別れ惜しむハルヴァンベント 第三話③ 最後の敵の”理由”
異界の民に与えられた権能も、“女神の騎士”の力も、下界にあるあらゆる魔法も、リスティリアに属するものだ。スヴェン・ディージングに与えられた「殺した相手の力を簒奪する」権能は、リスティリアに属するあらゆる力に対して十全に作用する。
だから、唯一の例外をよく覚えていた。
前線で命を賭ける戦士ではなかった。ゼルレイン率いる世界連合の戦闘に立ったスヴェンが、カイオディウムが形成したあらゆる防御陣地を蹂躙し、突破していく中で、路傍の石ころのように踏みにじった命の一つ。
リシアのような完全覚醒は果たしていなかったが、それでも“伝承魔法”の継承者として力を行使しようとして、それを許さず即座に殺した――――発動しようとした魔法を奪えなかったことで、スヴェンの疑問が生じたのだ。
女神レヴァンチェスカが支配する絶対的なリスティリアの法則を逃れ得る例外。シルーセンの惨劇を引き起こした異界の神も倒れた今、唯一無二の存在。
“見てはいた”が、初めて体感する“ゼファルス”の完全覚醒と――――“女神の騎士”の力。
蒼銀の“ジラルディウス”は、そもそも「一ノ瀬総司との最終決戦」を予期していたスヴェンの想定を容易く上回っていた。
「“レヴァジーア・ゼファルス”!!」
「“ディノマイト・ネガゼノス”!!」
蒼銀と金色の魔力の奔流を、赤い閃光を伴う拳が迎え撃つ。爆裂する光がスヴェンの視界を奪ったが、大した問題ではなかった。
強すぎる魔力の波動が正面からとんでもない速度で突っ込んでくることなど、見るまでもなくハッキリとわかるからだ。
続けざまに赤い閃光を宿す拳で、今度は「本体」を迎え撃つ。
だが、リシアの姿が残像のように余韻を残して掻き消えた。スヴェンがかっと目を見張った。
多少視界が悪かろうと目で追う必要もなく、絶大な魔力の気配でリシアの動きは容易く察知できるのだが、察知できることと対応できることはイコールではない。
速過ぎる。千年前、ゼルレインをすら上回る実力を誇り、“ハルヴァンベント”に渡り時間の束縛を受けることがなくなって衰え知らずでもあるスヴェンが、後手に回らざるを得ないほどの速度。
元々、“ジラルディウス”を発動したリシアは、速度だけなら総司をすら上回っていた。その総司の力をも取り込んだ今、速度も膂力も魔力も、今やリシアに隙は無い。
異世界から来た救世主の、世界救済の旅路の果て、最悪の結末の先で、リシア・アリンティアスはリスティリア最強の戦士となったのだ。史上最強の魔女ゼルレインも、史上最悪の反逆者ロアダークも足蹴にするほどの、最強の存在に。
「っとぉ!」
背後から横薙ぎに加えられた一閃を、何とか腕で受ける。絶大な膂力による衝撃がスヴェンの体を襲ったが、スヴェンは足場を踏み割りながらその場に留まった。
「あ、コイツ――――!」
てっきりリバース・オーダーによる一太刀かと思ったが、リシアがスヴェンにぶつけたのはレヴァンクロスだった。
触れた端からガリガリと削り取るように、魔力が削られるのを感じる。スヴェンが回避しきれず受けるしかないのを見越して、魔力による強化を貫通すべくリシアが敢えてレヴァンクロスをぶつけたのである。
「“レヴァジーア・ラヴォージアス”!」
スヴェンはリシアの体を吹き飛ばそうとするが、リシアからすれば遅すぎる。
重力と斥力を操る“ラヴォージアス”の支配圏内から即座に逃れ、旋回し、再び突撃の構えを見せる。スヴェンはふーっと息を吐いた。
「ったく……こんだけもったいぶったラスボスだってのに。カッコつかねえな、これじゃ」
真実かどうかはさておいても、スヴェンの話した「道理」は実に理にかなっていた。
