなってしまって」

「あらまあ。あの集落でたくさん水を買っておけば。自助が足りていないのではないでしょうか」

「う……」

 女神の言葉に、ルークは詰まりました。


「次から気を付けますから、そこをなんとか」


「うーんとじゃあ……。

私の頬にキスをしてください」

「え?」

「私の頬に、さあ、キスを……」

「ええと」


 ルークは言葉の意味をよく理解できず、ただ呆然としていました。

 それもそのはず、女神の言葉は随分と早口だったのです。


 すると、女神は顔を真っ赤にして、


「私の話を聞けないというのですか! 私は偉大な女神ですよ! 私には素晴らしい計画があるのです!」

 突然叫びました。


「乙女に恥をかかせるなどと!!」

 女神の叫びが続きました。

 すると突然、地面が揺れ、西のほうから黒煙が上がりました。火山があるところです。


 蓋になっていたであろう最初の岩石が、吹っ飛びました。このままでは、大惨事になります。


「女神様! 分かりましたから、怒らないでください!」

 ルークは必死でなだめました。


「もう、結構! 私の偉大さなんて、誰にもわかってもらえないものなのです!」


 すると霧が晴れ、再び森に帰ってきました。


「あ、戻ってきた。ルーク! またあんた女神相手に何かしたでしょう! 火山が噴火寸前だったわ!」


「女神様に安易に頼らないほうがいいかもしれない。こう、すごい変な奴だ」

 ルークが顔を真っ青にして言いました。

「やっぱりね。女神なんて胡散臭いわ」


「ルーク! お水、あったよ」


 メアリが叫びました。


「おお! やったぞ、メアリ」

「突然、女神様の声がして、ついてきてって。そしたらその先に、湧水があって」


「早速案内して」

 ジュリアが催促します。


 獣道を逸れ、肩の高さまである草をかき分けて進みます。


「この湧き水飲めるの?」

「女神様が飲めるって言っていた」

「本当? じゃあ、飲んでみなさいよ、メアリ」

「え……」

「臆病者ね。私も女神をあんまり信用してないから、飲みたくないけど」

 ジュリアは鼻で笑いました。


 ルークは、いつ激怒した女神が再び降りてくるか、怯えました。


 ジュリアは冷めた目でルークを見ました。

 メアリは懇願するように申し訳なさそうに、ルークを見ました。

 どうやら、ルークがこの水を飲んで試せということらしいです。


 ルークは恐る恐る水を含ませました。


「おいしいぞ。大丈夫そうだ。女神様、ありがとうございます」


「まあ、いいんじゃないかしら。飲みましょう」

「こいつ……人を盾にて……」

 ジュリアはルークの恨み言を聞こえないふりして、ごくごく飲み始めます。

 メアリも恐る恐る飲みます。最初の一口。


 みんな安心しきって、水をごくごくと飲んでいます。


「ところで、おなか空いたなあ。鹿肉を食べたい」

「馬鹿。鹿肉食べると、また地面が揺れるでしょ。水で腹を膨らませなさい」

「ええ」





 それから、ルークたちは森の中で小屋を見つけました。


 ノックをしてみると中から、大きな白ひげを蓄えた小柄のおじいさんが出てきました。


「おお。若い者が訪ねてくるなんて珍しいね。なんのご用事か」

「いえ。小屋があったので、ノックしようかなと。彼女の勧めで」

 ルークがジュリアを指さすと、ジュリアは憤慨しました。

「ちょっと、私のせいにするつもり?! ルークが言い出したんじゃない」


「そう、喧嘩なさらないで。いかがですか、お茶でも」


 ルークとジュリアは顔を見合わせました。


「まあ、そういうならご厚意に甘えて」


 小屋の中は、思ったよりも広々としていました。

 キッチンとリビング、そして、奥にはベッドがあるワンルームになっています。

 カウンターには、おじいさんとおばあさんの写真が飾られていました。

(魔法を使って、紙に焼き付けたものです。これを作るには、魔力を反射する特殊な施設に行って、数分間そのままの姿勢で待つ必要があります)


 おじいさんは、紅茶を入れていました。


 三人はそわそわしながら、リビングテーブルに座って、待ちました。


「紅茶をどうぞ」

「ありがとうございます」


「こんなホイホイ家に上げてしまって、大丈夫なの?」

「私は優しさを大切にする女神様の信徒です。旅人との出会いを大切にしたいと考えています」

「こいつ、女神と話せるんですよ」

「ははは。びっくりする冗談をなさるんですね」

 ジュリアの言葉に、おじいさんは笑い出しました。


 ルークは女神の怒りを思い出し、それが優しさとどう結びつくのか困惑していました。


「皆さんはどちらを目指されているんですか」

「メテアです」

「いい場所ですよ。異国からの物珍しいものもある」


「ところで、女神の信徒とはどういった人なのでしょう?」

 ルークが聞きました。

「女神を信ずるもののこと……というのはそのまますぎますね。まず、世界の成り立ちからお教えしなければなりません」


「この世界は元々、一人の女神と二人の男神がいました。

一人の男神は女神と結婚し、もう一人の男神は誰とも結婚できず、神から魔王へと堕落しました。

人間は女神によって産み出されました。文字通りに産み出されたのです。

しかし、女神と結婚した男神は、人間の誕生とともに死んでしまいました。

だから、今、神は女神様しかいないのです。

その偉大な女神様を愛すること、それが女神様の信徒です」

 おじいさんはゆっくりと世界の成り立ちについて説明しました。


 おじいさんはカウンターの写真を持ってきました。


「私は内気な少年でしたがね、妻と出会ってから変わりました。

彼女は女神様の信徒で、私に優しさというものを教えてくれいました。

つい二年前ほど、亡くなってしまいましたが」


 三人は、おじいさんと会話をしました。


「そろそろ行きましょう」

 三人は立ち上がりました。


「どうかお気を付けて」

「ええ。興味深い話が聞けて良かったです。ありがとう」


「紅茶おいしかったですよ」

 ルークが付け足すと、おじいさんはうれしそうに笑ったのでした。


 さて、メテアはもうすぐです。

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