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リスティリア救世譚  作者: ともざわ きよあき
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誇り高きルディラント・第八話② リシアが辿り着いた答え

 隠し事はなしだと口酸っぱく言っていたリシア本人が、どうしても総司に言い出せないこと。確証がないというのも理由だが、それも含めて本来ならば二人で話し合うべきだし、リシアは「そうすべきだ」と総司をたしなめる側の立場でもあった。


 それでも言い出せない。言葉にするのを躊躇わせる、総司は未だ至っていないひらめき。


 二人きりとなった、総司にあてがわれた部屋の一室で、リシアは窓際に立って、硬い表情のままで押し黙っていた。


 総司はその姿を気に留めず、ウェルステリオスに連れ去られた後何が起きていたのかを話して聞かせた。ウェルステリオスが見せたのは、何でもないルディラントにおけるサリアとスヴェンの日常の一コマだったこと。しかし重要に思える会話が繰り広げられていたこと。そして最後に、スヴェンが総司のすぐそばに姿を現し、しかしその姿を見せることはせず、淡々と「最後の探索」には何があっても来いと釘を刺したこと。


 全てを話し終えたとき、リシアは――――


「……リシア……?」


 ぎゅっと目を閉じ、眉根を寄せ、唇を真一文字に結んでいた。


 その表情を見て、総司は悟った。総司が今話して聞かせた物語は、リシアの疑問を確信へと変えるに足る内容だったのだと。


「……聞かせてくれ、お前の考えを」

「……エルマ様が」


 リシアはようやく重い口を開いて、言った。


「あの祭りの夜、私に仰った……私たちは、『終わらせることでしか先へ進めない』のだと」

「どういう意味だ?」

「私もその時は確たる答えを得ていたわけではなかった。だが――――いや、違うな」


 リシアは首を振り、目を開き、総司を見る。


「私は逃げ続けていただけだ。この答えから。そうではないと信じたかった。しかしそれも最早限界だ」

「リシア……?」

「私の考えを話す。……心して聞いてくれ」


 そこから先――――

 リシアが紡ぐ「答え」は、総司には到底受け入れがたく。


 しかし、リシアの話を聞けば聞くほどに、そうでしかありえない、恐らく間違いのないもので。


 総司は叫び声を上げそうになるのを、必死でこらえて、リシアの話を最後まで聞いていた。


 リシアが話し終えた後、十分ほど、二人とも無言だった。総司はベッドに腰掛けたまま、顔の前で指を組み、目を閉じて項垂れるだけ。リシアは窓際に立ったまま腕を組み、同じく目を閉じて総司の言葉を待つだけ。不気味なほどの静寂が部屋を包み、沈黙だけがその場を支配していた。


「……いつから、そう考えていたんだ」

「私もそんな現実があるなんて夢にも思っていなかったし、聞いたこともなかったが……信じられないことだが」


 総司の静かな指摘に、リシアは重々しく口を開いた。


「最初から疑ってはいたのだ……だが、そうではないと考えを振り払い続けて……」

「お前の方がとんでもない隠し事だ。酷いもんだぜ」

「……済まない……」

「いや、良いんだ」


 総司はリシアの謝罪に対して首を振る。


「逆の立場だったら……俺も絶対に言えなかった。多分、時間が経てば経つほどな……」


 聡明なリシアがその可能性に気づいてから、どれだけの時間が経っていることだろう。総司と同じように街へ繰り出し、王の遣いをこなしながら人々と交流を深め、祭りを楽しもうとした彼女の心境は、総司には推し量ることも出来ない。


「……お前こそ、今度からは何か気づいたら言えよ。ちゃんと」


 リシアが頷く。リシアは総司を思えばこそ、その可能性を口にすることが出来なかった。総司がなんだかんだでランセムのことを気に入っていて、伝説の街での生活を目いっぱい楽しんでいる姿を目の当たりにして、どんどん言い出しにくくなっていったのだ。


 それがより残酷な形で、彼に結末を叩きつけることになろうとも。


「……最後の探索でアイツに会える。アイツは全て織り込み済みで、俺達が答えに至ったことも承知の上で迎えてくれるはずだ。だから、わからないことは明日聞こう」

「……そうだな」


 リシアは頷いて、


「それにまだ疑問も残っている。あの島――――真実の聖域そのものの存在意義や価値、あの男なら全て理解しているはずだ」

「……でも、それがわかったところで――――」

「そうだ。結末はきっと変わらない」


 リシアの疑問を解消できたところで、待ち受ける運命は変わらない。総司は両手に顔をうずめて、弱々しく言った。


「はーっ……救世主の旅は過酷って……出会う皆が言ってきてたけど……」

「……ソウシ……」

「まさかこういう意味だったとはなぁ……」

「……そうだな。剣を振るっていれば全てうまくいくような旅路だったらよかったのにな」


 リシアがようやく動いた。総司のそばに立ち、その肩に優しく手を置いた。


「ここまで来て降りることは出来ない。そうだろう」

「もちろんだ」


 総司は弱々しい声のままだが、決然と答えた。


「今更引けるかよ。しかも別に、勝てない敵とぶつかったんでもなく、情に絆されてこれ以上進めませんでした、なんて。今度こそアレインに殺されちまう」

「恐らく、あのお方が最も嫌う敗北の仕方だろうな」


 総司はぱっと顔を上げて、言った。


「寝よう。今日は疲れた」

「……そうしよう。お休み、ソウシ。良い夢を」


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