深淵なるローグタリア 真章開演 眩き希望のローグタリア
海上要塞の大火力が、神獣王の周囲にまで届いた。
ゼルムの群れが虫けらのように爆散し、ぼとぼとと次々に海へ落ちていく。
打ち漏らしを相手取るわずかな手勢だけが海上要塞の周囲に残り、ほとんど全兵力が飛行艇の護衛に回っていた。
海上要塞と飛行艇、そして“女神の騎士”の攻撃力を、神獣王へ届かせる。ディネイザの魔法が機能している間に神獣王を倒す。共通の目的のため一丸となり、命懸けで戦う彼らはすさまじい強さだった。
それでも、個々の戦闘能力はゼルム一匹に到底及ばず、飛行艇を護るためにドラゴンと共に身を投げ打って、散っていく者も数多かった。血風舞う戦場の最中を、強い決意の眼差しで総司とリシアが突き進む。
二人の目的は一つ――――至近距離で、神獣王の脳天に“シルヴェリア・リスティリオス”を叩き込む。
頭蓋を潰せば殺せるのかどうかは定かではないが、頭を狙うのは生物の普遍的なウィークポイントだから、というわけではない。
弱点かもしれないがそれ以上に、「そこにカトレアもいるから」と言うのが大きい。究極の攻撃魔法である“シルヴェリア・リスティリオス”の攻撃範囲は広く、頭を狙えばカトレアもろとも巻き込める。
「くっ……!」
ゼルムの突撃が総司の頭を掠めた。“ラヴォージアス”の力は絶大で、女神に与えられた魔法では器用さに欠けるという総司の弱点を見事に補ってくれているが、術者である総司が不慣れで全てを捌き切れていない。
無尽蔵に近い魔力量とスタミナを誇る総司だが、それでもやり過ぎれば空になってしまうことは過去の経験から理解している。ティタニエラでもカイオディウムでも、魔力とスタミナが空っぽになるまで力を出し尽くした経験がある。
“ラヴォージアス”を全開でぶつければ、神獣王までの道は開ける。だが、カトレアに勘付かれて対処の猶予を与えてしまうと、突撃の隙を潰される可能性がある。
神獣王の意思がカトレアに握られているのならば、カトレアが想定しておらず、対処の間に合わないタイミングで攻撃を差し込む必要がある。
そのために、兵士たちが命を賭して道を開こうと尽力してくれているのだ。総司が逸れば、その覚悟と犠牲が台無しになる。
「“ランズ・ゼファルス”!」
リシアの魔法が総司の周囲のゼルムを一掃した。一瞬の間隙の後、別の群れが一目散に二人の元へと襲い掛かってくる。
最初からわかってはいたが、やはり圧巻の物量だ。神獣王本体は大した抵抗も見せていないのに、ゼルムを相手取るだけで精いっぱい。ゼルム達もディネイザの魔法の効果範囲内にあって弱体化しているのに、それをものともしない数の暴力で襲い掛かってくる。
何よりゼルムには命への執着がない。痛覚があるかも定かではない。命を散らす特攻に一切の躊躇いがなく、足や羽を奪ったところで簡単には止まってくれない。ヒトであれば腕どころか指の一本でも吹き飛べば、多少は動きが鈍るものである。高度な知性を持つ魔獣も、痛みで動きが止まることはある。ゼルムにはそれが一切ないのだ。
「簡単にはいかねえな……!」
「ああ、だが必ず勝機は来る!」
リシアが力強く言った。
「ディネイザの魔法が間違いなく効いている。必ず綻ぶ時が来る。だが何度も訪れるものではない。決して逃すな」
「ああ、もちろん……!」
神獣王自らがアクションを起こしていないのは奇跡的だ。今はゼルムの群れに防御を任せていて、一番最初の魔法の砲撃と“怨嗟の蒼炎”による近距離迎撃以外には攻撃的な姿勢を見せていない。神獣王の力が直接海上要塞に向けられれば全てが終わりかねないが、ディネイザの魔法が効いているのか、その動きは見られない。
