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怪談   作者: ニビ
8/8

やちぼうず


 やちぼうず、って知ってますか?


 ああいえ、妖怪とかじゃないです。方言、になるのかなあ。あの地方に行けばだいたい通じる言葉なんですけどね。

 あそこで一番有名なのは湿原なんですよ。日本でも有名な広い湿原があって、観光地になってますよね。展望台もあるし、湿原の中を散策できる木道なんか整備されてて。夏に歩くとなかなか面白い場所だったりしますよ、湿原は。

 ああそう、それでその湿原の植物がね、冬になると当然枯れるわけです。ただ枯れても葉っぱや茎の全部が雪の下に埋まるんではなくて。枯れた葉の束がもさーっと雪の上に出てるんですよね。それがやちぼうず。


 それがね、とっても人の頭に似ているんですよ。


 やだなあ、露骨に嫌な顔しないでくださいよ。これが一番イメージしやすい表現なんですから。

 あれ、イメージできないですか。まあそうですよねえ。見てもらえば一発なんですけど。


 さっきも言ったように、あの地方の湿原は観光地なんですよね。

 私は昔、といってもほんの幼い頃のことなんですけど、そこに行ったことがあるんですよね。

 まあ家族旅行です。家からかなり遠い場所なのに、なぜ両親がそこを選んだのかいまだによく分かりませんね。今になってなんであのとき、って聞くのも変な話ですし。

 その湿原でね。親と一緒に散策していたはずなんですが、記憶の中では私はひとりなんです。なんだか薄白く曇った空の下、真新しい木道の上で私は湿原を眺めています。

 ひとくちに湿原といっても、なんせ観光地になるほど広い場所なので、やたらと開けた場所から、木が生い茂ってる場所まであるんですね。 

 記憶の中で私が眺めているのはその木が生い茂ってる場所に近いところです。

 木道から手を伸ばせば触れられるほどのところにその、やちぼうずがありました。

 何を思ったか、私はそれに手を伸ばしました。それこそまるで人の頭にするように、その前髪をかきあげるように、手前側の草をそっとかきわけたんですね。

 私がこのときの記憶を「思い出」と言えず、「記憶」としか言えないのは、その草をかきわけたときに見えたものが今思い出しても現実と思えないからです。


 そこには「目」がありました。


 ぬらぬらした白目と、はっきりこちらを見ている黒目。


 その黒目が、間違いなく自分を認識しているのだとわかった瞬間から、私の記憶は途切れています。

 だからこの記憶は夢なのだと思います。いえ、より正確に言えば夢なのだと思っていました。つい先日までは。

 こないだ、実家に帰ったとき、何気なくアルバムを見ていたらその家族旅行の写真が出てきたんですよ。なぜか、アルバムの最後の方、何も写真が入ってないページを何枚か挟んで。

 写真は、木道の上で家族三人、両親と私が満面の笑みでカメラに向けてピースサインを作っています。木道の奥に小さなやちぼうずが映っていて、その葉の隙間から何か見える気がしなくもないですがまあそれは光の加減とかでどうとでも説明つきますから。

 ひとつ。私はそんな写真撮った記憶ないんですよね。まあそれだけなら単に私が変な夢を見て、覚え違いをしているんだと、そういうことなのでしょうけど。

 その写真の裏に、細いサインペンで「〇〇(私の名前です)に見せないこと」って書いてあったんですよね。


 両親にその理由は聞けてないです。そのアルバム自体、他のアルバムと別にして、押入れの隅っこの重い段ボールの下敷きになってましたから。


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