椎茸取り
祖父母の紹介で、バイトをすることにした。椎茸の収穫である。幼い頃から祖父母の手伝いをしていたので、勝手は分かるのが楽だと思い、そのバイトをすることにした。故郷から十数キロ先の、針葉樹の多い山である。
かつての政策だかなんだかで杉や檜が多い。下生えの少ない、薄暗い針葉樹林特有の林床の合間を縫うようにして、椎茸の菌を植えつけたホダ木が並ぶ。互い違いに組み合わせるように整然と並ぶホダ木から、やや不揃いな椎茸がにょきにょきと生えている。私にとっては幼い頃よく見た景色であり、懐かしさすら覚える景色だった。
「こげ遠いとこまでよう来たっちゃなあ。ヤマウチさんのお孫さんっちゃあ久々に見たよ。出来がいいっち言うて、ヤマウチさんも嬉しそうやったわ」
「どうも、ヤマウチです。お世話になります」
無愛想にならない程度に挨拶を交わし、長くなりそうな会話に曖昧に頷きながら、手を動かす。祖母に似た老婆は話し好きらしく、しょっちゅう楽しげに話しかけてくる。
「おおい、⬛︎⬛︎が出ちゅうで」
ホダ木の三列分ほどを収穫した頃だろうか、道路をひとつ隔てた下の山で同じく収穫をしていた老爺が私達の元へ歩いて来た。言うまでもなく、この人は私と作業をしている老婆の主人である。
「あら、なしかえ。昨日も出よったやん」
「知らんわ」
私を置いて、二人で何かの話をしている。どうも動物っぽいのだが、聞いたことのない名前だった。
「あの、⬛︎⬛︎っていうのは…」
好奇心に負けて、つい聞いてみた。
「ああ、ヤマウチさんのとこには出んかね。向かいの山に出るんやけどね。なんちゃあいいの、白いね、案山子みたいなんが見えるんよ。木の上におるんかしれんね。別にそいだけなんやけど、⬛︎⬛︎が見ゆっと雨になっことが多いけんね、引き上げた方がええね」
「はあ…」
よくわからないが、白い案山子のようなものが向かいの山に見えるらしい。
「あとねえ、⬛︎⬛︎が見ゆっとたまにそん山から出てこんようなる人もおるけんね、私らは帰るんよ」
「え?」
「街の方から山に来る人がおるんやけどな、車だけ置いて戻ってこんようなるの。あん山。最近はあんまないらしいんやけど、なんか嫌やけんねえ」
「あいもそうやったやろが。あのー、テライさんとこ娘さんが帰ってきたっちゆうちょったんにあん山に行っちから帰ってこんきやが」
「そうやったかなあ」
二人は思い出話をしながら、オレンジ色の硬いプラスチックでできた背負子を背負い始める。ぎっしり椎茸が詰まったそれは見るからに重そうで、手伝います、と言って私は背負わせてもらった。
山を降りながら、例の向かいの山が見えたので、歩きながら目をこらして見た。
木の上に、白い人型があるのが、確かに見えた。