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リスティリア救世譚  作者: ともざわ きよあき
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眩きレブレーベント・第六話③ 共闘

「“レヴァジーア・クロノクス”!!」


 雷鳴が轟き、金色の稲妻が降り注いだ。魔獣を覆い、貫く、電撃の嵐。魔獣の体が初めて、ぐらり、と明確にダメージを受けてよろめいた。


「――――ま、今のは落第モノだけど。私を呼びつけた功績でチャラってところかしらね」


 リシアは、その声を聞いた瞬間、彼女が来たことを理解した瞬間、ぞくりと背筋に悪寒を覚えた。


 刺すような殺気、気圧されるほど濃密な魔力。総司の清涼な魔力とも、魔獣の溢れんばかりの憎悪の気配ともまた違う。


 ドラゴンの革を丁寧に仕上げたダークブラウンのジャケットに、ユニコーンの毛を編み込んで仕立てたタイトな黒のパンツ。


 王女らしいドレスなど脱ぎ捨てて戦う者としてやってきたアレインが、不敵な笑みを浮かべてリシアの前に躍り出た。


「礼を言うわ、リシア。下がってなさい。巻き込んじゃうから」

「あ……アレイン様……」

「っていうかあなたはホント役に立たないわねー。少しは騎士らしいことしなさいよ」

「あー、ムカつくけど何も言い返せねえ」


 リシア救出のために飛び出していた総司が、アレインの隣にすたっと着地して、顔をしかめながら愚痴った。


「強いの?」

「かなりな」

「良いじゃない」


 危険な笑みだ。好戦的で、慈悲の欠片もない。端正な顔立ちであればこそ、迫力が増しているように見える。


「この前の雑魚じゃあ物足りなかったところよ」

「……全ての攻撃が致命的だ。わかってんだろーな」

「あら、失礼な。わかってないように見える?」


 既に臨戦態勢。


 アレインの右目に宿る紫電の光は、総司にとっても因縁深い。だが今は、そのことについて掘り下げている暇もない。


「勝手に合わせるから気にしなくていいわ。存分に力を振るいなさい」


 魔獣がまたしても、赤熱した尻尾を振り抜いた。


 咄嗟に身を翻した総司とリシアだったが、アレインは涼しい顔をしている。ピッと人差し指を立てて、魔獣へ向け、唱えた。


「“ジゼリア・クロノクス”!!」


 空間がゆがみ、アレインの周囲から無数の雷の弾丸が飛び出して、魔獣の鱗と激突し、空中で凄まじい爆発が巻き起こる。


 爆炎の中を突き進み、総司が魔獣に肉薄した。


「おっ」


 アレインが素早く雷を操って、虚空へ放った。リシアの目には、その行動の意図がわからなかった。


 総司の攻撃をかわし、高速で彼の死角へ回り込もうとした魔獣が、アレインが“置いていた”雷の弾丸をかわしきれず、直撃を喰らった。


 それでもほとんどダメージがないようには見えるが、アレインの技巧は素晴らしい。戦いに関係する嗅覚が優れ、驚異的な力を持つ魔獣を前にしても至極冷静に立ち回っている。


「“ヴィネ・クロノクス”!!」


 今度は、雷を収束させ槍のように放つ、鋭い一撃。


 リシアが語った“クロノクス”の魔法を、アレインは惜しみなく使った。それだけ、この魔獣が強敵だと言うことだ。


 余裕はある。だが、総司と同じだ。アレインは決して油断していないし、相対する魔獣の力を過小評価していない。


 魔獣が吼え、アレインの魔法を正面から受け止める。総司の相手をしていては、アレインの鋭い一撃を避けるだけの余裕がない。


 しかし、そう何度も受け切れるほどの威力ではない。後衛のアレインが加わったことで、戦闘そのものは確実に有利になっている。


 雄たけびを上げた魔獣が、凶悪な牙を持つ口をがばっと開いた。全身の赤熱した鱗が温度を増し、より朱く、強く輝く。魔獣が何をするつもりなのか、容易に想定できた。


「やっべ……!」


 魔力と熱を束ねた破滅の一撃。一直線に伸びる大火力の砲撃が、総司を捉えた。


 これも、紙一重で回避する。体で感じる高熱が、当たってしまえば間違いなく致命傷であることを告げている。


 速度と膂力、それに種類の異なる大火力の遠距離攻撃。戦闘に特化したこの魔獣は、戦うための武装を全て兼ね備えている。


 だが、代償はある。


 活性化し、凶暴性が増しているから、魔獣は気にも留めていないようだが、その体のところどころには既にほころびが出始めているのだ。強すぎる力の対価なのか、赤熱が制御しきれずに体を焼いているようにも見えた。


 それでも脅威には変わりないのだが。


「いやー……なめてたつもりもなかったんだけど」


 遠くに見える山々の一部が消し飛んだのを見て、アレインが流石に顔をひきつらせた。


「これ、王都の方角に撃たれたら終わりよね……こいつどこから来たの? 『こんなの』が近場に現れるとか、普通に国家滅亡の危機じゃない?」

「恐らくシルヴェリア神殿周辺からかと……! ここで仕留めなければ、本当に全てが壊滅します!」

「シルヴェリア神殿……あぁ、そういうこと。“活性化”してるのね、コイツ。道理で強い」


 アレインがどこか納得したように、魔獣を見て目を細めた。


「だから私を狙わない、と……ここまでわかりやすいと、ちょっと気持ち悪いわね」

「……アレイン様?」

「リシア、暇でしょ。ちょっと聞きなさい」

「暇っ……じ、実に不本意ですが、ええ、情けないことに……」


 リシアがずーんと落ち込んでしまったが、アレインは愉快そうに笑うだけだ。


「結局、アイツを仕留めるには、私が“ドラグノア”をぶち当てるか、彼が首を掻っ切るぐらいしかないわけ。ってことは、多少強引にでも、あのすばしっこい上にアホみたいに強い相手を止めないといけない」

