怨嗟に沈むエメリフィム 第七話① ちゃんと見張ってくれていますか
時は少し遡る。
カトレアの姿をした「水人形」と、王都を舞台に壮大な追いかけっこを繰り広げた総司は、王都内の地下を走る水路へと誘い込まれ、そのまま、地下深くまで広がる筒状の巨大な空間に辿り着いていた。
謎めいた空間だった。灰褐色の鉱物で構成され、地下にも関わらずぼんやりと、光源の不明が灯りによって照らされた筒状の空間には、地面に対して水平に何本も、巨大な通路が不規則に、どこへ続くわけでもないのに張り巡らされている。総司が辿り着いたのは、そんな無数に走る通路の一つだった。
そしてそこから先――――総司は、今度は「追いかけられる側」として、何時間にも及ぶ地獄の追いかけっこに興じることになってしまった。
「だぁクソ、何だってんだ……!」
筒状の空間は、広い空間に無数に渡された通路を走り切ると、アーチ状の入口から、筒上の空間を薄く覆うように作られた回廊に入ることが出来る。窓などもちろん存在しないその回廊は、同じ階層をぐるっと一週回って、時折一つ上の回廊に入ることが出来るのだが、決して筒状の空間以外の場所には繋がっていない。
王城の地下にアルマが創り上げた、アルマ以外に誰も知らない彼女の拠点。生粋の魔法使いのセンスの是非はともかくとして、この空間は彼女が外敵の侵入を拒むために築き上げたものだった。
無数に渡る巨大な通路と、薄皮のように筒を取り巻く回廊。迷路にもなっていない、広々としつつも出口がない閉鎖的な空間の中で。
「くっ……!」
総司は、姿の見えない正体不明の敵から、まるで「銃弾」のような攻撃に晒されて、紙一重で避け続けていた。
通路に突き刺さったのは、弾丸代わりに飛ばされてきた「鱗」だった。強靭な竜の鱗。レブレーベントで戦った魔獣・ブライディルガが、鋼のような鱗を飛ばして攻撃してきたことを思い出す。
あれほど巨大ではないが、当たり所が悪ければ途端に致命傷である。弱体化したとはいえ察知能力だけは保たれている総司は、鱗の弾丸が空気を切り裂くわずかな音と魔力の気配を頼りに、ひたすらその攻撃を避け続けていた。
回廊に入って射線を切っても、回廊の壁を跳弾して的確に総司の急所を狙った一撃が跳んでくる。姿を晒して誘ってみても、弾丸の出所は全くわからない。
正体不明の襲撃者は、総司が異常な魔力察知能力を持ち、それを頼りに敵を捕捉することを理解している。筒状の空間には、攻撃に使用されているものと同じ、魔力を帯びた鱗がそこかしこにちりばめられていて、襲撃者本体の捕捉が出来ないのだ。
万全な状態であれば、“シルヴェリア・リスティリオス”で全て吹き飛ばして、無理やりこの場所ごと襲撃者を攻撃する手段も考えられた。
だが今の総司にそんなド派手な振る舞いは許されない。迅速な動きにも魔力の補助を十全に回せないから、普段よりも数倍体力の消耗が激しく、既に限界を迎えていた。
「陰気なやり方だ……! 正面からやり合えよ、卑怯者!」
「――――良いよ。そろそろ頃合いだと思ってたしね」
負け惜しみに近い挑発だった。が、驚くほどあっさりと、襲撃者は総司の呼びかけに答えた。
深い紫色の、肩に届くか届かないかぐらいのショートヘア。
濃い褐色の肌に、憂いを秘めた瞳がよく映える。髪の色と同じ簡素なドレスを身に纏う彼女には、ヒト族にはない「鱗」の特徴が見て取れた。
顔や腕に広がるその鱗は、いつか見た混血の男、ディオウとよく似た特徴である。
どこからともなく落ちてきて、総司の前にスタッと軽やかに着地した彼女は、静寂な視線を総司に向けていた。獲物を疲労困憊にまで追い込んでも、決して晴れやかな顔はしていなかった。
「よう。初めましてだな、少年」
