表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

なんか誘拐された。

はじめまして、皆さま。私はモブだ。どうせモブだとか言いながら無意識に逆ハー作っちゃったり、「私、またなんかやっちゃいました?」とか言って尊敬の眼差しを向けられてるんでしょ? と思ったそこの君。


私も始めはそうなると思っていた。前世の記憶を宿したまま絶世の美女の産道を潜り抜けた瞬間、人生勝ち確ウハウハライフが始まると思っていた。だがしかし、現実は甘くない。


私は思いっきり父親の遺伝子を受け継いでしまったのだ。父親は日本からこちらの世界に来てしまった、つまり最近流行りの異世界転移というものをしてしまった日本人である。まず、父親の容姿。日本人らしい彫りの深くない、平べったい顔。この世界では少し変わった顔ではあるが、平均的な顔である。15年程共に過ごしてきてわかったが、たぶん頭脳の方も平均的。一つだけ平均的でないものを挙げるとすれば、圧倒的な魔力量。所謂、異世界転移特典で付いてきたものらしい。


父親は圧倒的な魔力量で人生というクソゲーを見事に攻略していき、絶世の美女と結婚するまでに漕ぎ着けた。しかも、安定、高収入、残業無しとかいう超ホワイトで有名な魔法省にまで就職している。


全然モブじゃないと思ったそこのあなた。確かに父親はモブじゃない。圧倒的主人公だ。だが、親が主人公であるからといって子どもまでが特別な属性を持って産まれてくるとは限らない。


父親の遺伝子を受け継いだ私の顔は平均的。頭脳も平均。魔力は異世界転移特典であり、遺伝子に組み込まれたものではないので受け継がれず。まさかの魔力0。前世の記憶を持ってはいたものの、無駄な記憶しか残ってないので殆ど活かせない。


天使みたいに優しい両親を貶すみたいになるから言いたくないんだけど、前世の私の方が可愛いんだよね。客観的な事実として。頭脳の方も確実に前世の方が良かったし。異世界転生したのに前世の方が優秀だとかあるんだなぁ、とたまに思う。


こんなこと言ってはいるが、今の生活に文句はない。前世の私には想像することすらできなかった幸せな生活が送れているのだ。命を狙われることはなく、毎日3食が当たり前、無償の愛を注がれる。前世の私が望むことすらできなかった生活が目の前にある。




自分語りという名の現実逃避をしていた私は、屈強な男に叩き起される。もう少し現実から目を背けていたいが、そうはいかないらしい。簀巻きにされて横たわっていた私は相手を刺激しないようにゆっくりと身を起こす。


何を隠そう、私誘拐されてるんです。たぶん身代金。最近、父が昇格して給料増えたから。両親が質素な生活を好むから一般庶民みたいな生活をしているが、しようと思えばぎりぎり上流階級のような生活ができることを私は知っている。


俵かつぎされ、倉庫のような場所に連れていかれる。抵抗はしない。抵抗したほうが普通の女の子っぽいのではと考えはしたが、できるだけ痛い思いはしたくないのでやめておいた。私は徹底的に怖すぎて抵抗どころか声を出すことすら出来ない哀れな女の子を演じる。


「そこに座れ」


男がそう命じたので、私は震えながらも目の前の椅子に座る。今の震え方、我ながらかなり上手かったのでは!? なんて思いながら、今にも泣き出しそうな顔をして俯いた。


男は私が大人しく座ったのを確認すると、どこかへ電話をかける。両親に身代金の要求でもするのだろうか。


私は深い罪悪感に苛まれる。本当は両親に心配すらかけたくなかったのだ。学校帰り、ちょうど人気のない路地に差し掛かったところで捕まった。近くに車を用意していたことから、私の通学路、下校時間くらいは調査していたのだろう。前世の私なら調査段階で敵に気がついて対策できていたが、残念ながら平和ボケしていた私はそこまで周囲に気を配っていなかった。


「今すぐ身代金を用意しろ。金貨200枚だ。1時間後、お前の家の前に箱を転移させる。その中に入れろ。箱に指定通りの金貨が入っていなければ、どうなるかわかっているだろうな? あと、転移魔法の痕跡を調べるのは禁止だ。解析魔法を使えばすぐに俺に伝わる」


予想通り、両親に身代金を要求している。金貨200枚、父の年収くらいだ。質素な生活をしているからきっとすぐに用意できるだろう。申し訳ないことに変わりは無いが。それにしても、この男かなり高度な魔法まで使えるらしい。転移魔法を使えるのなんて才能のあるひと握りの人だけだ。大して魔法が使えない奴だったら強行突破で逃げてやろうかと思ったが、無理そうなので諦める。


大人しく身代金を待とうかと考えたが、身代金を受け取ったからといって無事に返してもらえるとは限らない。まだ私を生かしておいてくれるのは、無事であることを証明しろとでも言われた時のためだろう。さすがに父を幻影魔法で騙すのは無謀だし。


つまり、私がこの男に必要とされるのは身代金を受け取るまで、約1時間。両親が私を救い出す方法を見つけてくれている、もしくは身代金を受け取れば五体満足で返してくれるのであれば問題はないのだが、そんな不確かなものに頼れない。あと1時間で私はここから脱出しなければならない。


物語の主人公ならここで運命の王子様が颯爽と現れて助けてくれるのだろうか。まあ、私は残念ながら作者の気が向いたらたまに背景に描いてもらえるレベルのモブなので。AとかBとかいう名前すらつけて貰えないレベルのモブなので。モブは奇跡なんてものに頼れない。主人公補正はない。


賭けに出れば必ず負ける。確実にここから逃げる方法を見つけ出す。


きっと両親は私が死んだら悲しんでしまうから。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