憧れを超えるエメリフィム 第八話① 勢揃いする英雄たち
伝承魔法“エネロハイム”と“イラファスケス”の激突は、単なる炎の魔法の激突とは言えない。
怨嗟の熱を束ねる“イラファスケス”は決して、紅蓮と対を成す蒼炎のみを操る魔法ではない。
他の伝承魔法が“ヒトがその身を通して精霊の力を行使する”のに対し、“イラファスケス”は“ヒトの意思の力”を、伝承魔法の力の源泉たる精霊、即ちレナトゥーラに注ぐためにある。真髄たる“レナトゥーラ・イラファスケス”を除く全ての魔法が、レナトゥーラに供物を捧げるために存在する。
蒼炎に焼かれた者は地獄の苦しみを味わって、術者に対しより強い怨嗟の念を抱く。苦しみと共に暗い情念を蔓延させる不可思議な効力が、“イラファスケス”に備わっている。
それらの性質から、レナトゥーラの能力は“イラファスケス”の魔法からは推し量れない。あくまでも、ヒトの身に与えられた力はレナトゥーラのためのものであって、彼女が貸し与えた力の断片ではない。より効率的に供物を提供させるためだけに存在する魔法だ。
つまり、相対する総司とリシアは、レナトゥーラの力の底に関する情報を全く持たないまま、レナトゥーラに挑まなければならない。
総司が新たな“リスティリオス”を発動し、レナトゥーラに再度挑んだ時点で、レナトゥーラのギアも上がっている。リシアと併せて「警戒すべき相手」だと判断したレナトゥーラを相手に、二人がどこまで戦えるかは全くの未知数だった。
だが。
「“ディノマイト”ォ――――!」
底の知れない化け物相手にして、一歩も退かないどころか。
あまつさえ押しているようにすら見えるのは、リシアの目の錯覚だろうか。
「“エネロハイム”!!」
不気味な腕のガードが意味を為さない。レナトゥーラは彼女にとっても予想外なことに、防戦主体の戦いを強いられている。
「“ランズ・エネロハイム”!」
瞬く間に再生した不気味な腕の防御を、容易く貫通し、炎の槍がレナトゥーラのわき腹をえぐり取る。
蒼炎がレナトゥーラの体を再生させていくが、そもそも回避そのものが困難になってきている。
ギアを上げたのは、レナトゥーラだけではない。
総司の速度も、魔法の威力も、纏う魔力も。
時を追うごとに質がどんどん上がっていく。
「……似ているな、やはり」
ヒトの見た目に頓着しないレナトゥーラの目には、総司の姿があまりにも重なって見えていた。
「常のヒトならざるヒト。あぁ、この憎たらしい匂いはそういうことか。合点がいった。犬は犬でも他所の犬か」
レナトゥーラは総司から大きく距離を取り、微笑んだ。
凄惨で嗜虐的ではあるが、どこか心から懐かしんでいるような、穏やかさが垣間見えた。
「“異界のヒト”、か。貴様、“ラテン語”は嗜むか?」
「ッ……!」
総司がびたっと動きを止める。レナトゥーラはクスクスと笑った。
「……意味が、わからねえ……お前が、何で……?」
「『“スティーリア”とは“氷柱”を意味する“ラテン語”』。貴様の世界の言葉と聞いたが、わしはどうにも信じられなくてな。この世界の前の名が氷のトゲとは度し難い。どうだ、わしのこの知識は正しいか?」
「その前に答えろ。どこで、その話を聞いた」
「……価値ある情報とも思えんが、どうやら貴様には大事なことらしいな」
蒼炎が激しく巻き上がって、レナトゥーラの魔力が上がる。
際限なく高まるレナトゥーラの力は、レヴァンチェスカの見立て通り、力を取り戻した総司を上回っている。
「よい演目だ。わしに勝てたら、貴様の知りたいことを教えてやらんでもないぞ」
「……遊びのつもりはないんだよ、こっちは」
上回っているはずだが、レヴァンチェスカが語るほどの差を感じさせないだけの気迫が総司にはある。魔力を回し、不倶戴天の敵として、上空に浮かぶ“獣”を睨みつけ、総司が拳を固めた。