「……ヴァイゼの……? 何でヴァイゼ族が俺を……こんなところで……?」
「……さあ、何でだろうね。あたしも、どうしたらいいのかわかんなくなっちゃってんだ」
女性の声には覇気がなく、無機質に聞こえた。
「実際あんたも訳わかんないよな。気の毒に思うよ。でも悪いね。あたしもわかんなくてさ。とりあえずもう限界なんだろ? だから大人しく……死んでくれ」
女性の腕から、ぺりっと鱗が数枚はがれた。
はがれた端から、鱗は即座に再生する。美しさすら感じる薄紫の魔力と共に、鱗は弾丸となって、総司に向かって射出された。
総司はハッと目を見開いて、後ろに跳んですんでのところで攻撃をかわす。
「待ってくれ!」
総司は息を切らしながら必死で訴えた。
「王家とヴァイゼが敵対してるのは知ってる……! でも今そんな状況じゃねえことぐらい、あんた等ヴァイゼ族もわかってんだろ!? あんたが誰に言われてこんなことをしてるのかは知らない、でも俺達は協力できる、それはわかる!」
「へえ、そうかい。それで? あんたに協力して、どうなるってんだ?」
冷静に、冷酷に。
ヴァイゼ族の女性はつぶやくように言った。
「“敵が誰か”ってことぐらい、知ってるさ。あたしはまさに、そいつに囚われてたんだからね。そいつのお仲間に、あんたをここで殺すよう命じられた」
「……囚われて……じゃああんたは、ステノか! ヴァイゼの指導者だな!」
「交換条件ってやつさ。あんたを殺せば、国は滅んでもヴァイゼは見逃される。そういう話なんだ」
「んなもん鵜呑みにするほど馬鹿には見えねえよ!」
追撃をまた紙一重でかわし、通路を下がって回廊の方に身を隠しながら、総司が叫んだ。
「今の話に出てきたのはアルマとカトレアだろ!? アルマと会って話したことがあるならわかるだろ! 見逃されるなんてあり得ない! アルマが何を考えてるのかなんて俺にもわからねえがな、そんな約束律儀に守るような女じゃねえよ!」
「だろうね、知ってる。多分、もう終わりなんだと思ってるよ」
総司からは見えないが、ステノはすうっと腕を顔の前に翳し、手に力を込めていた。
美しくすらりと、しなやかに伸びる五指の爪が急激にグンと伸びて、バチッと薄紫の魔力を纏う。
通路を蹴り、総司が隠れている回廊の壁に狙い澄まし、爪を突き立てる。
灰褐色の鉱物の壁を容易く貫通した爪の一本が、総司の肩を貫いた。
「ぐぁっ……!」
総司は激痛を堪えながら、何とか爪から逃れて、回廊を疾走し、一段下の通路にまで逃げ延びる。
ステノは、一段上の通路から軽やかに飛び降りて、総司の前に降り立った。
「“選択肢がない”んだよ。縋るしかないんだよ。九割九分嘘に決まってる。アイツらは私たちを追い込みたい。互いに恨み合うように仕向けたい。自分が恨まれるように仕向けたい。良い性格してるよ、おかげであたしは、アイツらの首をねじ切りたくて仕方ない」
薄紫の魔力が再び、ステノの爪に収束される。
本気で突撃されればかわせない。総司は何とか逃れる術はないか、周囲に目を走らせて打つ手を探した。
短剣で弾けるような甘い攻撃ではない。戦闘に秀でたヴァイゼ族の本気を、今の総司では止めきれない。
「それがわかってるなら、アルマに負けたくないなら、手を貸してくれ!」
総司はもう一度、ステノに訴えた。
「俺はソウシ、信じられねえだろうが“女神レヴァンチェスカの騎士”だ! いやまあ、急にこんなこと言われても訳わかんねえだろうけど……! とにかく、俺は今アルマに力を封じられてる! 王都の近くに、どこかにその魔法の基盤となるものがあるはずなんだ! それさえぶっ壊せば、俺は必ずアルマとレナトゥーラに勝って見せる! だから、ステノ――――」
