10:プラネタリウムの青い惑星
シャワーを浴びるとそれまでの緊張が一気にほどけたのか、急な眠気に襲われた。
うとうととリビングのソファーでみんなが明日の予定について話しているのをきいていたけれど、ネイルさんに寝ろと言われ、Bbさんの部屋に押し込まれてしまった。
Bbさんの部屋は不思議な空間だった。
まるで宇宙に放り出されたみたいに真っ暗な中、無数の光の粒たちが星のように瞬いていた。
とても綺麗で、それが少し怖い。
戸惑っていると、Bbさんが入ってきた。
「疲れたでしょう。遠慮せず、ベッドで寝ていいからね」
「はい……。Bbさん、これは?」
「ああ、ごめん、これつけたまんまだったわ」
消すね、とBbさんは何かの端末を操作しようとしたので、私は慌ててそれを止めた。
「このままで、お願いします」
「そう、じゃあ……」
Bbさんは、おやすみと言って部屋を出て行こうとした。
「待ってください!」
私はほとんど無意識に、Bbさんの腕に縋り付いていた。
自分の行動に自分で戸惑う。
Bbさんもやはり驚いた顔をした。でも、私はその手を離せなかった。一人になることが急に怖くなったからだ。
Bbさんはそんな私の手を引くようにして歩くと、ベッドに座った。腕に縋り付いたままの私も自然とその隣に座る。
自然と肩が触れ合い、やっと羞恥心がこみあげてきて手を離した。
「あ、あの、これ、なんて言うんでしたっけ。たしか……」
静寂の気まずさに耐えきれず喋り出した。けれど、ある名前が思い出せなくて言葉に詰まる。
「プラネタリウム」
Bbさんはサングラスを外した。
青い瞳が暗闇の中で瞬く。
どこまでも澄んでいて、でも優しいBbさんからは考えられないほどに冷たい青。それが星を見上げた。
「あいつらに言ったら馬鹿にされるんだけどさ。この中にいると、なんか全部終わった気がするんだ」
とても優しい声。なのに、寂しく感じるのはその瞳のせいだろうか。
「世界の終わり? ってこんな感じだと思うんだよね」
「宇宙になるんですか?」
「うん。なんか全部はじけ飛んで、全部星になるの。いいなって思わない?」
星々の明かり晒されたBbさんの横顔は、思わず手を伸ばしてしまいたくなるほどに綺麗で、でも、触れる前に私が燃え尽きてしまう冷たい熱を帯びた青い惑星のようだった。
隣にいるはずのBbさんが、遠くなっていく。
「私はまだ終わりたくないです!」
Bbさんを呼び戻すように彼の腕を掴んだ。
「せっかくBbさんに救われた命なんです。だから、せめて精一杯恩返しをするまでは、まだ終われません」
腕を掴む手に力がこもる。
Bbさんは目を見開いたあと、フッと吹き出した。
「水星ちゃん、やっぱり番号付きだわ」
そんなロマンチックな答えが返ってくるとは思わなかった、とBbさんは肩を震わせる。
笑われてしまった。
けれど、Bbさんが帰ってきてくれたことに、私はなによりほっとした。
「ロマンチックなことを先に言ったのはBbさんですよ」
と言い返せば、たしかにとBbさんは頷いた。
「まあ、俺に恩返ししようなんてことは考えないで。実際、水星ちゃんを助けたのは俺だけじゃないし」
「でも……」
「そんな堅苦しいことはなしにしようぜ。なんたって、俺たちはこれから一緒のチームなんだから」
Bbさんは青い目を細めた。ニッと可愛らしい、いつもの笑みだ。
この笑顔、やっぱり好きだ。
あらためて意識してしまうと、急にBbさんの顔を素直に見られなくなってしまった。慌てて、掴んでいた手を離して俯く。
Bbさんはそんな不自然な私の態度に気づくことはなかった。「おやすみ」と私の頭を撫でて部屋を出て行く。
一人になり、ベッドに潜り込むと、どっと疲れが押し寄せてきた。目を閉じれば、不思議な安心感に包まれてそのまま夢の中へ。
さて、明日はどうなるのだろうか。