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リスティリア救世譚  作者: ともざわ きよあき
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誇り高きルディラント・第六話/閑話 終わらせることでしか

「ふっ! はっ! とう!」


 夜の祭りは盛大だった。いくつもの出店が立ち並び、エルマの作品をはじめとする美しい作品の数々が広場を埋め尽くす。


 サリアは王に命じられたのか、舞台の上で自慢の槍術を披露し、観衆の喝采を一身に引き受けていた。見目麗しい美女であり、街の民に親しまれるルディラントの守護者。その姿を一目見ようと、演台の周りには大勢の人々が、特に男が詰め寄せている。


 不幸なことにサリアの相手役を任された総司は、時折飛び出るブーイングにめげずに懸命に役目をこなしていた。


「ちょい、ちょっとサリア、速い、速いよ!」

「この程度、あなたなら簡単に受けきれるでしょう」

「いやそんな次元じゃないけど! 俺じゃなきゃ三回はぶっ飛ばされてるぞ!」


 ヒュンヒュンと風を切るサリアの槍は、洗練された芸術の域。油断すれば顔面に直撃を受けてしまいそうな鋭さで、総司も本気で応じていた。


「さすがルディラントの軍事力だな、本気じゃねえのにこの強さ……!」

「ウェルステリオスを吹き飛ばしたという力も見てみたいものですが、私ではきっと死んでしまうでしょうね」

「バカ言え、サリアだけじゃ済まねえよ」

「ますます興味があります。いつかお目にかかりたい」

「機会があればな。ない方が良いんだが!」


 リシアは、ニーナをはじめとして親しくなったルディラントの人々の店を回りながら、舞台の二人を遠巻きに見守っていた。


 思考を止めなかったリシアは、“真実の聖域”で起きた一連の出来事を根拠として、もう一つ―――――


 ランセムには言わなかったもう一つの答えに、辿り着きかけていた。


 だが、リシアはその答えを口にしなかった。もしも口にしてしまって、それが正解だった時。


 待ち受ける運命に、押し潰されそうになっていたからだ。


 ニーナのナギーシェを一口かじり、じっと見つめる。リシアの予想が正しければ――――


「リシアさんは、この光景を見てどう思われますか?」


 リシアがびくっと体を震わせた。

 エルマが相変わらずのにこやかな笑顔で、いつのまにかそばに立っていた。


「こ、これは失礼を……!」

「良いのです。気を遣わないで」


 ナギーシェを手早く片付けて、リシアはふーっと息をつく。エルマはにこにこと笑って、手近なベンチに腰掛けた。


 祭りの雑踏に紛れ、舞台の見世物に気を取られ、誰も二人のことを気に留めていなかった。


「平和な景色です……とっても」

「……はい。この街の人々は温かく、そして明るい。羨ましく思います。レブレーベントも平和な国ではありましたが、つい先日も大きな被害が出たばかりで……」


 活性化した魔獣の手によって、田舎の街一つが滅ぼされた。平和なように見えて、この世界は今危機に瀕しており、その影響はすでに出始めている。


「外界から隔絶されたがゆえに平和なのだとしても、もしかしたら、その方針こそが正しいのではないかと……そう思わせる魅力がある」

「私はこの国が好きです。この平和な光景が本当に好きで、いつまでもこの景色が続けばいいと願っています。でも、なんにでも終わりはあるものです」

「終わらせはしません。私とソウシが、終わらせはしない」


 リシアが、舞台の上を見つめて、強くそう言った。


 リスティリアの民が皆、漠然と不安を抱える世界の危機。だが、その危機は必ず総司が、そしてリシアが取り払って見せる。決意を新たにするかのようにリシアは力強くそう告げたが――――


「……いいえ」


 エルマは首を振り、寂しそうに言った。


「あなたたちは、終わらせることでしか、先へ進めないのですよ」

「……エルマ様……?」


 リシアが振り向いたときには、エルマはそこにいなかった。


 祭りの盛り上がりは最高潮に達し、鼓膜が破れるかと思うほどの歓声が響き渡っている中で、その場所だけが静寂に包まれていた。


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