それがいつまでもつのか、リシアにもわからない。単なるカトレアの気まぐれか、それとも何らかの事情があるのかはわからないが、いずれは神獣王の本領が発揮される時が来る。
そうなる前に一撃を叩き込みたい。それはリシアも考えているが、ゼルムの群れをいなしながら思考を回しても妙案が思いつかない。
それほど、ゼルムの物量が圧倒的なのだ。海上要塞の火力と飛行艇の砲撃があれば道を開けるだろうという、ローグタリア陣営の見立ては少々甘かった。
海上要塞の大砲塔がその火力を神獣王にぶつけられないのでは、削ることも出来ない。
『あっ、このっ!』
いつの間にか、総司とリシアはゼルムの群れとやり合いながら、ウェルステリオスとアニムソルスがぶつかり合う戦場の近くにまで来ていたらしい。
アニムソルスの少し慌てたような声が聞こえた。
同時に、総司とリシアのすぐ近くを、赤と紫の光を纏う巨大な魔法の閃光が駆け抜けた。
空を真っ二つに切り裂かんばかりに、ゼルムの群れを駆け抜けていく無双の息吹。ウェルステリオスの強力無比な破壊の咆哮が、神獣王を護るゼルムの軍勢を一気に蹴散らした。
その隙を逃すヴィクターではなかった。ウェルステリオスが切り開いてくれた「進路」を更に広げるべく、海上要塞と飛行艇の砲撃が集中する。総司がかっと目を見開いて、“ラヴォージアス”を駆使して一直線に高度を上げた。
「見えた――――!」
道が開けた。神獣王の頭蓋まで一直線に突っ込める絶好のタイミング。
神獣王の頭の上にいるカトレアを再び視界に捉えた。
カトレアは総司を確かに見つけているのに、何の感情も見せていなかった。
隣にはリゼットがいた。微笑を浮かべたリゼットが――――
「やべえ……」
神獣王は何のアクションも起こしていない、というわけではなかった。
その目で見るまで気付かなかった。神獣王の周囲に無数の“怨嗟の蒼炎”の弾丸が浮かび上がっていた。一つ一つが、レナトゥーラのものとは比較にならないほど巨大。
突っ込めば“シルヴェリア・リスティリオス”を叩き込めるかもしれないが、迎撃も受ける。総司の攻撃がどこまで通じるかわからない現状、一撃を入れるのと引き換えに総司が落ちたのでは意味がない。総司は咄嗟に“ラヴォージアス”を駆使して防御の姿勢を取った。
だが、カトレアの――――否、リゼットの狙いは、総司ではなかった。
「さあ、幕を引く時間だ、ソウシくん」
放たれた蒼炎の弾丸は、総司を通り過ぎていって、全てが海上要塞に向かった。
「障壁を張れヴィクター!」
『わかっておる!』
海上要塞の砲撃が止み、代わりに障壁が展開される。最初の攻撃を逸らせたのとは違う、ドーム型の障壁。神獣王の攻撃の威力はすさまじく、蒼炎の弾丸の全てを受けきる頃には障壁が全て消し飛んだ。
一部の弾丸は司令部の近くにも着弾し、司令部が半壊した。ヴィクターは危険を察知していて、すんでのところで外に出ていた。
『構うなソウシ! 貴様の役割を思い出せ!!』
「ッ――――わかった!」
総司は海上要塞から視線を外し、神獣王の頭蓋へと狙いを定め、魔法の発動準備に入る。攻撃力最大、始まりの国から今に至るまで総司の究極の一撃で在り続けた最初の魔法、“シルヴェリア・リスティリオス”。この魔法が神獣王に通じるか――――一撃で仕留められないまでも、ダメージを負わせることが出来るか否かが、この戦いの趨勢を大きく左右する。
兵士たちとヴィクターが死んだとしても、その屍の上で勝利を謳え。ヴィクターが総司に再三にわたって言い聞かせてきた、この戦いの勝利条件。
たとえローグタリアが滅びようとも、神獣王を打破し、総司とリシアがこの先へ進む。そうでなければならないのだと、総司も理解していたが――――