「その情報は欲しい、が――――手に入らないならそれでもいい。それは“ついで”だ、最優先はお前の撃破。お前の気が向くのを待つ余裕はないもんでな」
「存外、つまらん男よな……まあよい。小細工をせずとも、貴様の本気が見れそうで何よりだ!」
万全な状態に戻った総司との戦いは、レナトゥーラにとってはこの上ない娯楽だった。
総司の登場はエメリフィムに希望を齎し、それ故に極上の餌の下地が出来上がっている。レナトゥーラは戦いを十分楽しんだ上で総司を叩き潰し、降ってわいた希望が潰えることで最高の「怨嗟」の苗床として仕上がるであろうエメリフィムを喰らう。
本来、これだけの災禍は千年前に齎されるはずだった。
“イラファスケス”の性質故に、継承者がレナトゥーラの完全顕現を実現可能な存在だった場合、災禍は止められない。大賢者レナトリアはレナトゥーラを召喚するに足る継承者であり、その才能を喰らってレナトゥーラは完全顕現の準備を整えた。
彼女の予定が狂ったのは、レナトリアに成り代わってレナトゥーラの召喚を成し遂げた者の存在だ。その者はレナトゥーラを強力な駒として存分に使い潰し、用済みとなれば叩き潰して封じた。
以来千年、レナトリアに迫る実力者が“イラファスケス”の系譜に生まれなかったため、レナトゥーラは代を重ねながら少しずつ力を取り戻すという、地道な作業を余儀なくされた。
レナトゥーラが懐かしげに笑ったのは、この数奇な運命を面白いと思ったからだ。
千年ぶりに顕現し、今代もまた彼女の道を阻むのが――――
「“またお前たち”というのは……あの女神を崇めるようで癪だが、運命を感じざるを得んな」
戦いの舞台は、総司とレナトゥーラが激突しながら移動することによって王都を離れ、いつしか王城の裏手、雄大に広がる山と、赤茶けた大地の崖に移る。
王都での戦いが派手さを増してエメリフィムの民が犠牲になることは、総司とリシアだけでなくレナトゥーラにとっても避けたい事態である。
彼女にとっても、エメリフィムの民は大事な「畑」。極上の餌を提供してくれる苗床。
決着は総司たちとレナトゥーラで。それは両者の間の共通認識でもあった。
レナトゥーラの魔力が上がると共に姿が変わる。不気味な腕が四本に増え、背中から翼とも触手とも取れない、奇妙な帯のようなものが伸びてきて、いよいよ形だけはヒトの体裁を保っていたものが崩れ始める。
「“レヴァジーア・エネロハイム”!!」
総司が放った紅蓮の炎に、不気味な腕をぶつける。
今度はレナトゥーラが勝った。紅蓮を突き破った蒼炎を纏う拳が、総司の眼前に迫る。
総司が空中を蹴り下し、何とか拳をかわしきると、レナトゥーラが続けざまに魔法を放った。
蒼炎の矢の雨。空中で細かな動きが出来ない総司は、全てを見切るのは難しいと判断して防御の姿勢を取ったが、そこへリシアが割って入る。
総司に直撃しそうな攻撃を盾で弾いて、攻撃範囲から総司を逃がす。
細かな蒼炎の矢はしかし、一撃一撃が重く、強い。リシアであっても、盾でいなすだけで相当の労力を要する。
「そう言えば貴様には、これを防がれたことがあったな、リシア」
蒼炎が蛇の形を取る。八つの首をもたげる巨大な蛇が、総司とリシアを睨んだ。
「あの時は大した威力もなかったろうが――――今はどうだ?」
迫りくる蒼炎の蛇。リシアはレヴァンクロスで迎え撃ったが、“アンティノイア”でさばいた時とは威力の格が違う。
遂に防ぎ切ることが出来ず、リシアは蒼炎に飲まれながら崖の方へと墜落した。
「ぐっ、あっ……!」
“ジラルディウス”による強化があっても、レナトゥーラの出力は総司をすら上回る。盾を持つ左腕に焼けるような痛みが走る。
