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リスティリア救世譚  作者: ともざわ きよあき
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眩きレブレーベント・第五話④ 上回るためには

 王都シルヴェンスに向かう魔獣の群れが捕捉されたのは、アレインが賊二人を撃退してから三日が経った日の午後のことだった。


 相変わらず書物の山に埋もれ、リスティリアの知識を身に付けようとしていた総司は、第三騎士団の騎士から知らせを聞いて、大急ぎでリシアの元へ向かった。


「仕事か」

「ああ。出番だ」


 自分の剣を携えて、リシアも準備万端という様子で総司を出迎えた。既に城の裏門には、第三騎士団のメンツがずらりと並んでいた。


「バルド殿は不在だ。第二騎士団は各地に派遣されている者が多い。その残りのメンツと第一騎士団で城の護りを任せ、我々は王都の外で迎え撃つ」

「ようやく騎士らしいことが出来そうだな」


 総司がにやりと笑って、剣の柄を叩いた。


「あてにしているぞ」


 レブレーベント魔法騎士団の騎士たちは皆、魔法による高速移動の術を心得ていた。軽やかに王都の住居の上を走る騎士たちの物々しさが、住民たちにただごとではないことを悟らせる。王都には既に第二騎士団のうち、残っている者たちが散らばって護りを固め始めていた。


「数は?」

「目測で300を超えるそうだ。“活性化した魔獣”と思われる個体がいるかは不明」

「結構な数だなオイ。通り道に街や村はなかったのか?」

「今のところ被害の報告はない。一直線に王都を目指しているようだ。恐らくは……」

「オリジン……レヴァンクロスか」

「シルヴェリア神殿の方角からこちらへ向かってきている。やはり、レヴァンクロスには魔獣を惹きつける何かがあるんだろう」

「作戦は?」

「野放しにすれば一時間もしないうちに王都の端に辿り着く。陽動も効果があるか疑わしい以上は正面突破しかなかろう」

「わかりやすくて良い」


 王都を抜け、しばらく走れば平原に出る。シルヴェリア神殿を目指した時と同じ道のりだ。


 立ち止まった騎士たちは、襲い来るであろう魔獣の群れの到着に備えて、隊列を組み、構えていた。


 総司も既にリバース・オーダーを手に取っている。総司の感覚が捉えられる範囲まで、魔獣の群れは迫っていた。


「――――私は出なくても良いの?」


 総司たちが魔獣の群れを迎え撃とうと、平原で士気を高めている頃。


 城の回廊から、シルヴェリア神殿の方角を見て、アレインが言った。


 回廊の曲がり角に身を潜めていたカルザスは、観念したように姿を現し、苦笑しながら首を振る。


「アレイン様自ら出陣なさるほどの事態ではありません。騎士たちにお任せください」

「ふーん?」


 石の縁に手を付いて、アレインが微笑む。口元に浮かぶ笑みはどこか嗜虐的にも見えた。彼女のその笑顔こそ、誰もが――――今のところ一人を除いて、誰もが彼女を信頼できなくなる象徴である。


「まあ、彼が出ている以上、つまらない戦いにしかならないでしょうけど」

「……やはりご存知なのですね。彼が何者であるのか」

「もちろん。まあ、期待以上ではなかったけれど」


 アレインの言い方は、恐ろしいほど冷たかった。それこそ、何気ない会話と思っていたカルザスが思わず冷や汗を流すほどに。


「あれでは“及ばない”。そもそも異世界の人間に頼るなんて愚の骨頂よ。あなた達も、女神もね」

「アレイン様」


 カルザスが初めて、強く、鋭い声で彼女の名を呼び、ぐっと詰め寄った。


「知っていることを全て我らに、彼に御開示ください。どうか、お願い致します。あなたは我らよりも多くのことをご存知だ!」

「……らしくないじゃない、どうしたの?」

「どうしたの? ではありません!」


 普段は冷静で、どこかひょうひょうとした、つかみどころのない男――――カルザスは本気で、叫ぶように、そして懇願するように、アレインに想いをぶつけた。


「ついこのあいだ、街一つが滅びました! それだけではない、当たり前のように強力な魔獣が出没しては、今もなお人命を脅かし! リスティリア中で、正体不明の異変が起き始めている! その異変の最中現れた“女神の騎士”、これはもう偶然ではあり得ない! ここで彼に賭けるしかないんです! レブレーベント一国でも、他国それぞれが奮起しても、この異変の連鎖は決して止められない! あなたほどの御力があれば、きっと――――!」

「言った筈よ。彼に頼るなど、愚かなことだと」


 アレインは冷たく切り捨てた。カルザスの必死の懇願を、取るに足らない戯言と。


「私には私のやり方があり、私の道がある。その道を征くのに、あの男は邪魔でしかない」

「アレイン様……!」

「いずれ、彼も思い知ることになる」


 アレインは、縋るように伸ばしたカルザスの手をバシッと払って、その脇を通り過ぎながら、言った。


「“かの者”を上回るためには、上回るため以外の全てを捨てなければならないと」


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