地竜を狩る(3)
太古より世界は“竜”に支配されてきた。
高い知能に強靭な肉体、そして桁外れの魔力をもつ竜は、生きとし生ける全てのものから畏敬の念を抱かれていた。
無論、人類も例外ではない。
かつて、“竜1体に一国滅びる”と言われたほど、永き歴史の中で人類は竜を恐れ、敬い、そして奪われてきた。
時の賢者は言った。
竜を相手にすることは、自然そのものを相手にすることだと。
時の勇者は言った。
竜に相対すれば、逃げることこそ勇気なりと。
時の王は言った。
平和とは、竜の翼の上にありと。
曰く、竜は空を駆り
曰く、竜は地を穿ち
曰く、竜は海を割る
絶対的強者である竜に立ち向かうなど、人には到底叶わぬ夢に思われた。
だが、車輪が物流を変えたように。鋼の生成が戦争のあり方を変えたように。
人が歴史を紡ぎ、文明を発達させていくにつれてーーー竜と人の関わりも姿を変えてきた。
爆音が響いた。
地面が隆起し、鋭利な岩が無数に突き出す。
瞬く間に荒涼とした大地が針山と化した。
地竜の攻撃をぎりぎりで回避した3人のうちグリントが叫んだ。
「マルクル!どうやってあの地竜を狩る気だよ!?近づくことも出来ねぇだろ!」
「まったくですねぇ。これだけの石柱を一度に出すなど、竜の魔力量にはいつも驚かされます」
「言ってる場合か!今に俺たち、あの石柱に貫かれて殺されるぞ!」
「ですね。大人しく殺される気はありませんし、反撃といきましょうか。ルー!」
「なに」
マルクルに呼ばれたルー。グリントとは対照的に地竜の攻撃を受けても落ち着いている。
「私が地竜の周囲にある石柱をとり除きます。アナタはその隙をついて地竜に攻撃してください」
「わかった」
マルクルは手を地につく。腕輪がシャンとなり響いた。
瞬間、ボゴォンと地面が波打つ。
「《砂漠化》」
マルクルの中心に、荒涼とした大地が砂に変化した。
まるで蟻地獄に吸い込まれるように、瞬く間に地竜が出現させた石柱が砂の中に沈んでいく。
石柱に隠れていた地竜の姿が視認できた。
「今ですルー!」
マルクルの掛け声と共に地竜へと飛び出したルー。
だがーーー、
「無理だろ!?」
当然の疑問がグリントの口からこぼれた。
ごつごつとした岩のような外骨格をもつ巨大な竜と丸腰の少女。攻撃を仕掛けたところで返り討ちにされるのが関の山だ。
「安心しなさいグリント。彼女は私たちとは違う」
ルーは拳で地竜の横っ面を殴る。
瞬間、体長5、6メートルはある巨体がぐらついた。
『グゴァア・・・』
「まだだよ」
今度は逆の拳で地竜の頭を殴りつける。
岩が砕ける鈍い音がして、ズズズン・・・と地響きと共に膝をつく地竜。
遠目で見ていたグリントが分かるくらい地竜はダメージを負っている。
「ルー!そのままトドメを刺しなさい!」
「そのつもり」
ルーの拳が熱を持ったように赤く光出す。その赤い光は徐々に指の先へと集まり、最終的に爪へと集中した。
「とどめ。これを使ったらアナタ助からない」
『グガァ・・・ズニノルナ、ニンゲンフゼイガ』
「!」
ルーは足元に違和感を覚えて目を向ける。
砂だ。砂がルーの足に絡みついている。
一瞬、マルクルの攻撃だと思ったが違う。彼の魔法は地竜の足元にまでは届いてはいなかった。
だとしたら、この砂は目の前の地竜の仕業だ。
ルーはすぐさまその場を飛び退き、影響が及んでいない岩場に着地する。
「あぶない」
『キサマハ、アトマワシダ・・・マズハ、アノウマソウナニオイノニンゲンヲ、コロシテヤル』
「?」
地竜は足元に作り出した砂へと沈んでいく。
巨体がものの数秒で沈みきり、そして地竜はルーの目の前から完全に姿を消した。