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リスティリア救世譚  作者: ともざわ きよあき
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受け継がれるエメリフィム 第四話③ 出動要請

 王城の地下、宝物と武器を貯蔵する王家の備蓄倉庫。


 聖櫃の森から戻った日の翌日、“レヴァンフォーゼル”も安置されていた宝物庫の一角に、総司とリシアは足を踏み入れていた。


 ヴァイゼ族との対話の申し入れには賢者アルマとシドナが出向いていた。


 ティナをエメリフィムの次代の為政者と認めないヴァイゼ族陣営は、これまで王家からの対話の申し入れに応じたことはない。だが、ジグライドの読み通りに事が運ぶならば、今回は恐らく、ひとまず対話のテーブルにはつくだろう。


「それらしいものはやはりなかったか」


 一通り、王家が蓄える財宝や武器の類を見て回って、ジグライドが言った。総司の顔を見れば、ピンとくるものがなかったということは一目瞭然だった。


「ここ以外にはないのか?」

「更に地下があるが、私の権限では入れん」

「……ジグライドで無理なら、誰が行けるってんだ? ティナか?」

「いいや」


 ジグライドは首を振り、


「賢者アルマの拠点がある。この王都を護る結界もまた、彼女の拠点を起点とするものだ」


 総司とリシアが目を見張り、互いに視線を交わした。ジグライドはその不自然な所作に気づいたものの、敢えて二人が言い出すまで待った。


「……話しておきたいことがある」

「聞こう」


 総司は、ギルファウス大霊廟で賢者アルマの手駒であるカトレア・ディオウと対峙したことや、その二人とはレブレーベントから因縁があることを伝えた。


 女神レヴァンチェスカとの邂逅についても話した。内容の詳細まで――――総司の慟哭と、女神の返答についてまでは話さなかったが、総司がエメリフィムにおける「聖域」に辿り着かねばならないことを、ジグライドにはきちんと伝えておく必要があると判断した。リシアが先日ジグライドに言った「場所」とは即ち、その「聖域」を指すことを。


 総司が話している間、ジグライドは適度に相槌を打ちながら聞き役に徹していた。リシア以上に聡明で、才知に富むと思われる彼である。断片的な情報だけでも、総司よりも多くのことを考えられたことだろうし、疑問もあっただろうが、話の最中に口を挟むことはしなかった。


「……アルマはシドナと共に、ヴァイゼ族の領域へと向かっている。対話の申し入れをしにな。戻ってくるまで、君らが語った事態について追及することは出来ん」


 ジグライドは冷静に、考えながら言った。


「彼女の飼い犬は私も知っている。君らとは別の意味でだろうが、あまりよくは思っておらん……そこに口を出す権限もないし、文句は言っていないがな。ただ、アルマには問いただす必要があるだろう。飼い犬が君らに噛みつこうとしていることを知っているのかどうか……真意をちゃんと把握しているのかどうかをな」

「……でも、一人でアルマを尋問するのは危険だと思う」

「ほう?」

「俺はアルマを疑ってる。エメリフィムに対する忠誠心がどれほどのもんかは知らねえが……それだけで動いてるわけがねえと、思えてならないんだ」

「私が疑っていることが知れれば、彼女は私に危害を加えるやもしれんと」


 ジグライドはふっと笑った。


「見くびられたものだ。これでも私は、君ぐらいの歳の頃には王軍にいた身である。先王により事務方に取り立てられたが、そうやすやすとやられたりはせん」

「でも賢者アルマは、魔法使いとしては別格なんだろ。底を見せてるとも限らねえし、カトレアやディオウが割って入ってくるとなりゃ多勢に無勢だ。俺やリシアが一緒に行く。アルマを問いただす時は、一人ではダメだ。頼む」

「どうして私をそこまで心配する?」


 ジグライドが笑みを消し、真剣な顔で詰問した。


「ジグライドが折れたらエメリフィムは終わりだ。この国に来て数日でもそれぐらいのことはわかる」

「ジグライド殿、どうか危険な真似はされぬようお願い申し上げる。王家とヴァイゼ族が対話の場を設けるとなればいよいよ、エメリフィムの情勢は否応なくこれまでと大きく変わる――――貴殿なくしてこの先はない。私もソウシと同意見だ」