手すさびのような魔法でも、簡単に押し負ける。根底にある力の格が、全く別次元であることを痛感させられる圧倒的な実力差。
本気に近づいたレナトゥーラにとって、総司もリシアも変わらない。矮小なヒトでは及ばない、精霊という上位存在。
覆せるとすれば――――
「“シルヴェリア”――――」
リシアへの攻撃、その一瞬の隙をついて、総司がレナトゥーラとの間に、幾重にも重なる魔法陣を展開する。
蒼銀の光を纏うはずのそれは、炎と混じり合ってオレンジ色の輝きを纏い、夜空を掛ける燃え盛る隕石の如く、総司がレナトゥーラに突撃する。
「“リスティリオス”!!」
始まりから今に至るまで、総司にとって変わらず究極の一撃である最初の魔法。辿り着いた五つ目の力と合わさって更に力を増したはずのそれを、レナトゥーラは。
不気味な腕を翳すでもなく、その身の左腕で、容易く受け止めた。
突撃してくる総司の拳を、まるで何の苦労もないかのように。
「ッ……なっ――――」
蒼炎が爆発を巻き起こす。総司の体が宙を舞い、リシアの傍に派手に落とされた。
「……よもや、それが本気か? ハッ、そんなはずはあるまい。“その魔力でその程度”のはずがなかろうよ」
レナトゥーラもあまりに拍子抜けだったのか、少し怒りを滲ませて、土煙の中に沈む総司を睨みつけていた。
「貴様が本気を出すには、今のわしではまだ足りんと? 貴様の性格はそれなりにわかったつもりだったが……」
レナトゥーラの殺気が総司とリシアだけでなく、王城の方にも向けられた。
「王女の一人ぐらい本当に殺しておかんと、本気になれんような腑抜けだったか。それならそうと早く言え。良かろう、手始めに城を落としてやろう」
「させるかそんなもん――――!」
総司が再びレナトゥーラに迫る。
本気の総司と戦いたいレナトゥーラも、不可解な“ギャップ”にしかめ面だった。
総司の魔力は十分高まっているし、決して弱い相手ではない。だが、切り札じみた魔法が全く拍子抜けの威力しか伴っていない。
あれが総司のエースだというなら、どれだけ小競り合いを積み重ねたところで、レナトゥーラの心が再び踊るほどの激闘を繰り広げるには至らない。
「……そうか……」
光機の天翼を輝かせ、総司の援護をすべく再び空へ上がったリシアが、すぐに解に辿り着いた。
「“剣”か……!」
これまでの総司と、今の総司の大きな違いに気づいた。
女神が与えた剣リバース・オーダーは、総司にとって単なる武器に留まらないのだ。
女神の騎士としての力を失った総司にとって、あの大剣はあまりにも重く、満足に振り回すことが出来ないから、エメリフィムにいる間の彼は剣を手放していた。
だが、総司が操る“神域の魔法”の効力を完璧に発揮させるためには、“剣”の存在は不可欠なのだ。
思えばこれまで、女神が意図しない形で獲得することになった“二つ目”以外の魔法は全て、リバース・オーダーを起点としていた。
究極の一撃、攻撃の手段である“シルヴェリア・リスティリオス”はもちろん、女神の騎士の力を他者に分け与える“ティタニエラ・リスティリオス”も、剣を足場に突き刺してから使っていたし、“カイオディウム・リスティリオス”は剣そのものの形が変化していた。
総司にとってリバース・オーダーは、近接戦闘の要であったと同時に、総司に与えられた強力無比な魔法の数々の鍵でもあったのだ。
リシアに力を分け与える“ティタニエラ・リスティリオス”もその効力を弱めているということになる。更にどこまで差があるかは不明だが、恐らく五つ目の魔法“エメリフィム・リスティリオス”ですら、完全な発動はしていないのだろう。
力を取り戻したことは間違いないが、完全に発揮できる状態はまだ整っていなかったのだ。
「遊ぶ価値もないな、これでは」
