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リスティリア救世譚  作者: ともざわ きよあき
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深淵なるローグタリア 序章① 醸成された狂気

 “女神教”と相反する思想が、シルーセンの事件の発端と言っていい。


 極めて簡単にまとめてしまえば、“女神教”が“女神レヴァンチェスカを唯一神として崇め奉る”教義であるのに対する逆の思想。


 女神レヴァンチェスカを神と認めず、信仰の拠り所を他に探そうとする派閥である。


 ただし――――それは決して、最初から彼らが「別の教義」を持っていたからというわけではない。元を辿ればこの歪な在り様、“女神教”に対するアンチテーゼであるかのような彼らの思想も、千年前の大事件を発端として、歪みに歪んで今日にまで至ってしまったのである。


 現代のリスティリアに刻み付けられた因縁はほとんど全てが、千年前に原因を抱えているのだ。


 そのあまりにも歪で、無情にも思える在り様の変遷も、カイオディウムにおいて千年前から続く因縁を振り返ればその根源を紐解くことが出来る。


 ローグタリアの辺境で“女神教”に対抗しようとしている連中の先祖は、元を辿れば“女神教”の教義そのものではなく、“ウェルゼミット教団”に対する反抗組織だったのである。


 ウェルゼミット教団には、全ての元凶の一人でもあるエルテミナが所属していた。カイオディウム事変が収束した後、カイオディウムにおいても“女神教”という信仰の界隈においても、ウェルゼミット教団は力を持ち始めた。


 シルーセンの村やその周辺にいる者たちは、それに反発し、カイオディウムを出たかつての抵抗勢力の子孫ということである。


 シルーセンの先祖たちは、エルテミナの魂が残り続けていることや、その魂がウェルゼミット教団に代々受け継がれていることまでは知らなかった。言ってしまえば「戦争犯罪人」に等しいエルテミナ・スティンゴルドを輩出したウェルゼミット教団が、信徒の間で幅を利かしていることに対する反抗だ。


 当時のカイオディウムの国民たちは、カイオディウム事変に係る責任の大部分を当時の王家に求めた。そうなるようにエルテミナが仕組んでいたためだ。が、ロアダークほどには目立っていなかったエルテミナだったものの、流石に当時はさほど大きくはなかった“女神教”の一派の中では知れ渡っており、大事件の後はエルテミナの責任も取りざたされた。


 肉体が死した後、魂のみで暗躍し、決して巨大ではなかったコミュニティの頭を抑えたエルテミナに対し、反抗勢力は為す術がなかった。大事件の渦中でも難を逃れていたレスディールの手引きにより、彼らは海を隔てるエメリフィムへ渡るのだが、エメリフィムはエメリフィムで、当時最強格の魔法使い、大賢者レナトリアを失った混乱で荒れており、元々異種族の多い土地であるためよそ者も受け入れられやすいとは言い難く、反抗勢力の安住の地とはならなかった。


 彼らはそのまま陸続きのローグタリアへと渡り、時のローグタリア皇帝ヴィンディリウスの庇護を得て、辺境の地シルーセンに移住する。余談になるがアニムソルステリオスが好んでレスディールの姿を模しているのも、この時の移住者たちの意思を写し取ったためだ。移住した者たちは、カイオディウムで活気を増す“偽りの女神教”とは別に、“真なる女神教”の信徒として、女神に対する変わらぬ信仰を誓った。


 その誓いが、在り様が、千年の時を経て歪んだ。


 カイオディウムの、エルテミナによってコントロールされた“偽りの女神教”に対する反抗であったはずが、いつしか“女神教”に対する反抗に置き換わり、ひいては“女神”そのものへの反抗へと変貌する。


 そこには様々な遠因があった。


 千年前時点から「からくり」仕掛けに慣れ親しんでいたローグタリアの民たちと違って、カイオディウムの“女神教”信徒であったシルーセンの先祖たちは、めざましく発展を遂げるローグタリアの機械文明から取り残されがちになっていたこと。


 それが原因で村の近辺で貧困が目立つようになり、恩あるはずのローグタリア歴代皇帝の執政にも負の感情を抱くようになったこと。


 信仰とは心の拠り所であり、拠ろうとする心に影が差しているのならばそれは、時として狂気の免罪符になり得る。長い時間を掛けて、さながら生物濃縮の如く、子々孫々を通じ少しずつ歪んだ信仰者たちは、遂に凶行に走る。


 セーレの代の子供たちは、そのようにして緩やかに狂っていたシルーセンの、最大の犠牲者だ。


『キミたちなら救えるだろう。そしてその救済は、新たな狂気の引き金になる――――キミを導く、最後の鍵』


 不気味な黄色い塊を抱える、枯れた木々の生い茂る山。魔女の住まう山、ソネイラ。


 無骨な山肌の高い突起の上に座し、アニムソルスは不敵に微笑む。


『シルーセンだけじゃない。ローグタリアそのものが歪だ。発展した機械文明の深淵に、魔法文明が生み出した狂気が横たわり――――しかしヒトは気づかない。カイオディウムよりもずっと歪んだ国なんだ。そしてその歪みを“彼女”がかき回して浮き彫りにする』


 アニムソルスは、深い青色の金属で出来た指輪を手元で弄び、笑う。


『キミはもう“レヴァンチェスカを救いたい”だけじゃない……だから、激突は避けられない。でもむしろ幸運だった……今のキミでは“まだ足りない”からね。無理やりにでももう一段上にいってもらわないといけない。だから――――』


 木々がざわめき、空気が凍った。レスディールの姿を模したアニムソルスの姿が歪んで、黒々とした異様な姿に変貌する。


 ヒトの形をしているが、全身金属の如く表面が硬く、且つ凹凸がなくなっており、手足の先は指もなく鋭い刃のように変化している。頭部にはかつてミスティルが使役しようとした精霊の現身のように、赤い円が刻まれていた。


『倒して見せなよ、ソウシ。“彼”を上回るための、最後の試練だ』


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[気になる点] 主人公の言葉遣い 部活に励んでた17歳という設定ですよね? 喋り方が丸っきり学の無いチンピラって感じ [一言] 全体を通しての感想です 別に直して欲しい訳ではありません ただ、違…
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