荒唐無稽に過ぎる話。
事情を何も知らず、ただ総司を、「この空間に入ってきた者」を殺せとだけ指示されたステノが、総司の言葉を十分に理解できるはずもない。
だが、ステノは。
「……ごめんな……」
ステノは、無表情を遂に崩し、顔をくしゃくしゃにして、涙を流して、苦しみながら。
総司に小さく、謝った。
「信じてやりたいよ……あたしも、きっと、あぁ――――そう出来たら、どんなに……! ごめんな……!」
総司の額に青筋が浮かんだ。
爪が手のひらに食い込みそうなほど、拳を強く握りしめた。
怒りは、ステノに向けられたものではない。
ステノの葛藤が、絶望が、痛いほど伝わってきて、アルマとレナトゥーラに対する怒りが沸き上がるのを抑えられなかった。
ついさっき会ったばかりでもわかる。ステノの心はもう追い込まれ切った後なのだ。
総司は知る由もないことだが、ヴァイゼ族は身体的な完成が他種族より早く、それ故にステノも大人びて見えるだけだ。
年齢的に総司と離れてはおらず、精神性はまだ少女と呼んで差し支えない。
そんな未熟な心に、突如襲い掛かった窮地、絶望。
彼女の選択を、誰が責められる。そうするしかないと涙を流す彼女に、怒りを抱けるはずがない。
握り固めた拳を下ろす先は決まっている。怒りの矛先は決まっている。
ステノが駆け出した。今の総司でもギリギリ反応できる速度ではあるが、総司にはその鋭い爪を防ぐ手段がない。
だが、驚いたことに。
にわか仕込みの体術でも、総司はステノの突進を回避し、鋭い爪をかわし、腕と胴を取って、彼女の体を地に伏せることが出来てしまった。
総司にダン、と押さえつけられ、仰向けに転がったステノは――――
爪をシュッと引っ込めて、涙にぬれた顔を、空いた手で覆った。
「……出来ない……!」
いくら、一族のためとはいえ。
何も事情を理解しないまま、自分のために必死で何かを訴えてくれているヒトを殺すことが、ステノには結局出来なかった。
「あたしには……出来ないよ……!」
「――――そうですか。残念です」
聞き覚えのある少女の声が響いて、総司の中で何かが“切れた”。
通路の両側から、総司とステノを挟む形で、カトレアとディオウが姿を現した。ステノに集中するあまり、総司は二人の気配を察知することが出来ていなかった。
間違いなく出来ていなかったのだから、カトレアは――――総司を殺したければ、声を掛けることなく、すぐさま手を出しておくべきだった。
「拙い演目ではありましたが、完遂されればそれなりの“情念”が得られると期待したのですが。やはり私には、アルマほどそちらの方面に関する才能はなかったようですね」
「……カトレア……」
「お久しぶりです。存外、お元気そうで」
総司の静かな呼びかけに、にこりともせず、カトレアはいつもと同じような口調で答えた。
「契約は不成立。そう言うことでよろしいのですね、ステノ」
「……好きにしなよ……もう、どうしようもないんだから……」
「あなたの種族に対する愛はもっと深いと思っていました。愛する同族のために手を汚すことすら出来な――――」
「黙れ」
ぎゅっと唇を噛み締めたステノの髪を、優しく撫でて。
総司がカトレアの言葉を遮った。
「見てて面白かったかよ、この“見世物”は」
感じるはずのない「何か」を、ほんの少しだけ感じ取って。
カトレアがわずかに目を細めた。
そんなはずはない、と自分に言い聞かせて、カトレアは総司の問いかけに答えた。
「面白さを求めていたわけではありません。楽しんでなどいませんよ」
もう押さえ込む必要もないステノから離れる寸前、総司は、カトレアとディオウに聞こえないよう声を潜めて、ステノに告げた。
