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リスティリア救世譚  作者: ともざわ きよあき
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誇り高きルディラント・第二話⑤ 王の真意を未だ知らず

「王は何かをご存じで、隠していらっしゃる」


 夕食の準備の間に、総司とリシアはそれぞれの部屋に案内された。ランセムは、総司が女神の騎士であり、女神を救うため旅をしていることを知っている。それをエルマにも伝え、海岸まで迎えに行かせた。この時点でリシアは疑念を抱いているし、総司も違和感を抱いてはいた。


 レブレーベントでの行いを見ていた、ぐらいのことがなければ、総司が女神の騎士であることや、その旅路のことなどわかるはずがない。サリアと同じく見る人が見れば総司の異常性そのものは看破できるだろうが、そこ止まりだ。


 ランセムは全て知っている。見えている。


 リスティリアの民が漠然と抱える「女神がいない」不安の正体。つまりは女神が何者かに脅かされているという事実と、その脅威を取り除くために総司が遣わされているのだということを知っている。それは通常知りえないことだが、ランセムがいたずらっぽく言ったように、そこには王としての秘密があるようだ。


「このもてなしようにしてもそう……王と二人きりで何か話したか?」

「ああ」


 リシアの勘はさすがといったところだ。総司のわずかな表情の変化や先ほどの態度から、彼の心を揺さぶる何かがあったことを察しているらしい。


 総司は、ランセムがどうやら「敵」のことをすら、何か掴んでいる可能性があることをリシアに話して聞かせた。


 二人の会話の流れを聞いたリシアは、しかし何故か不満そうな目で総司を睨んでいた。


「な、なんだよ?」

「マキナ様の言葉に引っかかるところがあったのなら、なぜ私にそれを言わなかった……?」

「あっ」


 睨みつけてくるリシアの目が鋭さを増した。総司は慌てて、


「いや違う、確信が持てなかっただけだ! リシアに言うほどのこともないかと……」

「隠し事はなしだとお前が言ったはずだ」


 シエルダでの夜を、リシアはよく覚えている。総司ももちろん覚えていた。こんなに長い付き合いになると、あの頃は夢にも思っていなかった。思い出深い夜の、軽率な約束だ。


「……そうだな。悪かった」

「良い。だが、ランセム王に思い当たる節があるというのは興味深いな」


 ルディラントに来てからというもの、リシアは総司ほどには警戒を解いていない。総司もそれは肌で感じていることだ。


 レブレーベントで総司が歓迎されていたのは、ひとえに女王陛下の懐の深さあってのこと。誰もかれもがそうではない。ランセムからは確かに、女王エイレーンと同じような気迫めいたものを感じてならなかったが、だからといって同じだけの寛容さを期待するのは間違っている。


 飄々としているようで、意味深な発言も多かった。総司に見えていないことが見えているが、すべてをすぐさま総司に伝えてくれるほど、総司のことを信用してはいない。


 この旅路は、リスティリアの全ての民に歓迎されているとは限らない。総司が信用していい人間は今のところリシアだけだ。


「お前はどう思う? この国そのものを」

「本当にルディラントかどうか……千年間残り続けた国かどうかってことか?」

「そうだ」


 リシアは頷いて、外部からは見えなかったはずの「窓」から、眼下の城下町へ目をやった。


 外から見える時計塔の外観と、時計塔の内部構造はかなり乖離している。なかったはずの窓もそうだし、中に入るときの特殊な手順も鑑みれば、もしかしたら時計塔に入ったつもりで、まったく別の場所に飛ばされていたのかもしれないとすら思える。


「……俺は別に、歴史の専門家でもないけど」


 リシアの問いに、総司は言葉を選びながら自分の考えを言う。


「リスティリアに伝わる千年前という年数が正しいとするとだ。俺の世界でも、千年前の歴史なんて、現代に残るわずかな史料をもとに繋ぎ合わせただけの、現代のヒトの憶測に過ぎない。まあリスティリアには魔法があるからな。記録の残り方は、俺の世界とは違うんだろうが」

「千年前滅んだという、我々の前提そのものが違ったのかもしれないと?」

「どっちも疑えるってことさ。歴史も疑えるだろうし、ルディラントそのものを疑うこともできる。一つ言えるとすれば、俺達は、リシアも含めて、知らないことだらけってことだ」

「確かに。私も、レブレーベントから出ること自体めったになかった」


 二人にそれぞれあてがわれた部屋は、一人で使うにはあまりに広々としていた。総司に与えられた一室で、リシアは冷えた紅茶を注ぎながらとりあえずは考えをまとめた。


「あくまでも我々の目的はこの国のオリジンただ一つ……可能ならランセム王から、”敵”の情報まで聞き出せればありがたいがそれはひとまず次の目標だな」

「ま、多分言わねえな、あの人は」


 総司が苦笑する。


「向き合ってみればわかるが、口八丁手八丁で説得できる相手でもない。この国にいる間に、王の気が向いてくれるのを祈るしかねえな」

「さて、策を弄して意味があるかはともかく、受け身の姿勢で良いものか……」


 部屋の扉が軽くノックされた。続いて、静かな声色で呼びかける声がする。


「サリアです、食事の準備が出来ましたので、よろしければ」

「それはありがたい」


 リシアが扉を開け、彼女を招き入れようとすると、サリアは微笑んで、


「食堂へどうぞ。王はお二人との会食を希望しております」


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