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竜を狩る  作者: 六月十五
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飛竜を狩る(3)


 ウェングイス大陸南西部にある大きな街より馬車で半日のところにその村はあった。

 山間部にひっそりと石造りの家屋が20戸ほど並ぶ小さな村だ。

 そんな一見長閑(のどか)に見える村に《滅竜部隊》より派遣された2人の団員、マルクル=アルバウッドとルルイエ=ルーは到着した。


「くぅ・・・整備されてない山道は腰にきますね」


 体を海老反りにして独りごちるマルクル。彼はそのまま軽くストレッチをこなす。


「この村に竜がいるの?」

「いいえ。竜が姿を現したのは、もう少し山に入ったところです」

「なら早く行こう。私の追ってる竜か知りたい」

「落ち着きなさいルー。先に、この村で人と会う約束があるのですよ」


 マルクルは、そう言って村に足を踏み入れる。ルーもそれに続く。

 村はお世話にも活気があるとは言えなかった。

 石造りの家屋の他には、ボロ長屋や荒屋が軒を連ねている。


「・・・!」


 ふと、ルーはある事に気がついた。

 村の中なのに、人の影すら一度も見ない。昼間なので村人は野良仕事に出ているのかと思ったが違う。気配はあるが姿が見えないだけだ。

 おそらく、家に引きこもっているのだろう。


「この村、なんか変。みんな家にこもったまま」

「竜・・・いえモンスターに襲われた村などこんなモノですよ。それに、ほら」


 マルクルは手を広げて、自分の姿をルーに見せる。


「こんな格好をした余所者に、好き好んで近づく村人などいませんよ」


 マルクルとルーは真っ黒な外套(マント)を羽織り、フードを目深に被っている。見るからに怪しい2人組だ。

 この黒外套は《滅竜部隊》の習わしであるのと同時に、ある効力を持つマジックアイテムでもある。


 村の大通りを真っ直ぐ進む2人。

 しばらく行くと、大きめの広場があった。広場の中央には石造りのアーチを模したモニュメントが建っている。どうやら、この村で信仰されている宗教の偶像の類なのだろう。


「居ましたね」


 石造りのアーチの前に誰かが立っていた。

 マルクルやルーと同じく真っ黒の外套(マント)を羽織り、フードを目深に被っている。


「!」


 アーチの前に立っていた人物が2人に気づく。や否や、全速力で向かってきた。


「っ!」


 ルーが踵を返して逃げ出した。だが、時すでに遅く、ルーは謎の人物に捕まってしまう。そのまま、なす術なく抱き寄せられた。


「ルーちゃぁぁああん!!!」


 絶叫が閑静な村に響き渡る。


「やめろ!はなっ、はなせー!」

「もー、そんな事言わないでよー!久々に このぷりぷりのお肌を堪能させてよー!」


 ルーの顔に頬ずりをかましているのは、鳥の巣のようなボサボサの黒髪に、ところどころ赤のメッシュが入った女性だ。

 彼女は、アリアナ=ガナー・バール。

 れっきとした《滅竜部隊》の一員であり、同時に高度な変態だ。


「あり、あな・・・離して!はなっ・・・」

「あり?ちょいちょいマルクル。ルーちゃんの外套(マント)竜皮膜(ドラゴン・スレイ)じゃないじゃん」


 竜皮膜(ドラゴン・スレイ)とは、《滅竜部隊》の団員に支給される真っ黒な外套のことだ。

 竜の鱗を加工をして作られる竜皮膜は下手な鎧よりずっと強靭で遥かに軽い。また魔法にも耐性があり、一般魔法だけでなく軍用魔法も防げるA級マジックアイテムだ。


「ルーが前回の任務で、地竜の咆哮(ブレス)を正面から受けましてね。消滅しました」

「まじで?竜の咆哮を正面から・・・」

「いくら竜皮膜(ドラゴン・スレイ)と言っても、滅竜魔法を正面から防げるようには出来ていませんからね。助かったのが奇跡ですよ」


 そう言ってマルクルが嘆息をこぼす。


「んじゃ、これただの外套(マント)?新しいの支給しないの?」

「材料が竜からしか取れないのと加工に時間がかかりますからね。今回の任務には残念ながら間に合いませんでした」


 と その時、アリアナの腕の中でもがくルーの爪が赤く光だした。


「!うおっ!あぶねぇ!」


 アリアナの首元を光る爪で引き裂くルー。咄嗟に身を引いたアリアナは寸前でルーの爪を回避した。


「うぉぉ・・・今のは惜しかったねルーちゃん。でも流石に《竜爪(りゅうそう)》つかうのは無しでしょ」

「次きたら確実に首切り裂くから」


 低く唸りながらそう言ったルー。彼女の瞳には明確な殺意が滲んでいた。そんな双眸を受けながらもアリアナはルーに劣情をもよおしているのかーーー、


「うへへ・・・怒ったお顔もかわいいよ」


 などと言って涎を垂らしている。


「もういいでしょう2人とも。今が任務中だと言うことを忘れずに」


 見かねたマルクルが2人に釘を指す。そこでようやくアリアナは下品な品性を内に収めて、ルーも《竜爪》を下ろした。

 マルクルが再び嘆息を吐く。


「それに、ここは村中です。変に注意を引く行為は控えなさい」

「わーたわよマルクル。ルーちゃんもごめんねぇ」

「マルクルが居なかったらアリアナは死んでた。マルクルに感謝すべき」


 一旦、場が収まる。そこでマルクルは「さて」と話を再開する。


「アリアナ。状況を説明してください」

「了解」


 アリアナの声に険が帯びる。仕事モードに入ったようだ。


「事の始まりは、先月の半ばからこの辺りの村々で家畜が襲われる事件が発生した事です。と同時に《竜聖庁》の観測部が、この地域で竜域の発生を検知。目撃情報や観測部の報告から照らし合わせて竜の可能性が高いとのことで、調査の名目で私がこの村に派遣されたのですが・・・」

「なるほど。それで調査報告は?」

「クロで間違いありません。竜・・・それも上位の飛竜です」

「上位種ですか」

「はい。村人から聞いた特徴から先月の初めにアバーホワイトを超えてきた竜でしょうね」


 マルクルは険しく相好を崩した。

 本部で越境を確認していたはずの個体が被害を出したとなると《滅竜部隊》への非難は免れない。


「まだ人的被害が出ていないのが不幸中の幸いですね」

「いえ、それが・・・」


 アリアナが言いづらそうに顔を伏せる。


「実は、私が派遣される少し前に、傭兵の集団が竜を討伐しに行ったそうで」

「!傭兵が竜を相手に!?」


 ありえない事だ。

 切った張ったで生計を立てている傭兵は、言わば敵の力量を図るプロ。竜などと言う絶対的強者にわざわざ立ち向かうはずがない。


「村人から聞いた話では、領主に雇われた者たちらしく、獣鬼(トロル)の討伐だと言われていたそうです」

「なんて事だ・・・領主には竜聖庁からの通達は無かったのですか?」

「当然ありましたが、辺境の領主は独立心が高いですからね。おそらく国直轄の竜聖庁に借りを作りたく無かったと思われます」

「愚かな事を・・・」


 マルクルが頭を抱える。

 人死が出たとなると悠長に構えている暇はない。人の味を覚えた竜は、家畜や野生動物より人を積極的に襲うからだ。


「アリアナ。ルー。たった今より(くだん)の飛竜を第1級滅竜対象とします。次の犠牲者が出る前に早急に対処しますよ」


 2つの鬨の声が村の中に響いた。

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