“ゼファルス”という稀有な魔法の完全覚醒者であり、まだ年若い身で一国の騎士団の主戦力として働いていた戦士。それに加えて、救世の旅路には欠かすことができなかったほど、優秀な思考能力の持ち主。
魔法やその他の“リスティリア的な”要素を一切排した純粋な身体能力で言えば、性別の差もありその中でも総司は体格が良い方だから、総司に軍配が上がるだろうが、この次元の魔法戦闘となればそんな差異は問題外である。
リシアが“女神の騎士”の力を持って戦えるのなら、“当たり前に総司より強い”。
「嫌な戦い方をするもんだ」
レヴァンクロスをぶつけて魔力吸収の特性を肌で感じさせ、警戒させるのがリシアの狙いだ。だがだからと言ってリバース・オーダーによる斬撃を警戒しなくていいわけではない。リシアの絶大な膂力から放たれる一閃は、正面から何度も受け止められるほど安くない。元々付け焼刃の剣術しか体得していない総司が振るっても十分使い物になるよう、きれいに「斬る」というよりは「叩きつける」ために大振りで、“女神の騎士”の魔力との親和性も高いリバース・オーダーで斬り込まれる方が、単純に威力としては脅威だった。
これまでのリシアの実力からすれば異次元の力を手にしているというのに――――そして明らかに怒り狂い、精神的に平常時とはかけ離れた状態だというのに、小細工も忘れずに加えてちゃんと厄介。
世界の敵たるスヴェンからすれば、一番渡ってほしくない女に不倶戴天の敵の力が渡ってしまったわけだ。
「じゃ、まずはこれだ」
空間に穴が開いて、スヴェンがその中に手を突っ込んだ。
それは明確な隙であり、多少距離を取ったとは言えリシアの速度を以てすれば斬り込めるだけの十分な時間があったが――――
スヴェンが異空間から取り出した武器を一目見て、リシアがビタッと動きを止めた。
美しい装飾のついた槍。リシアの持つレヴァンクロスの直接的な影響を軽減するため、対抗手段として武器を持つのは理にかなっている。
だが――――
「よりにもよって……」
燃え盛る憎悪を湛えるリシアの眼差しに、更なる怒りが宿る。
「“私たち”の前でそれをかざすか、お前が……!」
「いよいよ狂っちまったか? 俺もお前も一人きりだろうがよ」
スヴェンの言葉は正しかった。ことごとく似ている二人だった。リシアが総司の剣を振りかざすように、スヴェンもサリアの槍をヒュン、と振って、互いに“最後の敵”である相手と向き合う。
最早意味のない戦いかもしれない。互いに“世界を滅ぼすための戦い”。思い描く結末にわずかな違いはあれど、その過程で起きる事象に変わりはない。
スヴェンは「女神を殺した先」を見据えて。
リシアは「憎いモノ全てを殺すこと」を見据えて。
ほとんど同じ終わりに向かうため、無二の親愛を抱いた者、或いは愛した者の形見を手にして、互いの命を奪い合う。
苛立ちを覚えるほどのきれいごとが、リシアの頭をよぎる。リシアがやろうとしていることを、決して総司が望むはずがない。そんなことはわかっている。
客観的で至極まっとうな建前を、どす黒い殺意が塗り潰していく。
「来いよ英雄。続きをやろう」
リシアが加速すると同時に、スヴェンが仕掛けた。
石の階段を離れて、空中に逃れたリシアの下へこれまた驚異的な速さで駆け込んで、槍の先で図を描くように、自分の周りをシュッと円形に撫でる。
リシアにとってみれば関係ない。スヴェンの魔法が発動する前に首を獲ろうと肉薄するが、一歩間に合わない。
石の床から植物のツルが伸びて、スヴェンの周囲を囲むようにしながら、突っ込んできたリシアを捕まえた。
リシアの知らない魔法。スヴェンが千年前獲得した魔法の一つだろう。
