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リスティリア救世譚  作者: ともざわ きよあき
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清廉たるティタニエラ・序章② 少女の企み

 カイオディウムの首都ディフェーレスは、敬虔なる女神教信徒の間では「聖都」と呼ばれる。その全容は一言で言えば、「空に浮かぶ都市」だ。


 大地が浮いているのではなく、全て造られた構造物で構成される巨大な塊と、その周囲に浮かぶ複数の衛星のような塊が、空を覆うほど巨大な都市そのものとなって、天空に浮かび上がっている。天に浮かぶ塊の細部に至るまでが、居住区を含め都市を十全に回すあらゆる機能のために使われている。


それぞれは魔法によって作られた光の道で接続されており、人々はその道をほとんど自由に往来できる。その光は枢機卿以上の権限によりいつでも切り離すことが出来、反乱や異常事態といった有事の際に使用できるとして大きな抑止力の役割を担う。


ウェルゼミット教団の本拠となる超巨大な大聖堂“デミエル・ダリア”を中心としており、光の道によって接続された複数の都市群から別の都市群へ移動する場合には、必ずデミエル・ダリアの前を通ることになる。


 カイオディウム王家と王族に連なる一族は、その衛星のような都市群の一つに住まい、中央をウェルゼミット教団に渡している。その位置関係からみても、王家と教団のパワーバランスが見えるというものだ。


 更に地上には、一般の信徒が住まう村が点々と広がっており、地上からデミエル・ダリアへ礼拝するための巡礼の道が通じている。ただし、大地に住む民は軽々にデミエル・ダリアに上がることは許されず、決まった礼拝の日や特別な事情がなければ、門番の許可が下りない。


 大聖堂デミエル・ダリアは、レブレーベントの王家が住まうシルヴェンス城よりも巨大で、位の高い聖職者の居住地としての役割も兼ねている。その尖塔から見える景色は壮大で、カイオディウムの国土のほとんどを一望できる。


 ベルが所属する聖騎士団も、デミエル・ダリア内部に詰めており、非常時に備えると共に暴動の鎮圧や魔獣の討伐を主任務とし、体制に対する反逆への対応など幅広く活躍する。天に住まう者たちと地上に住まう者たちの間には厳然たる地位の差があり、しばしばそれを不服として大きな抗議活動や暴動が起きることがあるが、聖騎士団の存在がその成功を許さない。リスティリアの国々は、それぞれに文明や魔法の発展に大きな違いがあるが、カイオディウムは国内ですら、天と地において生活そのものの差が著しい国だ。


「スティンゴルド」

「おっ! やあやあクレア、元気?」


 神妙な面持ちでベル・スティンゴルドに声を掛けたのは、長身長髪の女性である。紫がかった長い髪を靡かせ、ベルとは対照的に白銀の鎧をがっちりと身に纏った、騎士然とした目つきの鋭い女性。


 クレア・ウェルゼミット。フロル枢機卿の遠縁であり、教団を牛耳る一族に属するが、単なる聖職者ではなく騎士団の一員として働くことを選んだ変わり者。ベルが好んでちょっかいを掛ける相手でもある。


「フロルに説教をされていたのか」

「お説教ってほどでもないよぉ、ちょっと小言をね。しかもそれも本題じゃないし。お客様にお引き取り願うんだってさ」

「レブレーベントの団長殿か」

「え? そのヒトは王サマに会ってもう帰ったんでしょ? 結構前に。バルドさんだっけ」

「いや、今日来られているのもレブレーベントの騎士団長の一人だ。第三騎士団のアリンティアス団長。今はその任を解かれ、旅をしているとのことだが」

「へえ~、いっぱいいるんだね団長さんが。左遷されたのかな」

「流刑にしては自由な様子だったが、それにしても……」


 クレアは呆れた様子で首を振る。


「妙な男と共に来られていたし、口から出てくるのは世迷言だ。あの男にたぶらかされて、どうでもいい任務を与えられて国外へ放り出されたのかもな」

「男! えー良いじゃん! 何それ、聞きたい!」


 恋に恋するお年頃のベルがわくわくと目を輝かせる。クレアは厳しい顔で言った。


「一国の騎士団の一つを任された身で情けないことだ。感化されるな」

「お堅いなぁ。だからこそ良いんじゃん?」


 ベルティナは途端に、来客に興味を持ったようだ。クレアはまた始まった、とばかり肩を竦める。


「任務を忘れるなよ」

「はいはい。ちょっとぐらい話す時間もあるんでしょ?」

「ないわけではないが、お前の本業ではない。間違えぬよう」

「へーい」


 クレアと分かれ、しばらくベルは大聖堂デミエル・ダリアの回廊を歩く。

 そして誰もいなくなった状態で――――ぽつりと呟いた。


「さーて、うまくいくかなぁ。座標、間違ってないと良いけど」


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