総司は“徹しきれなかった”。
「まずいっ……!」
リシアが海上要塞へ視線を向けて目を見張り、絞り出すように呟いた。
蒼炎の弾丸は驚いたことに、その内部にゼルムを内包して飛ばされていた。
ヴィクターは健在であったため、障壁が消し飛ぶと同時に砲塔による迎撃を再開して、空中にいたゼルムが海上要塞へ入ることはなかったが、蒼炎の弾丸と共に運ばれたゼルムは別だ。迎撃対象ではなかったゼルムが、一斉に司令部付近にいるヴィクターに向けて飛んだ。
「チィ――――!」
海上要塞の砲塔は、海上要塞の「内側」へ撃つためのものではない。多少の防御機構はもちろん備えているが、数えきれないほど降り注いだ弾丸の全てが数体のゼルムを内包していたのである。とても全てを防ぎ切れるものではなかった。
飛行艇の内の一隻と、護衛の兵士たちが海上要塞に向かった。飛行艇の攻撃力があれば、多少は海上要塞に被害を出してしまうが、ゼルムを何とかすることが出来る。だが、間に合いそうもなかった。
ヴィクターの元にゼルムの内の一体が迫った。ヴィクターは何とか逃げようと身を翻したが、流石に避けきれるものではない。
「させません!!」
刃のような腕を振り上げた態勢で、ゼルムがビシッと固まった。
セーレを『歯車の檻』へと送り届けたアンジュが戻り、髪を操る魔法でゼルムを拘束した。
「よく戻ったアンジュ! 今しばらく耐えてくれ、すぐに救援が来る!」
「はい、お任せください!」
兵士数人がかりでも抑えられないゼルムを、一人で抑え切ったアンジュは見事だった。
見事だったが――――ゼルムは一体だけではなく、相当な数が要塞に侵入している。
次の一体が辿り着き、ヴィクターではなくアンジュを狙った。
アンジュは咄嗟に対応できず、襲い来るゼルムを見て目を見開くばかりだった。そして――――
アンジュを突き飛ばし、ヴィクターが飛び込む。振り下ろされたゼルムの刃のような腕は、ヴィクターの背中を深々と切り裂いた。
「む、ぐぉっ……!」
「こ、のぉ!」
アンジュが捕まえていた一体のゼルムを、ヴィクターに襲い掛かったゼルムにブン、とぶつける。二体のゼルムが一旦は、少し遠くへ吹き飛ばされた。
「陛下……陛下!!」
倒れ伏すヴィクターを抱えるアンジュの悲痛な叫び声が、通信機を介して、総司の耳に届いてしまった。
「ッ――――ヴィクターーーー!!」
『あーあ……だから今のキミじゃダメなんだよ』
アニムソルスが呆れたように呟いた。
神獣王の攻撃は終わっていなかった。
総司がすぐに切り替えて、海上要塞の状況など気にも留めずに突っ込んでいれば、恐らくは間に合っていた。だというのに総司は注意を海上要塞に向けてしまった。ヴィクターの安否を知りたいと思う焦りの感情が、全てを台無しにした。
神獣王の外殻の先から放たれた無数の魔法の砲弾。神獣王が顕現し、その元へと向かった総司が敗北を喫することになった攻撃。
総司はその直撃を受けた。
“ラヴォージアス”による防御は間に合わず、強烈過ぎる神獣王の魔力が体中を駆け巡り、自由を奪われるのを感じる。意識は手放さなかったが、総司の“エメリフィム・リスティリオス”が解けてしまった。
総司の位置から神獣王への「進路」が開けて見えたということは、逆もしかり。神獣王から総司への攻撃も間違いなく通る、そんな場所で、総司は体の自由と、この戦いに不可欠だった強力な魔法の力を失ってしまったのである。
「多分言われてたはずだよね、“キミが勝てば良い”んだって」
神獣王の頭まで、まだ距離はあった。総司であれば一瞬で詰められる距離ではあるが、声が届くほどでもないはずだった。けれど、リゼットの声が聞こえた気がした。
「間違いなく言われていたはずだ、“キミさえ生き残れば望みはある”んだって」