「“ランズ・ゼファルス”!」
自分の体の周囲に無数の光の槍を放って、拘束を瞬時に突き破る。散らばる植物を剣の一振りで薙ぎ払ったが、リシアの視界にスヴェンがいない。
視界の端でわずかに見えた。スヴェンの外套が建造物の影に沈み込むのを。
不可思議な階段を離れて街区へ位置取りを変えたのは、カイオディウムにあった“伝承魔法”の一つである“レゼリアス”を使うためだ。
かつてスヴェンによって簒奪され、継承者が残らず殺し尽くされたせいで、現代の“カイオディウム”には存在しなかった魔法。オーランドが再現してヒトに与えた魔法だ。
オーランドが再現しライゼスに与えた“レゼリアス”は劣化していた。同じカテゴリであり、それでいて別格の魔法であるミスティルの“ディスタジアス”に敗れた魔法だ。
しかしどうやらスヴェンの簒奪の力は、そのような劣化を伴わない。かつて在った通りの性能を誇る力だが――――
リシアが獣の咆哮にも似た、雄叫びとも悲鳴ともつかない叫びを上げて、莫大な魔力を全開で拡散させた。雷鳴のような轟音が響き、蒼銀の魔力が強烈な光を伴って広がって、衝撃波と共に周囲の建造物を軒並み砕いて吹き飛ばした。
影に潜んでいたスヴェンだったが、強制的に放り出された。影を作り出す建造物が砕けて散っていったことで、どうやら“レゼリアス”の条件が変わったようだ。スヴェンは至極嫌そうな顔で、力任せに“レゼリアス”を突破するリシアを見据えていた。
「デタラメじゃねえか」
“ラヴォージアス”で器用に体勢をコントロールしながら、スヴェンが呆れたように呟いた。
リシアの目がギュン、とスヴェンへ走る。スヴェンは距離を取ろうと空を飛びながら、槍の穂先をリシアへ向けている。
リシアの姿が閃光と化した。蒼銀と黄金を纏う一条の光が、一直線にスヴェンに向かう。
「“シンテミス・レゼリアス”」
スヴェンの姿がブン、とブレて、十数体に分かれた。分身を作り出す“レゼリアス”の魔法の一つ。
戸惑う素振りすら見せず、リシアが突っ込む。瞬く間に半数以上をレヴァンクロスで切り裂いて魔力を奪いながらかき消し、残る数体へ狙いを定めるが――――
「チッ――――!」
更なる突撃をかます前に気づいた。
どれ一つとして本物ではない。
「捕まえた」
悪寒が走る。スヴェンを見失ったことでリシアの動きがわずかに止まった一瞬で、スヴェンはリシアの背後を取っていた。
リシアはスヴェンの手札をほとんど知らない。これまでの相手とは違い、単体でも驚異的な力を持つ“伝承魔法”を複数持ち、それらを容易く扱う存在。
姿を周囲の景色に溶け込ませて、魔力の気配すら誤魔化す“レゼリアス”の魔法の一つ。分身体が全て「偽物」であることで、リシアに「近くにいない」と錯覚させた手練。スヴェンは千年前、ロアダークとエルテミナにすら恐れを抱かせた歴戦の戦士だ。
生命としての強靭さは、今のリシアに及ばないかもしれないが、だからと言って戦って勝つのもリシアに決まっているというわけではない。
「“レヴァジーア・ラヴォージアス”」
襲い来る重力に抗えず、リシアが墜落した。かつてシルーセンの村で、ネフィアゾーラがそうしたように――――恐らく“ラヴォージアス”の力は直接触れるかそれに近しいぐらいに近接した状態で、より強く効果を発揮する。
叩きつけられて尚、体中にのしかかってくる圧倒的な「力」。暴走状態でもあったリシアをようやく留め置けたと、スヴェンが一息つきながらスタッと建造物の上に着地する。
だが――――
「“アポリオール・ゼファルス”!!」
破壊力としては“ゼファルス”最強の魔法が発動し、“女神の領域”の足場を蹂躙した。リシア単独では未だ扱えない魔法だったが、“女神の騎士”たる今のリシアにとっては単なる手札の一つだ。
