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リスティリア救世譚  作者: ともざわ きよあき
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誇り高きルディラント・第四話⑥ 進んだ先に

 スヴェンが示す階段を登り、先へ進む道すがら、スヴェンは陽気に話した。


「いやーしかし、久々にヒトに出会えてうれしいぜ。ヒトどころか他の動物なんか少しもいやしねえからな」

「どれぐらいの時間ここにいるんだ?」

「そりゃもうずいぶんと長い時間さ。生きているのが不思議なくらいにな」


 シュライヴに渡された明かりは、今のところ必要としていなかった。光源の不明な光が通路を照らしており、進む先が真っ暗闇というわけではなくなった。


「お前らは何でここに来たんだ?」

「俺たちは王の許可を得て、ここにあるというとある宝を手に入れに来たんだ」

「宝ァ?」


 スヴェンは首を傾げて、


「俺も結構この島を探索したが……そんなもんあったかねぇ……? 一応、今から案内するのは本殿、神殿の祭壇がある場所なんだが……」


 スヴェンはどうやら、総司たちも自分と同じように、遺跡を探検する研究者じみた職のものではないかと勘違いしていたようだ。


 だが、はからずもその場所は、オリジンがあるかもしれない候補の一つだと思われる。スヴェンではなんの反応がなくても、女神の騎士たる総司が行けば、違った光景が見られるかもしれない。


「いや、大丈夫、それでいいよ」

「あっそ。お前葉巻はやるか? 一本やるよ。こいつはすげえぞ、火を付ければほとんど永遠に吸い続けられる」

「結構だ。体に悪いぜ」

「だからいいんだろ、こういうのは。お堅いねえ、誰かさんを思い出すぜ」

「誰かさん……?」

「気にするな。さて、そろそろ抜けるぜ。と言っても、本殿まではまだまだだけどな」


 長い階段を抜けると、一気に開けた場所に出た。


 石造りの広場ではあるが、最初にたどり着いた大きな広場よりはこじんまりとしているし、何よりここは石の建造物だけではない。木々が生い茂り、自然にあふれていた。透き通った水が通り過ぎる水路があり、噴水も水飲み場もある。スヴェンはその水を口に含み、水筒にも入れた。


「お前らも飲んでおけよ。見ての通り別に毒もねえし」


 総司とリシアもスヴェンに倣って、新鮮な水を飲む。高濃度の魔力を含む水は、二人の体を驚くほど回復させた。ちょっとした疲労感も、この水で消し飛ばされたかのように体が軽くなった。


「こいつはすげえ……」

「巡礼者の休憩所ってところかね。小鳥の一羽もいそうなもんだが、出会ったこともねえな」


 そう言うと、スヴェンはしばらく総司の顔をじーっと見つめた。


「……なんだよ?」

「お前の左目は、生まれつきか?」

「いや、違う。なんだかよくわからねえが、ついこの前こうなっちまった。魔法の痕跡らしいんだがな……」

「ふーん」


 ジャバジャバと手洗い場で手を洗ったかと思うと、スヴェンの目がぎらりと光った。


「でぇい!」

「うわあああ!」


 両手いっぱいの水を、総司の顔面めがけて浴びせかける。見事に直撃をくらった総司は、ぶるぶると顔を振って水を払うと、スヴェンの胸倉につかみかかった。


「何しやがるんだあんたはぁ!」

「はっはっは、すまんすまん! 治るんじゃねえかと思って!」

「なら一言言えばいいだけじゃねえかよ、目を洗ってみたらどうかってよ!」

「手間を省いてやろうかと思って!」

「嘘つけやりたかっただけだろ!」

「結論としては意味なかったわ!」

「だろうな!」


 広場を抜け、崩れた通路をひょいひょいっと軽やかにわたっていくと、階段が崩れて途切れた場所に差し掛かった。


 気づかないうちに随分と高い場所に登ってきたようで、山肌に沿う通路からは海岸線が一望できる。


「”ジノヴィオス”」


 スヴェンの魔法で、水色のスライムがぐいっと伸びて、落ちてしまった通路の代わりを果たした。ぐにぐにとなんとも不安をあおる踏み心地ではあったが、三人は無事に階段を渡りきることが出来た。


「便利なもんだなぁ」

「だろ? つっても、ここまで変幻自在なのはこの島でだけだがな」

「そうなのか?」

「強度も自由度も、普通にこの島の外で扱うのとは比べ物にならねえよ。何せこの島は、空気に満ちる魔力が高いからな。俺の何でもない魔法もその力を増してる。多分お前らもそうだろ」


 リシアが言っていた。背中を押されるような感覚があると。スヴェンの万能に見える魔法も、この島だからこそここまで便利なものに昇華されているということだ。


 スヴェンはよれよれの外套のポケットから、随分と錆びついた蓋つきの懐中時計を取り出す。方位を示す役目でもあるのか、右へ左へふらふらーっと歩きながら懐中時計を眺めた後、スヴェンは頷いた。


「この辺だな」


 何の変哲もない石の壁の一つを押し込む。ガコン、と石が引っ込んで、自然の崖に見えた上部の岩肌の一部が大口を開けた。ばらりと縄梯子が降りてきて、新たな行き先を示す。


「日によって変わるらしいんだよ、この仕掛けの位置は。俺も最初は苦労したぜ――――」


 スヴェンが縄梯子に手と足をかけ、体重を預けた。その途端、またしてもガシャコン、と一瞬だけ縄梯子が下がるとともに、何かの仕掛けが作動する音がした。


「……ガシャコン?」

「……昨日もここへ来たか、スヴェン?」

「ああ、まあ、他にやることもねえしな」

「昨日と位置は変わってたか?」

「……そういやそうだな……一応調べてみたが、言われてみりゃ同じような位置の石を押し込んだ気が……」

「じゃあ、日によって変わってねえじゃねえか」

「確かに」


 ゴロゴロと、何かが転がってくる不吉な音が聞こえる。


「ちなみに間違うと何が起きる?」

「最初やらかしたときは、上からでけぇ鉄球が――――」


 遥か頭上から、巨大な鉄の塊が降ってくるのが見えた。


「――――降ってきたっけなぁ」


 総司が空中へ飛び出し、巨剣を振るう。

 真っ二つに切り裂かれた鉄球が、轟音を立てながら山肌を転がり落ちていった。


「慎重に! 慎重に進んでくれ!」


 リシアが叫ぶと、スヴェンは悪い悪い、と頭をかいた。


「さっきの虫みたいな仕掛けがあったら終わりだったぞ……」

「まったく……おい、本当にあの男を信用して大丈夫か?」

「別に信用しきってるわけじゃねえよ。でも、俺達にも他に選択肢はないだろ?」

「それはそうかもしれんが……」

「いやいや大丈夫だ、もうヘマはしねえって」

「ならいいんだがな……」


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