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リスティリア救世譚  作者: ともざわ きよあき
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清廉たるティタニエラ・序章① 女神教の国

 カイオディウムは、反逆者ロアダークが千年前に大事件を引き起こすまでは、レブレーベントと非常によく似た国だった。王族を中心とする統制のとれた理想的な国家の一つであり、魔法と程よく発展した機械文明を生活に取り入れて、平和な日々を過ごしていた。


 しかしロアダークの反逆があって以来、カイオディウムはその体制を一変させる。


 世界中に牙を剥いた国として、カイオディウムはその誹りを一身に受け、王族は徐々に求心力を失っていく。カイオディウムは贖罪と祈りの国へと変貌し、唯一神である女神レヴァンチェスカを盲信する“女神教”がカイオディウムの民の間に広まり、時を追うごとにその信仰は高まった。


 結果として、千年前以前は単なる宗教団体であり、人々の心のよりどころとしての機能しか持たなかった“ウェルゼミット教団”は、カイオディウムの民の、世界に対する懺悔の念を背景に、時を追うごとにその勢力を拡大していった。


 そして千年が経った現在、カイオディウムはウェルゼミット教団が実権を握って頂点に君臨し、国同士の交流が盛んでないこのリスティリアにおいても、女神教を真に信仰するため、カイオディウムへ移り住む者が現れるほどの宗教国家へと成長した。


「これがカイオディウムの歴史です。ベル、貴女もよく知っていますね」

「もちろんです枢機卿猊下、心得ておりますとも!」

「……ベル?」


 カイオディウムの実質的な最高権力者、フロル・ウェルゼミットは、すうっと目を細めて、目の前にいる少女を睨んだ。


 フロル・ウェルゼミットは、美しい銀色の髪をシニヨンの形に編み上げて整えた、鋭くも端正な顔立ちのうら若き女性である。枢機卿という階級の呼び名、位置づけは、総司が元いた世界でいうところのそれと大きくは変わらないが、彼女はカーディナル・レッドなる緋色の服装ではなく、彼女によく似合う純白の聖職者服を纏っていた。


 共通点の多いリスティリアと総司の元いた世界だが、同じように見える発展の中でも、細かいところでやはり違いがある。ところどころに入る黒のラインが、そのデザインをより際立たせる。センスの良い木造りの椅子に腰かけ、本を片手に少女へと語り掛ける様は女性教員のようだ。


 対する少女の方は、まるで「学生服」のような恰好をしていた。およそ宗教国家に属する女性の服装とは思えない、少しばかり露出の多い、一言で言えば「女子高校生」じみた服装だ。金髪のストレートロング、軽妙な口調、そして服装も相まって、彼女を的確に表現する言葉があるとすれば、それは「ギャル」という単語である。


「はいはい?」

「……まあ、良いでしょう。しかるに、何が言いたいかと言えば、あなたの服装や日々の態度、言葉遣い、その他諸々。およそ由緒正しきカイオディウムの歴史にそぐわぬ、軽率に過ぎるものであるということです」

「またまたぁ、今更そんなこと言いますぅ? これで何年あなたの近衛をやってると思ってんですか。仕事はバッチリ、ご満足いただけてますでしょ?」

「ベル」

「はいっ」


 フロルの声色が変わり、少しトーンが低くなった。ベルと呼ばれた少女はピシッとわざとらしく姿勢を正した。


「貴女の主張はもっともです」

「おろっ……?」

「今更貴女に口酸っぱく言って直させたところで、どうせ数日後には元通り。それに仕事ぶりは確かですし、私も細かいことをとやかく言いたくはありませんが。しかしせめてスカートをもう少し長くしなさい。膝が見えるのは感心しません」


「でも下にちゃんと履いてます」

「そういう問題ではありません。司教たちからも何度苦情が届いていることか。信徒はもちろん、兵にも悪影響が出ます。良いですね?」

「……へーい」

「……はぁ」


 どうせ聞き入れやしないのだ、とでも言わんばかりに、フロルはため息をついた。


「で、枢機卿殿。わざわざお部屋に呼びつけてまで、あたしにお説教したかったんですか? あたし今日一応、休日なんですけど」

「貴女の力を借りたいのです。客人に丁重にお帰り願うために」

「何それ。他国の使者? 別に王サマのところに行くぐらい良いじゃん。この前もどっかの国の騎士団長さんが来てたでしょ」

「レブレーベントのバルド・オーレン団長ですね。隣国の地位ある方の名前ぐらい覚えなさい」


「そうそう。結構カッコいいヒト。でもその時は何も言わなかったじゃないですか? なんでまた今回は」

「彼らが目指しているのが、このウェルゼミット教団だからです。私も知りませんでした。どうやって『下』から上がってきたのかわかりませんが……王への謁見で手を打つよう再三にわたって警告しましたが、どうしても譲らないもので」

「うわぁ、それで追い返すって暴君にも程がありません?」

「仕方ないでしょう。彼らの主張は我らの教義と真っ向から相反するもの。聞くに値しないのですから」


「……主張って?」

「彼らは『女神が今囚われの身となり、危機に瀕している。それを救うためにカイオディウムの助力が必要だ』と、そう主張しているのです」


 ベルティナの表情がさっと変わった。


「へえ……面白いじゃん。聞いてあげればいいのに」

「ベル?」


 フロルの眉が吊り上がって、また声のトーンが下がった。危険な兆候である。こういう時に選択を間違えると、数時間に及ぶお説教が開始される。それをよく理解しているベルはさっさと白旗を挙げた。


「女神様は常在であり健在、この世界を明るく照らす希望の光。リスティリアの民は全て、女神様の忠実なる下僕であります。それが囚われ脅かされているなどと……下賤な輩の想像力にはいつの世も困ったものですね」


「そうッスね~」


 ベルは気のない声で同調する。


「そういう輩に教えを説くのが猊下のお役目じゃないんですか?」

「それに値しないと言いました」

「あっそう。なら良いんですけど。それじゃ、お仕事といきますか」


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