押し付けられていた地面を“アポリオール”でぶち抜いて、リシアは岩を貫き“女神の領域”の下へ出る。“ラヴォージアス”の重圧に逆らわないまま加速して、わずかに進路を変えてその支配領域から逃れた。
空に浮かぶ島のような街の外周を大きく旋回しながら、再びスヴェンの前に現れる。スヴェンは呆れた顔をしていた。
「バケモンかお前は」
少しだけ距離を取り、殺意に満ちた眼差しを向けるリシアを見つめ返して、スヴェンが苦笑する。
「しかも気付いてんな。ヒトが扱う“ラヴォージアス”の欠陥に」
「フン」
岩盤をぶち抜いたことでついた汚れをパン、と払って、リシアが下らなさそうに答えた。
「使い手の認識と反応によってでしか力場は発生しない。範囲を広げれば一点への力は弱まる。しかしどうだろうな、“借り物”故の欠陥に過ぎないのかもしれんぞ」
「ハハッ、慣れてねえな、挑発に」
スヴェンが笑った。
魔法の性質として、“ラヴォージアス”はまさに最強と呼ぶに相応しい。だが、既に常人の範疇を越えたこの戦いにおいては、絶大ではあるが必殺とは言えない。
“女神の騎士”リシアの膂力が無ければ、“女神の領域”のほぼ全域に力場を発生させれば捕まえることは容易かった。だが、範囲を広げれば威力は弱まり、弱まった威力では今のリシアを留めることはできない。
範囲を絞るということは、使い手が発動すると決めたエリアへの魔法の行使になる。であれば使い手は超高速のリシアの動きに反応するか読み切るかして、“当てる”必要が生じる。スヴェンがリシアの動きをわずかでも止める策を弄したのも、極小範囲に絞った“ラヴォージアス”でなければ、リシアに対して効力がないとわかっているからだ。
「仕留めきるべきだったな」
二振りの剣を構えて、リシアが硬い声で言った。
「二度目はない」
「どうかな?」
まるで深刻さを感じさせない軽い調子。最高峰の魔法戦闘の最中においても、スヴェンはずっと余裕だ。これ以上ないほどの殺意を向けられていても、リシアへの親しみを相変わらず感じさせる。
自分と似ていると語った彼の言葉は、まさしく彼の本心だった。
「まぁまぁ聞けよ。お前ともうちょい話したいんだ。お前もわかってると思うが――――」
スヴェンがふっと脱力して、話し始めた瞬間。
スヴェンの眼前には蒼銀と黄金の魔法陣が展開されていた。
まだ話し足りないスヴェンとは対照的に、リシアにはもう話すことなどなかった。明らかな隙を見逃すはずもなく、リシアは既に最強の魔法を展開していた。
「……油断し過ぎた」
スヴェンが呟いて後悔した時にはもう遅い。
リバース・オーダーを構えてリシアは突撃の姿勢を取る。
救世の旅路の最初から最後まで、総司にとって究極の一撃で在り続けた“女神の騎士”最強の魔法。始まりの魔法は、全てを終わらせる魔法でもある。
「“シルヴェリア・リスティリオス”!!」
“女神の騎士”として受け継いだ究極の一撃を発動しようと、リシアが叫ぶ。だが――――
「ッ……なっ――――」
“シルヴェリア・リスティリオス”は、リシアの想いに応えなかった。
魔法陣はふわりと霧散し、発動しなかった動揺もあって、リシアの体は中途半端な位置で止まる。
総司から力を受け継いだと悟った時、リシアは感覚的に全て理解していた。
第二の魔法と第六の魔法以外の全てを受け継いだ。第二の魔法は“リスティリオス”と似て非なるものであり、“女神の騎士”の魔法として受け継ぐことができないのは当然とも言える。
第六の魔法が継承できなかった理由は不明だが、もしかしたら一度きりしか発動を許さない魔法なのかもしれない。そして些末な問題でもある。リシアが誰かに受け継がせることなどないのだから。
