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11:新たな朝は穏やかに


 朝起きてBbさんの部屋を出ると、リビングにはBbさんしかいなかった。そのBbさんも眠っているのか、ソファーの上で毛布を頭からかぶっていた。私は足音を立てないように部屋を横切って洗面所に向かった。

 顔を洗い、寝癖を直していると、リビングのほうが騒がしくなる。誰か起きたのだろうか。耳を澄ませば、伸びやかな歌声がきこえてきた。なにやら楽しそうな歌だ。

 洗面所から出てみるとBbさんとろっくさんが起きていた。Bbさんはブルーのレンズのサングラスをかけていて、ろっくさんは長い髪をお団子にまとめていた。


「おはようございます」


 声をかけると歌声が止んだ。二人が振り返る。


「おはよう、水星ちゃん。爽やかな朝だよ」

「ああ、曲作りにぴったりな朝だ」


 Bbさんの言葉に、向かいに座っていたろっくさんが大真面目に頷く。私は「曲作り?」と首をかしげてBbさんの隣に座った。そして、ローテーブルの上に広がっている楽譜や機材にくぎ付けになった。


「これは?」

「俺たちの力作」

「え、作ったんですか? すごい……!」

「そうだろ、そうだろ」


 二人は笑みを浮かべて得意げな顔をした。その顔がとても可愛らしくて、思わず私も笑顔になる。だが、Bbさんが再び歌い出した瞬間、二階のネイルさんの部屋のドアが盛大に開いた。


「てめえら、人が通信してるときぐらい静かにしとけや!」


 朝からとてもご立腹だ。でも、ろっくさんは特に気にする様子もなく、


「マニキュアちゃんつかまった?」


 と訊いた。

 マニキュアちゃん、とは初めてきく名前だ。首をかしげていると、Bbさんが「ネイルの妹」と教えてくれた。


 あの、ネイルさんに妹がいるなんて……!


 やはり、ネイルさんに似て悪魔、いや、勝気な女性なのだろうか。昨日の地獄のシミュレーションを思い出して少々失礼な想像をしていると、ネイルさんは吹き抜けになっている螺旋階段をおりてきた。

 ため息をつき、ろっくさんの隣に座って首を振った。


「ダメだった。通信には出たけどすぐ切られた。忙しいってよ」

「ヒーラーは引っ張りだこだしな」


 ろっくさんも顔をしかめる。何か大切な用事でもあったのだろうか。なんて他人事のように考えていると、それを読まれたのか、ネイルさんがこちらを睨んだ。


「お前の身の回りのもん揃えるためだよ」

「あ……」


 そう言えば昨日、寝る前にそんな話をしていたような気がする。眠気でほとんど覚えていないけれど。


「女手がないのは痛いよなぁ」

「まあ、しょうがねえべ。とりあえず、俺らだけで行こう」


 ろっくさんとネイルさんが話を進める。私は自分のことだと分かっていても、何も意見を出せなかった。右も左も分からない状況では大人しく従うしかないけど、それがすごく申し訳ない。

 複雑な心情を抱えてもやもやしてると、突然低い声が降りかかった。


「おはよう……」


 驚いて振り向けば、仁さんが眠たげな目を擦りながら立っていた。


「コーヒー炒れるけどいる人」


 欠伸交じりに訊く仁さんに、他三人がそちらに顔も向けず手を上げる。異様な光景だけど、これが彼らの間では普通なんだろう。私も恐る恐る手を上げると、仁さんは頷いてキッチンへ向かった。

 豆を挽く音に湯が沸く音。しばらくすれば、キッチンからコーヒーのいい匂いがしてきた。


「じんー、お前も買い物来るかー?」


 ろっくさんが仁さんを誘う。


「いや、今日は寝とくわ」

「なんだよ、ノリ悪いぞ」

「休日に寝るだけとかジジイかよ」


 不満そうなろっくさんにネイルさんも面白半分と乗りかかる。が、仁さんは二人を振り返ることなく声を張り上げた。


「うるっせーな! こっちはアホみたいに扱き使われて疲れてんだ。山椒魚共なんか自分からバグりにいってるとしか思えねえしよぉ!」


 こんなに感情を露わにする人だったとは。ぼんやりと眠そうな人という印象だった仁さんの豹変に驚いていると、Bbさんが「まあまあ、隊長ほどのソルジャーは貴重だし仕方ない」とフォローを入れた。しかし、


「いや、単純に使い勝手がいいだけだろ」


 と、ネイルさんがフォローを容赦なく叩き潰す。流石、ネイルさん。それに仁さんもあきらめに似た力ない声で笑った。


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