地竜を狩る(4)
ルーは目を閉じて耳を澄ました。
彼女の聴覚は人とは異なり、通常の耳では拾えない音も聞き取れる。
地面を砂に変えて地中へ逃げた地竜の所在を探るルー。
「・・・!」
ルーの耳が地中を這うように進む地竜の居場所を掴んだ。
「グリントあぶない!」
「は?」
砂柱が立ち昇り、巨大な亀に似た竜がグリントの背後に姿を現した。
まるで水面から這い出てきたように、グリントが立つ荒涼した大地に足をかける地竜。もう半歩進めば完全にグリントは攻撃範囲に入れられるだろう。
いや、もう入っているか。
「いつの間に!!?」
「グリント!下がりなさい!」
マルクルの怒号に驚いて咄嗟に地竜から距離を取るグリント。だが、簡単に逃がしてくれる相手ではない。
グリントに向かって巨大なアギトを開けて襲いかかってくる地竜。
「ひっ!く、くそ!これでも食らえ!」
慌てふためくグリントの手には拳大ほどの火の玉が出現した。
グリントは火球を地竜へ投擲。まっすぐと飛んでいった火の玉は、地竜の岩のようにごつごつとした顔面に直撃した。
《火》の魔法だ。
「へっ、ざまぁみやがれ」
「いけませんグリント!竜にはーーー」
《火球》の直撃による白煙が晴れて、地竜が顔があらわになる。
「え?」
地竜は無傷だった。
ダメージどころか顔には傷ひとつない。本当にグリントの《火球》が命中したのか疑うほどだ。
「忘れたのですかグリント!竜に通常の魔法は聞きません!」
「ーーーぁ!」
ハッ とするグリント。
マルクルの言う通り、竜には一般的な魔法は通用しない。
さらには、鍛え抜かれた鋼の剣も石弓も火の薬品を用いた爆雷兵器であっても竜の鱗に傷を付けることは不可能とされている。
ならば、一体どうやったら竜を倒せるのか。
その時、地竜の前足が斬り裂けた。硬い岩のような鱗が裂けて赤い血が噴き出す。
『グゴァァアーーー!!?』
がくん、と地竜の巨体が地に伏した。
地竜の足を切り裂いたのはルーだ。
ルーはグリントの前に立つ。
「グリント。竜の前で固まるのはあぶない。死にたくなかったら動いて」
「なっ!?テメ・・・別に固まってなんかねぇよ!」
淡々としたルーの口調に神経が逆撫でされたのか、グリントは怒りに任せて腰の剣を抜き放つ。
「固まってた。あと竜に普通の魔法は効かない」
「分かってるよ!わざわざお前に教えてもらわなくてもな!」
グリントの剣は煌びやかな装飾が施されていた。その中のひとつ。鍔に取り付けられた蒼い宝石が光り出す。
その光は、徐々に刃先へと移っていく。
「今度こそ食らえ!《水流刃》」
グリントは剣の切っ先を地竜へと向ける。
瞬間、蒼い光りが地竜の肩口から背中の甲羅まで貫いた。
『グゴァァアアア!!!?』
蒼い光の正体は水だ。圧縮された水が刃先から噴出。ウォータージェットのように地竜の岩のような鱗を吹き飛ばしたのだ。
『グガァ・・・ナゼ、ダァ。貴様ラノ、脆弱ナちからデハ、我ノ鱗ハ傷ツケラレヌハズ・・・』
「ええ。ですから私たちはアナタたち竜の魔力を使っているのです」
『!?』
マルクルが地竜の前に立つ。
指揮者のように手を振るマルクル。その度に彼の腕輪がシャンシャンシャンと音を奏でる。
戦いの場には似つかわしくない行為。地竜も呆気にとられてマルクルを眺めている。
と その時ーーー、
『オマエ!ソノ魔力ハ!?』
地竜が何かに気がつく。
「ようやく分かりましたか。そうです。我々が武具に仕込んでいるこの宝玉」
マルクルは腕輪に取り付けられた翠の宝玉を地竜に見せる。似たようなものがグリントの剣にも取り付けられていたはずだ。
「これはアナタたち竜の心臓から造られた結晶。つまり竜の魔法を使うためのアイテムなのです」
『グガァ・・・貴様ラ、我ガ同胞タチヲ・・・』
シャンとマルクルの腕輪が最後に鳴る。
同時に地竜の真上に、光り輝く幾何学模様が描かれた魔法円が出現。
「《石棺》」
魔法円から巨大な岩が出現したかと思えば、地滑りのような轟音を立てて岩が地竜を押し潰した。
「竜を殺せるのは同じく竜の魔法のみ・・・つまり我ら《滅竜部隊》は竜の力を持ってして竜を狩る!」
最後にマルクルは腕輪をシャンと鳴らした。