レナトゥーラの声色が変わった。この瞬間、リシアは迷ってしまった。
すぐさま王城に飛んで、総司の剣を自分が取りに戻るという選択肢がちらついたが、総司とレナトゥーラの戦局は、リシアを欠いてしまった時に大きく動いてしまいそうな危うさがあった。
そしてそれは訪れる。総司との戦いを楽しみにしていたが、どうやらそれほど面白い催し物にはならないようだと断じてしまったレナトゥーラが、彼の本気の本気を引き出そうとすることをやめてしまった。
総司が繰り出す紅蓮の炎を鬱陶しそうに振り払い、レナトゥーラがパチン、と指を鳴らした。
地面に着地した総司が、がくっとその場で膝をつく。
援護に入ろうとしたリシアも、すぐに気づいた。
呼吸が出来ない。というよりは、満足に呼吸しようとすると、喉が焼けるほどの熱が入ってきて、空気を取り込めない。
急激な温度の上昇、熱波による“生命”の嬲り殺し。“イラファスケス”の魔法の一つか、酸素が足りない上に体も焼け付くようだ。じりじりと、じわじわと焼かれる感覚。眼球すら干上がってしまいそうで、リシアはぎゅっと目を閉じた。
「く、あっ……!」
「チィ……!」
リシアよりは耐久力のある総司でも、全く想定していなかった事態を前に、体を襲う焼け付くような感覚と併せて思考を奪われた。
総司の攻撃が、本気になったレナトゥーラにとって回避するに値しない程度のものでは、この攻撃を中断させる手立てがない。
「あまりに地味な絵面故なァ、これを使うのはわしも本意ではないのだが……仕方なかろうよ、時間を掛けるほどの価値がないのだから」
レナトゥーラが腕を振りかざす。不気味な四本の腕の、指の一本一本に、ローソクの火のようにして蒼炎が灯る。
「さらばだ負け犬ども。言っておくが心から残念に思っておるよ。貴様らとはもう少し、楽しめると思っておった――――」
唐突に、息が出来た。
体に纏わりつく焼けるような熱が、せいぜい真夏の暑い風程度にふわりと変わったのを感じた。
赤茶けた大地に、無骨な山肌に、生命の息吹が灯る。
レナトゥーラがかっと目を見開き、再び楽しそうに嗜虐的な笑みを浮かべた。
ざあっと流れる風の中に、総司は、森の木々の匂いを嗅ぎつけた。自然味溢れる生命の香り、癒しを感じる穏やかな魔力。
総司とリシアの足元に、どこからともなく草が生えてくる。湧き水のように際限なく、それらは大地を覆い尽くすように、背の低い木々で小さな森でも創り出しそうな勢いで広がっていく。
「ふ、ハッ、ハハッ! 驚いた、まさかここまで千年前と同じとはな――――!」
小さな手が、総司を護るように、跪く総司の前に翳された。
小さな体が、総司とリシアを護るように勇ましく、二人の前に立ちはだかった。
「しかしどういう了見だ。自分から出てくるとは、いつの間にそれほど勇ましくなった……? 千年の歳月はヒトならざる者すら変えるようだな、“泡沫”ァ!!」
「あら、千年ぶりの再会だというのに無粋な呼び方をするのね、レナトゥーラ。あの時のようにもっと憎しみを込めて、ネヴィーと呼んでくれて構わないのよ」
聖櫃の森の主、泡沫のネヴィーが、総司とリシアの救援に駆け付けた。
「ネヴィー……!」
「遅くなってごめんなさい。私があの森を出るのは、一筋縄ではいかなくて……けれど、間に合ってよかったわ」
「ハッ!」
レナトゥーラが楽しげに笑う。ネヴィーを見下したような笑みだった。
「千年前とは事情が違うぞ、ネヴィー……今代、戦う力を持たぬ貴様に与えられた“剣”は、残念ながらわしに届くものではないようだ。意味がわかるか?」
「さあ、何かしらね。もったいぶらずに教えてくれる?」
「ひきこもるのが得意な貴様の護りも、“時間稼ぎ”以上の意味を持たぬということだ!」
ネヴィーはきっとレナトゥーラを睨みつけ、レナトゥーラが繰り出す蒼炎に深い緑色の魔力をぶつける。
