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竜を狩る  作者: 六月十五
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飛竜を狩る(1)


 ウェングイス大陸。世界の面積の約10%を占めるこの地には、大陸を南北に隔てる大山脈が連なっている。

 4000メートルを超す山々が70以上連なるその山脈の名はアバーホワイト。

 多種多様な動植物が生息する野生の楽園であり、人を拒絶する大自然であるこの山脈はある種の境界線となっていた・・・。



 険しい山岳地帯を抜けて氷河を渡り、モンスターの棲家を超えた先にその建物はあった。

 天に聳える雪山を背にして建つのは巨大な城だ。いくつもの城壁と数十はある砲台を兼ね備えた要塞のような城。

 かつて観測所と呼ばれていたこの城に名前はない。

 だが、あえて名を冠するとするならばこの城はこう呼ばれている。


 ーーー《滅竜部隊》本部と。


「・・・ん」


 目を覚ましたルーは見慣れない天井に一瞬困惑する。

 逡巡したのち、ここが《滅竜部隊》本部の医務室のベッドの上であると気がついて身を起こす。


 少しウェーブがかかった蒼い髪に小さく整った顔立ち。

 華奢な体には、飛び石のようにところどころ未発達の鱗が形成されている上、腰から蝙蝠のような小さな羽根と爬虫類に似た尻尾が生えている。

 この少女の名は、ルルイエ=ルー。

 竜の身でありながら竜を狩る特殊戦闘部隊《滅竜部隊》に所属する少女だ。


「・・・!」


 ベッドから降りたルー。そこで彼女は自分が裸であることに気がついた。


「あれ?私の服は・・・?」

「うぉーい、まだ無理すんなよ」

「!」


 声をかけられ振り向いたルー。視線の先には1人の女性が立っていた。

 同性異性を問わずに人を魅惑させるグラマラスな胸とほっそりとした腰回りを白衣で包んでいる。

 彼女は、ミワ=クリムゾン。

 《滅竜部隊》専属の女医だ。


「治療したとはいえ、まだ治りきってねーんだからな」


 腰まで流した燃えるような赤髪を靡かせながら、ミワはルーに歩み寄る。そしてルーの手を取り、じっくりと腕の傷を確認する。


「って言ったけど、もう治ってんな。スゲーな竜って」


 ミワの言う通りルーの腕には傷ひとつなかった。


「マルクルから聞いたぜ。オメー地竜の咆哮(ブレス)正面から受けたんだってな。いくら未発達の鱗があるとはいえ命知らずなことすんなー」


 笑い混じりに話すミワにルーは嘆息をひとつ溢した。

 医務室に運び込まれた記憶はないが、傷が治っているならこんな場所にいつまでも居る気はない。

 過去の話だが、ミワに体を弄られたルーからすれば、医務室ほと危険な場所はないのだから。


「ミワ。治ったならもう行く。治療ありがとう」

「いやいや。見た目で傷が治ってるように見えても実際はそうでない場合もあるしー」


 ミワは言いながら医務室の奥に突っ込んである検査器具を引っ張り出そうとする。


「それに傷が治ったからと言ってもダメージが蓄積してるかもだろ?ちゃんと検査した方がいいよ」


 どんな検査をする気か知らないが、ミワが引っ張り出そうとしている器具は、見た感じ拷問用にしか見えない。

 検査になぜ貼り付け台や巨大なペンチが必要なのか非常に疑問だ。

 ルーは体を弄られる前にさっさと医務室をあとにする。


「まぁ、私は竜の専門医じゃないからよく分かんないんだけど、分かんないってことは調べてもいいってことだよね?大丈夫大丈夫!痛くしないから、先っぽだけだからーーーっていねぇし!?」


 ミワの慟哭は医務室前の通路にまで響き渡った。


 窮地から脱出したルーは、足早に自室へと戻る。城の内部を下手に動き回ると会いたくない相手と遭遇するかもしれないからだ。

 石造りの通路をひた歩くと噴水がある中庭に出た。この中庭を突っ切って近くの階段を登ればルーの自室まですぐだ。

 と その時ーーー、


「ルー。傷はもういいのですか?」


 ルーに優しく声をかけてきた人物がいた。

 黒い外套(マント)の大柄の男、マルクル=アルバウッドだ。

 マルクルは岩石のようなごつごつとした顔に優しげな笑顔を貼り付けてルーに近づいてくる。


 最悪だとルーは思った。

 最も会いたくない相手に見つかってしまったのだ。


「傷は治った。部屋に戻る」


 愛想なくそれだけ言って、逃げるように場を後にするルー。だが、巨体とは裏腹に素早いマルクルの動きにあっさりと捕まってしまう。


「待ちなさい。ちょうどいい、アナタに幾つか話があったのです」

「お説教は聞かない。私は悪くない」

「そうはいきません。アナタは地竜との戦いの後、今まで眠っていたのですよ。考えもなしに地竜の咆哮(ブレス)を正面から受けたりするからです。そもそも・・・」


 うんざりと言った顔でため息をつくルー。

 マルクルの説教は長くてくどい。10分も聞いていれば耳に泥を流し込まれたかのような気持ちになる。

 だからルーは強引に話を切り替える。


「マルクル。だったら私も言いたいことがある」

「何ですか」

「今回の竜。話と全然違った。土の中にもぐる竜なんて私の追ってる竜じゃない」

「・・・それはそうでしょう。竜の被害は年に何件もあります。アナタが追っている竜と巡り合う可能性などごく僅かですよ」

「それなら《滅竜部隊》に入った意味はない。私が自分で探す」

「待ちなさい。滅竜部隊本部には世界中の竜の情報が集まってきます。確かにごく僅かと言いましたが、ルーが追っている竜と遭遇できる可能性が最も高いのは《滅竜部隊》にいることなんですよ」

「う・・・」


 このやりとりは、ルーが《滅竜部隊》に入隊して既に何十回と繰り返してきたものだ。そしていつもルーが言い負かされる。

 バツが悪くなったのか、無理やりマルクルの手を払いのけようとするルー。だが、マルクルの手は岩のように堅くルーの腕を握りしめているため逃げれない。


「離してマルクル」

「ダメです。話があると言ったでしょう。それにこれから任務です」

「私は関係ない竜を狩る気はない。私が追ってる竜だと思ったときだけ私をよんで」

「それはちょうどいいですね」


 マルクルはルーから手を離す。


「今回の任務の対象はアナタが追っている竜の可能性があります」

「!」

「次の滅竜対象は空を駆る竜ーーー飛竜です」

読んでいただいてありがとうございます。

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