だが、それ以外は全て受け継いでいるはずで、スヴェンとの決戦で使う魔法と言えば第一の魔法しかない。全てを終わらせる魔法としてこれ以上のものはないはずだったが――――リシアの想いに反して、第一の魔法は応えてくれなかった。
途端に襲い来る“ラヴォージアス”に捕まった。リシアは再びダン、と石の床に叩きつけられた。
「あったな、二度目が。同じ言葉を返すことになる」
どっこいせ、と建造物の屋根に腰かけて、スヴェンが言う。
「今仕留めきるべきだったぜ。間違いなく」
「ッ……同じことだ、学ばないな――――!」
先ほどと同じ展開に持ち込まれただけだ。巻き返すのは容易い。リシアは“アポリオール”を発動しようと魔力を高めて――――
「俺の目的に辿り着いてるはずだろ、リシア。よく考えてみろよ」
スヴェンの言葉で、リシアが止まった。
ようやくか、と言わんばかりに、スヴェンがふーっとため息をついた。
「ココまで来たお前がわかってないはずはない……俺がレヴァンチェスカを殺した先に何を見ているか、知ってるはずだ。だろ?」
既に“ラヴォージアス”も解かれていた。自由の身となったリシアは、茫然とその場に立ち尽くすばかりだった。
「お前の……目的は……」
震える声で、リシアが言う。
「女神レヴァンチェスカを殺し、その力を奪うこと……」
「そうだ。そして?」
「そして……そして――――」
リシアが目元を手で覆った。
「全能の力で……千年の時を巻き戻し、ルディラントの滅びを――――サリアの死を、なかったことにする。それがスヴェン・ディージングの“理由”、だ……」
「お見事。正解だ。ようやくわかってくれたか? この話をしようと思ってたんだが、全然止まってくれねえ。ひやひやしたぜ、勢い余って殺しそうでよ」
スヴェンがぱちぱちを拍手して、リシアの予想に対し答え合わせをした。
「スティーリアって名前をストーリアにした方が良い、そう言ったのも俺だが、リスティリアも実は俺の案でな。“今の俺の”案だから、どうやって定着したんだか知らねえけど。っつっても、お前には馴染みがないか」
スヴェンは相変わらず、至極軽い口調だった。
「俺やアイツの世界じゃ、“繰り返す”とか“再び”ってのを一言、“リ”って頭に付けて表現することがあってな。“スティーリアをもう一度”で、“リスティリア”だ」
楽しそうに話すスヴェンだったが、リシアは目元を手で覆ったまま、片膝をついたままで無反応だった。
「俺の母国語だと、ちょっと発音が合わなくてな。世界の名前だ、カッコいい方が良い。だろ?」
スヴェンの言葉に則って表記するとすれば、リスティリアとはすなわち『ReStiria』。
スティーリアをやり直すための物語。
千年の時を巻き戻し、ルディラントの滅びを――――サリアの死を、なかったことに。
“最後の敵”であり“世界の敵”スヴェン・ディージングに千年もの間、目的意識を片時も忘れさせなかった――――彼のただ一つの“理由”である。
「お前でなくとももうわかるだろうな」
スヴェンの声は真剣さを帯びていた。
彼がリシアに与える誘惑は、リシアにとって抗いがたいものだった。
「必ず達成できると約束したところで、信憑性なんざないだろうが……ルディラントに、サリアに誓おう」
葉巻に再び火をつけ、スヴェンが力強い声で告げた。
「俺は全てを“巻き戻して”みせる。ルディラントの滅びも、サリアの死も――――ソウシ・イチノセがリスティリアに召喚された事実も全て、“なかったこと”にしてみせる。アイツが死んだ現在もひっくるめて、俺が必ず消し去ってやる」