「カトレアを焚きつける。仕掛けてきたら、その隙に逃げろ」
ゆらりと立ち上がって、総司はカトレアに向かってハッキリと言い放った。
「あぁ、だろうな。いつだって俺から尻尾撒いて逃げるしか出来ねえお前らに、そんな余裕があるはずねえよな」
カトレアの眉がぴくりと動いた。
「……今の自分の状況を認識できていないのですか? 死期を早めるだけだというのに、安い挑発をするのですね」
総司に力は戻っていない。
ギルファウス大霊廟で対峙した時とは比較にならない、ほとんど何の力も持たない一般人だ。
カトレアはもう、総司を脅威と認識していない。だからこそ、挑発に苛立ちが募る。
既に「下に見ている」相手だから効いてしまう。わずかにでも冷静さを欠き、カトレアの意識からステノが消えれば、ステノが逃げられる可能性は格段に上がる。
「俺を殺すためだけに、随分と壮大な計画を練ったもんだな。そんなに怖いか、この俺が」
「……何の時間稼ぎか知りませんが」
カトレアが、盾と剣を合わせたような独特な形状の武器を構えて、にわかに殺気立った。
「付き合う義理もありません。女神の希望、ここで潰します。これでようやく、私の仕事も終わりです」
「偉そうに言うじゃねえか、臆病者が……心配しなくても、お前と違って俺は逃げねえよ!さっさと掛かって来い!」
ディオウは終始無言だった。黒い大剣を構えつつも、まだ手を出すつもりはないようだった。
最後の仕上げはカトレアが行う。それが二人の雇用関係で交わされた契約だ。ディオウは万一に備えて油断なく総司を睨みつつも動きはしなかった。
魔力の波長に変化はなく、カトレアが本気で総司を殺しにかかれば、総司に抗う術はない。
この時までは、間違いなくその見立てで正解だった。
カトレアが意を決し、総司に向かって走る。
ステノと違って、カトレアには躊躇がない。にわか仕込みの体術で組み伏せられる相手でもなく、流石の総司も、死を覚悟した。動きそうにないステノの体を軽く蹴って合図しながら、カトレアの武器を眼前に見据える。
――――悪い、リシア……後は、お前が何とか……――――
どこで手を間違ったのかと振り返ってみれば、分岐点はいくつもあった。リシアと離れるべきではなかったのかもしれないし、そもそもこの場所まで深追いする前に、王城の誰かに報告して協力を仰ぐべきだった。
冷静さを欠いた総司の行動は、リスティリアの命運を託された救世主としては全く以て落第ものだ。
全てに完璧な答えを見出せるほど、総司は完成された人間ではない。それでも、間違ってはならないところで間違えて、この状況になってしまった。アレインがこのことを知ったらきっと怒り狂うに違いない。
女神救済の旅路半ば、望みを叶える旅路の途中。諦めて良いはずがないが、もう手は残されていない。
全てが遅い。認識が甘かった。それ故に招いた最悪の結末。けれど、だからこそせめて最後に、辛い現実を前に涙する少女だけでも逃がしたいと。そんな浅くて甘い考えが、総司の死期を数秒早めた――――はずだったが。
もしかしたらその、浅ましく、愚かしくも勇敢で、最後の最後まで“誰かのためにしか”動けない総司の根幹に基づく行動が、呼び覚ましたのかもしれない。
救世の使命でも、英雄の責務でもなく。
最後まで運命に抗い続けた“誇り”だけを彼に預け、その誇りを礎として覚醒したあの力を。
「カトレア!!」
ほんの数秒前まで「正しかった」はずの見立てが外れたことを、ディオウが悟った。
カトレアよりほんのわずかに遅れてディオウが飛び出し、黒い大剣を総司に向ける。
あり得ないはずの“魔力”が、総司から流れたのを感じた。
当然、ディオウよりも更に早く、総司自身が“それ”を悟る。