「これはこれは……」


 ジグライドは腕を組んだまま首を振ったが、その顔には薄い笑みが戻っていた。


「外様の君らにそこまで言われる程度には、私の仕事に価値があるようで何よりだ。あいわかった。君らの言う通りにしよう」

「悪いな、頼んでばっかで……」

「つまらん気遣いは無用だ。ただ、アルマの件はまだティナ様の耳には入れないことにする」


 ジグライドが言うと、総司も頷いた。


「……ティナとも付き合いは短いけど、やっぱそれでも見りゃわかる。いっぱいいっぱいだ」

「ああ。私が知っていればそれでいい。時期が来たら私から話す。それまで君らも」

「わかってる」

「では戻るとしよう。シドナ達より先に、君らには出迎えてもらわねばならない客がいる」


 ジグライドは踵を返して言った。


「リック族が今日にもここへ来るはずだ。“レヴァンフォーゼル”は、君らに受け取ってもらわねばな」







「よぉ! 来たぞー!!」


 どやどやと元気よく、リック族の小さな体にはヒト族よりもずっと巨大に過ぎる橋を渡って、あの「最初の少年」が王城の門をくぐった。老リック族も一緒である。


 実は先王アルフレッドの時代にすら達成されなかった、“リック族の王家への訪問”。先王アルフレッドはリック族との友好を確かに築き上げたのだが、リック族を王城へ招くことはなかった。彼らがそれに興味を示すことはなく、アルフレッドもそれを必要とは思わなかったからだ。


 つまり、リック族がエメリフィム城に入るのは史上初めての出来事であり、これはエメリフィムの歴史における快挙である。ティナ・エメリフィムは、タユナの戦巫女トバリのみならず、リック族すらも王城に招き入れたのだ。


 ヴァイゼの動きを警戒し、兵士たちがリック族の二人を迎えに行ったのだが、兵士たちではリック族との意思疎通が出来ず苦労したようである。ジグライドから彼らとの意思疎通のコツを聞いていても、やはりティナほど即座に達成することは出来なかった。


 ドヤ顔、にも見える満面の笑みで王城に入ってきた少年を、ティナもまた笑顔で迎え入れた。きちんと身を屈め、リック族と視線を合わせて挨拶する。


「お待ちしておりました。道中ご無事で何よりです」

「おう! 別に何事もなかったぜ! お、でかい兄ちゃんもいるな!」

「ウス」


 身を屈めて総司も挨拶する。少年も元気よく「ウス!」と返した。


「なんだ、兄ちゃんが欲しいもんだったのかコレ」


 やはり「何か」が伝播したようで、少年がなるほど、と頷く。


 少年がおもむろに取り出したのは、ものの見事に修復され、見た目には完全復活を遂げているようにすら見える、女神の齎した秘宝“レヴァンフォーゼル”だった。


 あまりにも軽い調子で少年が取り出すので、総司もティナもぎょっと面食らってしまった。


「うおおおお! 完璧じゃねえか!」

「ったり前よぉ俺らがやったんだから!」


 ティナの手に“レヴァンフォーゼル”を渡しながら、少年が胸を張った。


 ティナの小さな手に収まる秘宝は、太陽のような紅蓮の輝きを取り戻した宝玉がはめ込まれた、金色の鎖に繋がるネックレス。まさに、ティナの記憶にある通りの“オリジン”である。


「なんと、見事な……」


 感嘆の声を漏らすティナの反応に満足したか、少年はふんぞり返るぐらいにますます胸を張った。


 その頭をパシン、と軽く叩いて、老リック族が口を挟む。


「わかっとると思うがな。完全ではないぞ」

「ええ」

「ならよいが」


 言葉少なに答えたティナに、老リック族はうんうんと頷いた。


「あぁ、礼は要らんぞ。よい仕事じゃった。皆満足しておる」

「……しかし……」


 ティナは今まさに、「謝礼を用意している」と告げようとしたところだった。老リック族に先を読まれ、ティナは言葉に詰まってしまう。


「それより老体にはなかなか堪える道筋での。今晩は泊めてもらえるか」

「もちろんです」

 

 ティナがすぐに頷いた。傍に控えていたジグライドが目線で合図すると、兵士が何人か慌ただしく走り去っていく。厨房へ宴席の準備をするよう伝えに走ったのだろう。


「こっちはこっちで」

「うむ。くれぐれも」

「わかってるっつの」


 少年と老リック族が、わずかな言葉で意思疎通を図る。少年は総司の元に歩み寄ると、くいくいと袖を引っ張った。


「兄ちゃんに話があんだよな。ちょっといいか?」

「俺にか? もちろん構わねえが」

「さてさて、わしは一足先に休ませてもらおうか」

「ご案内します」

「かたじけない」


 老リック族がティナに連れられて、王城の中へと入っていく。


 総司とリシアは、リック族の少年と共に城の中庭に出た。


 先王が手ずからこしらえたという、小さなベンチを置いた新緑の中庭。赤茶けた大地の上に立つ無骨な王城の中にあって、目の癒しになるような美しい庭園だ。先王アルフレッドはティナのためにこの中庭を創り上げた。その経緯もあって、ティナもまたお気に入りの場所である。


「でけぇ杭がケレネスに打ち込まれてる。誰が打ったもんかわかりゃしねえ。多分兄ちゃんに関係があるんじゃねえかって言ってた」


 ベンチによじ登ってふーっと息をついた少年は、前置きもなしにいきなり切り出した。


 総司はわずかに反応が遅れたが、すぐに返した。


「あの爺さんがか」

「ん、おぉ、そうだ。ワリィ、慣れてねんだ」

「気にせず自分の言葉で語ってくれ」


 総司がベンチの前にあぐらを掻いて座り、少年に言う。リシアも総司の隣に座って、リック族の少年を見つめた。総司の頭の回転では補いきれない部分は、リシアが手助けできるだろう。それでも少年が多少は気を遣ってくれなければ、全てを読み取ることは難しいだろうが、少年も少年で出来るだけ、リック族以外の者が理解しやすいよう話すつもりがあるようだ。