リゼット・フィッセルはずいっと身を乗り出し、落ちていく総司を憐れむような目で眺めていた。
「でもキミにはそれが出来ないんだ。キミは破綻しているから。それは優しいんじゃない、甘くてぬるいだけなんだ」
“女神の騎士”は強いけれど、悪意を持って相対し、倒そうと思えば、驚くほど簡単なのだと、リゼットは証明して見せた。
今までの相手は「そういうこと」をしてこなかっただけ。
己の誇りのため、或いは生き様のため、或いは楽しみのために、「総司と真っ向から激突する」ことしかしてこなかっただけだ。
甘くてぬるい彼は、どれだけ頭で理解していても、土壇場で「切り捨てる」ことが咄嗟に出来ないから。
崩そうと思えば、簡単に崩せる。
まるで「勝っている」かのように錯覚していた。
もとより勝ち目などないに等しい戦いの中で、奇跡的な展開にたまたま持ち込めていただけ。これまでも、そしてこれからも、わずかのミスも許されない戦いだったのに、総司が判断を誤った。
薄氷の上で積み重ねた奇跡など、崩れるのは一瞬。
二人を崩せば、全部瓦解する。
神獣王の外殻の一つがバキリ・バキリと伸び始めた。怨嗟の蒼炎を鞭のように使って見せたのと同じように、今度は外殻が伸びて硬い触手のようになり、落ちていく総司を上から叩き潰そうと追いかけた。巨大な「槌」となったそれから、動けない総司では逃れられない。
リシアもまた半端な位置取りになってしまった。総司が攻撃を仕掛けるのならば、リシアが傍にいても邪魔なだけ。自分に出来ることをしようと、総司から少し離れた位置にいた。
今更総司を援護しようにも、ゼルムの群れをリシア単独で突破し、総司のところへ辿り着くのは不可能だった。
「心配しなくていいよ。そう遠くないうちにあたしもそっちに行くから――――恨み言をいくらでも聞いてあげよう」
動けない総司に襲い掛かる外殻の鉄槌。総司は歯を食いしばって体を動かそうともがいたが、到底間に合わず――――
プチンと潰される寸前で、何かに体をさらわれた。
カトレアの目が、あまりにも速すぎる「何か」を確かに捉えた。視線で追いかけた先に、彼女は信じられないものを見る。
「――――馬鹿な……」
もうだめだと思う暇すらなく、総司は叩き潰されて死んでいたはずだった。
けれど今、総司は何か生き物の背に乗っている。ぐったりと体を突っ伏し預けるその背中は、総司が今まで乗ったことのない生物のものだった。
「彼」か「彼女」かはわからないが、その「同胞」の背中には乗ったことがある。
そのどちらとも感触が違った。繊細で鮮やかな毛並みと、力強い鼓動を肌で感じた。何とか動けるようになった総司が顔を上げ、そして驚愕の呟きを口にする。
「ビオス……テリオス……?」
“生命を慈しむ獣”ビオステリオス。リスティリアに存在する四体の神獣の内、「一番最初に」総司が出会った神獣。
意識がハッキリしてきて、ばっと体を起こした。
「ビオステリオスだとォ!?」
馬と竜を掛け合わせたような、総司の感覚で言うところの「カッコいい」生物。翼を広げたビオステリオスは、総司の呼びかけに応えるように小さく吼えた。
かつて総司は、一方的にこの神獣に約束を押し付けた。そしてこの神獣は、確かにその時、歌を歌うようにして好意的に、了承の返事をくれた。
――――お前もいつかその時が来たら、力を貸してくれ!――――
いつか交わした約束を果たすために、ビオステリオスは総司の窮地に駆け付けてくれたのだ。
そして援軍は、ビオステリオスだけではない。
ビオステリオスは、“レブレーベント山脈”が最高峰・霊峰イステリオスに住まう神獣である。
――――あれの力はいずれ必要になる。レブレーベントにも、お前にもな――――