反応速度は、いつも通り。力を封じられても反射神経に影響はない。だが、総司の今の身体能力は、彼の反応に呼応出来ないはずだった。反応したところで、ただ死が迫ることを認識しただけで終わり。カトレアの金色の武器は総司の頭蓋を粉砕していたはずだった。
起こり得ないことが、起きる。
総司の体がカトレアの攻撃を逃れ、総司の腕がカトレアの服の襟元をがっと掴んだ。
速過ぎる動き、流れるような完璧な身のこなし。出来ないはずの超速の体術。
“力が戻っていなければ”実現不可能な、圧倒的な膂力。全体重を乗せて突っ込んできたカトレアを捕まえて、空中で留めるという、「腕力」だけでは達成できない所業。
続けざまに反対方向から襲い掛かるディオウの剣を、もう片方の腕でガンと殴り、叩きつける。あまりの速さに、ディオウは剣から手を離すことすら出来ず、剣ががくんと地に落ちるのに合わせて、総司の足元に体を転がらせた。
「そん、な――――馬鹿な……!」
カトレアの驚愕の声は、総司の耳には届いていなかった。
掴んだカトレアの体を、その武器ごと、足元に倒れ伏すディオウの上に叩きつける。
その乱暴な体術に呼応して、“蒼銀の魔力の波動”が通路に広がった。
ヒビが走り、轟音と共に、四人がいた通路が破壊され、崩れる。カトレアとディオウの体はとんでもない膂力で叩きつけられて、遥か地下へと落ちていく。
二人とも魔力で身体能力を強化して、致命傷には至らなかった。普通なら死んでいる衝撃が二人の体を襲っていたが、ディオウのあばら骨が何本か折れるだけで済んだ。意識を飛ばさないように強く保ちながら、二人は空中で態勢を立て直す。
幾重にも渡る通路を足場に着地し、そのまま、迫りくる脅威から逃げるように、更に下へと降りて距離を取る。
辿り着いた最下層には、“杭”が突き刺さっていた。それ以上、距離を取るため逃げられる場所はなかった。
この場所に降りてきたのは、確かめるため。カトレアとディオウにとっては想定外の事態が起こってしまったが、カトレアにはまだそれだけの冷静さが残っていた。
“杭”は、健在。“杭”を護るために施されたアルマの結界は消えていたが、“杭”そのものには全く綻びはなく、間違いなく機能している。
「では……では何だというのですか……! 今のは、間違いなく……!」
全身に走る痛みをこらえながら、カトレアが歯を食いしばる。
そして、戦慄する。
最下層から一段上の通路に、ダン、と降り立った総司から――――
間違いなく、“女神の魔力”が感じられた。カトレアとディオウに敗北のイメージを与えるには十分な殺気と共に、凛とした清涼なる魔力が叩きつけられる。
「あぁ、まただ……またかよ、クソ……!」
総司が破壊した通路の瓦礫が落ち、土煙を上げる。その粉塵の最中に、時計の文字盤のような模様を浮かべる、“白の強い虹の光”を湛えた眼光が、うっすらと涙に濡れながらぎらついた。
「もう返せもしねえのに……俺は“あんた等”に、いくつ、借りを……!」
ステノを抱きかかえた総司の左目は、魔法を発動していた。
総司が意図したわけではなかった。そもそも発動できる状態ではなかった。発動するだけの魔力がなかったはずだったのに、半ば強制的に発動した。
伝説の国が救世主に与えた無敵の護り。
あらゆる魔法に対する特攻、“ルディラント・リスティリオス”が、確かに発動している。
「申し訳ない、諦めかけちまった……! ちゃんと“見張ってくれて”いますか、王よ、俺は――――!」
言葉を失い驚愕するステノをそっと下ろして、総司は高らかに叫ぶ。
「望みを叶える旅から“逃げない”! 今の俺の、一番の望みは……このエメリフィムを――――ティナたちを! 護ることだ!!」