誇り高きルディラント・第六話② サリアの乙女心
食事は工房の職人たちも一緒に、家の外で取ることとなった。大火力で焼く肉を楽しむバーベキューだ。大雑把な料理だが、総司としては好ましいメニューの数々である。新鮮な魚の串焼きも絶品で、ルベルの街とは少し違う味のエールも素晴らしいアクセントだった。
「食って力をつけにゃあならん。まだまだいけるな若造」
総司は食事をかっ込みながら頷いた。次々と運ばれてくる肉と魚をひたすら食べ進める。職人たちとの乾杯合戦にも参加して、総司は心身ともに回復しきった。
リシアはその様子を遠巻きに眺めながらも、あまりはじけた笑顔は見せなかった。総司ほどの楽観はしていない。リシアの思考は未だ、あの島にとらわれているのだ。
「ウェルステリオスが現れ、明らかに敵対的だったのならば、あの島の探索は難しそうですね」
サリアがちびちびとエールを飲みながら言うと、リシアは頷いた。
「熾烈を極めることは間違いない。だが、また行かなければならない」
「まだオリジンが見つかっていないからですか?」
「それだけではない」
リシアは、少し離れたところで、サリアに島での出来事を聞かせたのだが。
サリアはスヴェンの名を聞いた途端弾かれたように立ち上がって、声を上げてしまった。
「スヴェン!? スヴェン・ディージングがいたのですか!?」
総司を中心として、職人たちの輪も何事かと二人の方を振り向いた。サリアは慌てて手を振り首を振り、何でもないのだと告げて座りなおした。
「サリアは知っているのか? あの男のことを……」
「ええ……私の知人です……長い間、その姿を見ていませんでしたが……そうですか、あの島に……」
「スヴェンは私たちに手を貸し、重要な情報の眠る場所まで導いてくれた……しかしあの男もまた、謎めいた存在。最後に私たちに助言をして、そこで別れてしまった。スヴェンの言葉を信じるならば、我々はあと二回、あの島に踏み入る必要がある」
「ですが、その先で何が待ち受けるのかは何もわからないと」
「ああ。少なくとも覚醒したウェルステリオスがいるということだけが確かで、他は何も」
「……私が」
サリアが歯がゆそうに言った。
「私がともに行ければ、少しは手助けになるというのに……」
「入れないものは仕方あるまい……サリアの助力には感謝している」
「……スヴェンは、何か言っていましたか?」
「何か、とは?」
リシアが聞くと、サリアははっと我に返って、首を振った。
「いえ、世迷言です。お気になさらず」
「……そう言えば」
総司に葉巻を進めた時の、何気ない会話を思い出して、リシアが気づいた。
「恐らくサリアのことを言っていたらしい場面はあった。ソウシに葉巻を勧めて、ソウシが断った時だ。お堅い誰かさんとそっくりだとね」
「むっ……」
サリアは途端に顔をしかめた。
「まだあんな毒を愛用しているのですか、あの男は。やめるように千回は言いました」
「ずっとくわえていたな」
「では、帰ってきたらお説教ですね」
サリアの口ぶりから察するに、スヴェンとはそれなりに親しい間柄らしい。その関係性からも察することができるように、やはりスヴェンは敵対的な存在ではないようだ。しかしそれならば更に謎が残る。
スヴェンがサリアと馴染みのルディラントの民ならば、何故あの島に入ることができたのか。シュライヴが言っていた村の若者たちと同じように、何か彼には、あの島に入る条件を満たす、特殊なカテゴリがあるのだろうか。
「明日、一度王宮に戻り、王にこのことを報告しましょう。王は何かを知っているはずです。少しでも情報を引き出さなければ」
「そうだな……王はきっと、私たちが思っているよりもずっと多くのことをご存じだが、私たちに教えていないことが多すぎる。それなりのお考えがあるのだろうが……」
「どうでしょうね……」
サリアがなんとも言えない顔をした。どうにもあの軽妙な王を思い浮かべると、楽しんでいるようにしか思えないところはあるが、深遠な物言いも多い。ランセムから何か有益な情報が引き出せれば、次の探索に生かせる可能性もある。
「謎は深まるばかりですが、スヴェンは真面目なときはちゃんと真面目です。最後の言葉は、きっと何らかの確信を持ってあなた方に伝えた情報のはず。ひとまずはそれを信じましょう」
「異論はない」