「ちょっと待て……まさか――――!」
総司がすんでのところで助かったのと同じ頃、海上要塞では、倒れ伏すヴィクターを抱きしめ、アンジュがその名を呼んでいた。
ヴィクターは何とか飛びかけていた意識を持ち直して、腕を動かし、アンジュを突き飛ばそうとした。だが、力が入らず、彼女の顔を撫でるだけにとどまった。
「逃げよ……! オレを捨て置け……! 傷を負っておらんのなら、貴様はまだ戦えるだろう……! まだ負けておらんのだ、行け……!」
「お断りします」
「ならんと言っている……!」
最初に吹き飛ばしたゼルムと、追いついてきた他のゼルムたちが、二人に迫ってくる。ヴィクターを犠牲にすればアンジュは逃げられるかもしれないが、それに意味があるとは考えていなかった。
「陛下を置いていくわけにはいきません。私が最後までお守りいたします」
「認められるものかっ……早く――――!」
まだ諦めようとしないヴィクターの頭を胸元にぎゅっと抱きしめて、アンジュは静かに言う。
ゼルムがすぐそばまで迫り、刃のような腕を振り上げた。
アンジュは死の淵に立って、驚くほど穏やかな顔で、声で、ヴィクターに言う。
「こんな時に言うことでもないのですが……お慕いしておりましたよ、陛下」
「馬鹿者め……知っておるわそんなこと……貴様もわかっているだろう」
「ええ、もちろん――――」
次の瞬間、アンジュの耳元に届いたのは、死を告げるゼルムの刃の風切り音ではなかった。
凛として力強く、それでいて鈴の鳴るように美しい――――毅然とした女性の声だった。
「“ジゼリア・クロノクス”!!」
轟く雷鳴、迫り来るは無双の稲妻。
夥しい数の雷の弾丸が天から降り注ぎ、ヴィクター達の周囲にいるゼルムの群れをことごとく薙ぎ払っていく。
機械の力なくしては到底敵わないような個の強さを誇るゼルムが、しかもディネイザの魔法による弱体も効いていない海上要塞で、魔法によって、砲撃を前にするよりも更に容易く、消し飛ばされていく。
アンジュはふっと顔を上げた。頬を一筋の涙が伝っていた。
『歯車の檻』の方角を見て、呆けた顔のまま――――アンジュは思い出していた。
ばあやが少し前に自分に言ってくれた言葉を。
――――女神さまは、頑張っとる者のことをそう簡単に見捨てやしない――――
ヴィクターが倒れ伏し、アンジュが座り込む司令部の残骸のすぐ近くに、彼女は軽やかに着地した。
迸る魔力と稲妻が、その圧倒的な気配が、何よりも眩いほどに強い瞳の輝きが。
彼女の強さを、気高さを、これでもかとアンジュに叩きつけてくる。彼女と会うのは初めてなのに、アンジュは一目で彼女が誰であるかを理解した。
“手紙”は届かなかったはずだ。
届いていたとして、間に合うはずがないのだ。
彼女がここにいるはずがない。けれど目の前にある現実は、アンジュの「そんなはずがない」の全てを否定する。
――――女神さまはちゃんと、ちゃぁんと、見ていてくださるよ!――――
「ローグタリア同盟国・レブレーベントが女王エイレーンより勅命を受け、参上いたしました」
呆けたままのアンジュの目の前に、巻かれた書簡をすっと差し出して、彼女は薄く微笑んだ。黒いコートがふわりと風に翻った。まるで絵画の世界から飛び出してきたかのような、美しい姿だった。その光景をアンジュはきっと、生涯忘れないだろう。
「レブレーベント王女・アレインと申します。たった一人と一体の増援で申し訳ありませんが、微力ながら神獣王討伐の戦線に加わりたく存じます。許可をいただけますか、皇帝陛下」
絶体絶命の極致で、希望に満ちた再会を。
“稲妻の魔女”アレイン・レブレーベントが、決戦の地に降り立った。