結界のように展開された領域が、総司とリシアをまとめて包み込み、怨嗟の炎を防ぎ切る。
「別に“彼”は、私やエメリフィムの皆を救ってくれる英雄と言うわけではなかったわ。ただ後始末をしてくれただけ、感謝したこともない。けれど、ソウシは違うわ」
ネヴィーが、彼女にしては珍しく、強い口調で反論した。
「まさしく我らの救世主として、あなたと戦ってくれている。そこにはとても大きな違いがあるわ」
「おぉ、美しい理想論よ! 現実の前にあまりに無力な綺麗事だ! 崇高なる貴様らしい持論だな。それで? この状況をどう打開する? 貴様が私と殴り合うか?」
総司が立ち上がってネヴィーの前に出ようとしたが、ネヴィーは腕を下ろさなかった。
「ネヴィー、ダメだ、俺が……!」
「大丈夫よ、きっと」
ネヴィーが少しだけ微笑んだ。
「数刻生き永らえたところで結果は同じ。その駄犬にこれ以上は期待しておらん。とは言え貴様を殺すのも手間が掛かる。諦めて道を開けてほしいものだがな」
「あなたはわかっていないわ」
ネヴィーは憐れむように言った。
「“望まれてここにいるか”、そうでないかの違いが何を齎すのか。千年前も今も、あなたは――――リスティリアの意思ある生命の力を、見くびり過ぎているのよ」
”欲して齎される結果が望まれないのなら。それは即ち悪である”
では、欲して齎される結果が望まれるならば。
彼の望みが、戦いが、誰かにとっての希望だというなら。
それは悪ではなく、何と呼ばれるのか。
「ッ――――ソウシ!!」
リシアが最初に気付いて、叫んだ。総司もすぐに気付いて、パッと腕を上げた。その顔には、にやりと笑みが浮かんでいた。
崖から投げられ、宙を舞うリバース・オーダー。レナトゥーラが気付いて、訳がわからずとも危険を感じたか、蒼炎で剣を薙ぎ払おうとしたが、ネヴィーによって阻まれた。
回転しながら飛んでくるそれを、総司がバシッと捕まえる。
続いて、総司のすぐそばにざっと着地する人影一つ。
「……その状態でここへ来たら、マジで死ぬぞ、ジグライド」
「構わん、盾にでも使え」
半身に負った大やけどに乱雑な応急処置を施して、適当な王軍兵士の上着をひっかけてきたジグライドが、歯を食いしばりながら言った。
「祖国の危機に、君らに命を賭けさせて、大人しく寝ているなど出来ん……!」
「……そうかい」
久しぶりに剣を手にした感覚。それを確かめながら、総司が構えて、前に出る。
リシアもふわりと浮かび上がって、ジグライドとネヴィーの前に出た。
崖の上にも見知った顔が現れた。恐らく、ここまでジグライドを連れてきてくれたのだろう。トバリが刀をすうっと構えながら、レナトゥーラを睨みつけている。
「……なるほど?」
レナトゥーラがフン、と鼻を鳴らした。
「あの時とは違って、これはわしと“国”との戦いだと。そう言いたいのか、ネヴィー」
「いいえ、やはり理解できないのね」
ネヴィーはからかうように言う。
「期待もしていないわ。そのまま滅んでいきなさい。いつだって、悪役に“こういうの”は理解できないものよ」
「言ってくれる――――良かろう」
レナトゥーラの目がぎらついた。総司が警戒を顕わにジグライドに叫んだ。
「俺達が前、あんたは後ろだ。ティナに恨まれるのだけは勘弁だからな」
「君が気にすることではない。ティナ様ならきっと、私の行いを尊んでくださる」
「貴殿の意見に賛同できないのは初めてだな、ジグライド殿」
リシアがふっと笑った。
「ソウシの言う通りに頼む」
「……あぁ、わかった」
「話し合いは終わったか? では再開しようか」
レナトゥーラが腕を振り上げた。
「この国の行く末を決める大一番だ――――心して掛かって来いよ、英雄ども!!」