「……ええ、そうなるでしょう」


 王女が操る雷の龍、ドラグノアの一撃を以てすれば、頑強な体と魔力を持つあの魔獣であっても、甚大なダメージを与えられるか、うまくいけば倒し切れる。


 魔獣の力は、魔獣そのものの器を越えて強くなりすぎており、それを総司とアレインと言う強敵相手に全開で振るっているが故に、体が自壊し始めているようだが、そのダメージの広がりを待つだけの余裕はなさそうだった。いつ限界が来るかもわからないのにだらだらと戦いを長引かせてしまったら、何かの間違いであの熱線が王都に向かって飛びかねない。


「あなたが得意とする魔法があるでしょ。あれなら隙を作れる」

「……どのようにすればいいでしょう? 私には、とても思いつきません」

「簡単よ、かーんたん」


 アレインはにやりと笑って、


「並の魔法が通じないのは、あくまでも魔獣にだけって話でしょ?」


 剣の一撃が、ようやく炸裂した。


 総司の刃が、魔獣の刃を上回った。完璧なタイミングで、完璧に力を乗せた一閃。魔獣の腕と一体化したブレードを、ものの見事に両断する。それでも魔獣は怯まないが。


 神速の猛攻をかわし続け、ギリギリのところで攻撃のチャンスを伺う。


 今の一撃で総司にも自信がついた。決して刃が届かない相手ではない――――それに、魔獣は確かに圧倒的な力を誇り、多様な攻撃手段を持つものの、総司を倒せるだけの一手がない。アレインの援護も効いているのだろう。魔力を帯びた雷による強烈な一撃は、魔獣の魔力の波長を狂わせ、当たった部分にだけでなく、全身に影響を与えている。


 首を斬り落とせるだけの隙があれば、この戦いに勝つことも不可能ではない。


「下がって!!」


 アレインが号令をかけた。

 総司が咄嗟に回避すると、アレインの凛とした声が響き渡る。


「“レヴァジーア・クロノクス”!!」


 魔力を高め放つ、アレインの攻撃。莫大な雷の奔流が、魔獣を呑み込む。


 それでも魔獣は雄々しく吼えて、距離を取った総司に追いすがろうとするが、そこから先へ進めなかった。


 突如、魔獣の足元が大きく割れ、崩れ、大地の中に引きずり込まれたからだ。


「“ランズ・ゼファルス”!」


 リシアが最も得意とする、凝縮した魔力の塊から周囲へ光の槍を放つ魔法。リシアの実力では、魔獣の強固な鱗を突き抜けてダメージを与えることは出来ないが、アレインの指示通り「地中」へ撃てば、大地を大きく崩すことが出来た。


「おおっ!」


 態勢を立て直した総司が、喜びと共にぱっと上を見上げる。

 既に、彼女は飛んでいた。


「“ドラグノア・クロノクス”!!」


 天空から突進する巨大な龍の頭。口を開いた雷の龍は、回避行動すらとれない魔獣に向かって突進する。


 山々を吹き飛ばした熱線で応じようと魔獣が構えるが、遅い。ドラグノアの一撃は確かに魔獣に激突し、地面ともぶつかって、目もくらむような閃光と、強大な魔法が巻き起こす衝撃波を撒き散らした。


「……やるじゃないの」


 流石のアレインも、目を見張る。


 完璧に決まった一撃。無論、全てを賭した全身全霊の一撃というわけではないものの、本気には違いなかった。アレインの本気の一撃ともなれば、それは滅多にお目に掛かることも出来ない、強烈な魔法だ。


 それを受けて、尚、魔獣は立っていた。全身に雷が走り、バチバチと迸るダメージの余韻を残しながらも、崩れ落ちることなく。


 自らの強大な力で綻びが出てきているというのに、魔獣は悠然と立っていた。


 想定外の事態だったが、魔獣が動く前に、決着はついた。


 蒼銀の閃光が駆け抜ける。


 この瞬間を待っていた。魔獣の動きが止まり、明らかな損傷と雷の衝撃で防御力が落ち、甚大なダメージでまともに警戒することもできなくなる、わずかな間隙。


 神速の領域に達する女神の騎士の一閃を、遂に魔獣はかわしきれず、その首元から両断される。魔獣の体は、自身の熱と、そこに加えられたアレインの雷の衝撃が溢れだし、派手に爆発した。強力な魔力の爆発が、地形を変えるほどの衝撃となって広がった。


「くっ……!」


 吹き荒れる突風に思わず、腕で顔を覆ったリシアの視界に、鈍く光る何かが見えた。


「ッ……あれは……」


 衝撃波に逆らい、何とか体を動かして、吹き飛んでくる何かを掴んだ。


 火傷しそうなほど熱い、何か。


 それは、この世の闇を凝縮したかのようにただ黒く光る、魔力の結晶。

 魔獣が活性化する一因となる、謎の結晶だった――――


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