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01:未知の場所、彼らとの遭遇

 目覚めたら、知らない場所にいた。


 ここはどこ?


 起き上がると、体のあちこちが痛んだ。やけにごつごつした岩肌の地に寝転がっていたせいかもしない。

くらくらする頭を何とか動かしてあたりを見渡す。どうやら洞窟のようなところにいるらしい。遥か頭上には切り取られたような空があった。

 あそこから落ちたのだろうか。

 だとしたら、特に大きな怪我もなくここにいるのは、不幸中の幸いだ。

 なんて呑気に考えていたのも束の間、びりびりとした耳をつんざく音が洞窟内に響いた。

 化け物の咆哮のような恐ろしい音。


 ここから逃げないと……!


 頭では分かっているのに、地を震わせる足音に腰を抜かしてしまった。思うように体が動かない。

 再び、咆哮。

 洞窟の暗がりから、その化け物は現れた。

 最初、巨大な岩が転がってきているように見えた。しかし、目を凝らしてはっと息を呑む。岩がぱっくりと開き、そこから大きな牙が現れた。

 岩じゃない、岩のような肌に覆われた化け物だ。


 ああ、もう、終わりかもしれない……。


 化け物が恐ろしい唸り声をあげてこちらに突進してきた。

 私は死を覚悟して目を閉じた。

 そのときだった。

 ふわりと体が浮いた。と思った次の瞬間、地面に倒れ込む。でも、痛みはない。柔らかい感触が全身を包んでいた。誰かに抱きしめられている。


「っぶねぇー……」


 男の人の声が耳元に吐息を感じるほど近くにきこえた。


Bb(ビービー)! 大丈夫か⁉」

「おい、ジジイ、よそ見すんなっ! ろっく、逆だ馬鹿! 死ね!」

「言われなくてもわかってるってネイル! もう死にそうなんだよ!」


 ほかに騒がしい声が三人分。恐る恐る目をあけると、さっきまで私がいた場所の地面がごっそりと削られていた。そのままそこにいたら確実に死んでいただろう。


「あ、ありが……」

「ごめん、またさわるよ」


 お礼が遮られ、再び体が宙に浮いた。今度は荷物のように肩に担がれ、乱暴に運ばれる。それと同時に地響きがして、先ほどいた場所に化け物の巨体が倒れ込んだ。暴れまわる化け物の背には男が一人しがみつき、化け物に何かを突き刺している。


 何が起こっているの? 


 ただただ混乱している間に、化け物から遠く離れていた。壁際までたどり着き、そっと地面におろされる。


「ここまでくれば安全でしょ」


 その声に見上げれば、体躯の大きな男の人がいた。背丈ほどの斧を担ぎ、ごつごつしたプロテクタースーツを身にまとい、黒髪のミディアムワンレンに顔半分以上はゴーグルに覆われている。彼は私を担いで走ったからか、汗を手の甲で顎から頬へと拭っていた。

 唖然と見つめていると、ゴーグル越しに目があった気がした。


「すぐに終わらせてくるから、ちょっと待っててね」


 彼がニッと口元をゆるませた。見た目の厳つさに反して柔らかい声にちょっとドキッとしてしまう。彼は斧を手にし、「ネイル、この子、よろしく!」と言うや否や、化け物のほうへと駆け出していた。


 そっちは危ない!


 思わず手を伸ばしたけれど、肩を掴まれてうしろへと引っ張られた。


「じっとしてろ」


 背後でくぐもったアルトボイスがきこえた。驚いて振り返ると、ガスマスクをかぶった男が座っていた。


「あの、これは……」

「説明してる暇はない。今はあのクソ岩をどうにかするべ」


 男は小さな液晶がついた銃を構えると、化け物に対峙している三人――あの彼と、先ほど化け物に乗っていた男と金髪の長い女だろうか――に向かって叫んだ。


「こいつはB型だ! 背中の他に右足、爪の辺りに一つ、あと目玉の中にも核があるぞっ! 両方可!」


 何を言っているのかまったく分からなかった。けど、それまで散り散りに走り回っていた三人の動きが変わった。


「よし、(ジン)、もう一回キャプチャーだ! Bbは仁の強化でそのあとおとり! ネイルはそこから目玉狙えるか?」

「狙ってほしかったら、こっち向かせろ!」

「よし、じゃあ、隊長、まわりこみましょうぜ!」

「わかった」


 まるで、何かのショーを見ているようだった。三人は軽やかに化け物を翻弄する。私の隣にいた男も楽しげに笑いながら引き金を引いた。

 きっと一分もたっていなかっただろう。化け物は最後に悲痛な咆哮を上げると、よろめきながらその場にうずくまり、動かなくなってしまった。そして、強烈な閃光とともに消えてなくなった。

 それまでの騒ぎが嘘のようにしんと静まりかえる。

 私は目の前で起こった出来事にただただ驚いていた。だから、声をかけられるまで、すぐ目の前に彼がいることすら気づかなかった。


「大丈夫?」

「うぇ、あ、はい……」


 変な返事をしてしまった。

 私の前にしゃがみこんだ彼は「怪我はないみたいね。よかった」と人懐こい笑みを浮かべた。その声がとても優しくて、私は頷くことしかできなかった。


「なあ、Bb、こいつだれ?」


 彼の隣に金髪の美人が並んだ。女性だと思っていたけど、声は男性だった。男の人なのか。美男に睨まれつつも、人懐こい笑みの彼がBbという名だと知り、心の中で繰り返し呟いた。


 Bbさん。命の恩人。とても優しい人。


 なんだか胸のあたりが温かくなってきた。だが、和んでいる場合ではない。私はとても不審がられていた。ひしひしと美男から疑わしい視線を向けられ、気まずくなる。


「いや、俺もしらんけど……」


 美男の質問にBbさんは困ったように唸ったあと、私の背後に視線を移して口をぽかんとあけた。


「とりあえず、持って帰ろう」


 低い声と同時に、突然の衝撃。

 痛みに目の前がちかちかとして、そのあとの意識はない。


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