「でかい杭ってのはどのくらい大きい?」

「兄ちゃんの十倍はある」


 ざっと二十メートル級の、「杭」と表現できる建造物。リシアは羊皮紙と羽ペンを取り出してさっとメモを取った。記憶力の良いリシアは話を聞けば大抵のことは覚えられるが、リック族との会話の折は記録を取った方がいいと判断した。後で足りない部分を考えることが出来るからだ。


「俺に関係があるって、なんでわかったんだ?」

「それは俺も知らねえし、直感だって言ってた。けど、確かにすごく嫌な感じがするんだ。何つーのかな……兄ちゃんと真逆、みたいな感じだ」

「俺と真逆……」


 総司と真逆とはつまり、女神の力と真逆ということだろうか。リシアの目がすうっと鋭くなる。


「いつ打ち込まれたのか誰にもわからねえ。気づいた時にはあった。けど昔からあるもんじゃねえ。つい最近だ。この三日ぐらい。兄ちゃんが俺達のところに来た、次の日ぐらいだ」

「……それほどの建造物を、ケレネス鉱山を主たる仕事場とするあなた方に気づかれぬうちに、か……予兆めいたものはなかったのだろうか? ソウシ、聞いてみて――――」

「……そういや、この姉ちゃんは誰だ?」


 リシアの独り言は、少年に対し疑問をぶつけたい気持ちが漏れ出していたようだ。


 リック族の元を訪れた時には、リシアが彼らと会話する機会はなかった。


 リシアもまた、冷静なように見えて、肝心なところでは割と直情的であり、総司を抑える立場にあるようで実は総司と似たタイプの性格をしている。リック族との会話の素質が元から備わっていたようだ。


 ハッと表情を明るくして、リシアは慌てて自己紹介した。


「失礼、私はリシア。この男の道連れだ」

「おぉ、そうか。予兆っつったっけ。ぶっちゃけ全くなかった。なかったっつか、気付いてなかった、かもな。音もなけりゃ大勢誰かが出入りしてたってことも多分ねえとは思うが……ワリィな、俺らこんなだからよ」


 少年はぽりぽりと頬を掻いて、申し訳なさそうに言った。


「俺らに用がねえってんなら、誰も気にしてなかっただけって可能性は否定できねえ」

「責めるつもりは全くない」


 リシアが首を振ってすぐさま言った。


「貴重な情報だ。他に何か特徴はあるだろうか」

「そうだなぁ……なんか、うまく言えねえけど」


 少年は腕を組み、うーんと頭を悩ませながら言葉を絞り出した。


「びっくりするぐらい“魔力を感じねえ”んだ。見た感じクレツェン鋼が主な構成物っぽいし、絶対魔法に使うもんだと思うんだけどよ――――あ、クレツェン鋼ってのは魔法道具に使う鉱石な。さっきのアレの修復にも使った。魔力の貯蔵と増幅の性質があってよ、高度な魔法使う時には重宝するって話だ」


 クレツェン鋼が何かわかっていない総司の感情が伝わったのか、少年がすぐさま補足した。


「……現時点ではその建造物の用途がわかるはずはないが」


 リシアが文字に起こしつつ整理して、総司に言う。


「決めつけるのは早計にせよ、彼らの直感は心に留めておくべきだ。妥当な線で言えばカトレアあたりの何らかの計略に関係する可能性が――――」


 王城の門のあたりから、悲鳴が聞こえた。


 ティナの声だ。総司とリシアは弾かれたように立ち上がると、すぐさま駆けだす。リック族の少年もただ事ではない気配を感じたか、小さな体で懸命に総司たちの後を追った。


 王城の入口に辿り着くと、ティナが誰かを抱きかかえて、その体を支えている。総司は思わず叫んだ。


「シドナ!!」


 大きな外傷はないようだが、わずかに腕から血が滲んで、息も絶え絶えと言った様子のシドナが、ティナに支えられていた。


「しっかり……! 大丈夫ですか、シドナ!」

「だい、じょうぶ……! ちょっと全力で飛ばし過ぎただけ……!」


 シドナは息を切らしながらも、何とか言葉を紡ぐ。多少の手傷はあれど致命的なダメージを負ったというわけではなさそうだ。


 だが、リック族の元を訪れる時、軽快に飛ばして走っても息切れ一つしていなかったシドナがこれほど疲弊するとは、どれだけ全速力で戻ってきたというのだろうか。


「ティナ、ジグライドを……!」

「ここにいる。何があった」


 リック族二人の歓迎の準備を取り仕切っていたジグライドが、いつの間にかその場にやってきた。さっとシドナの傍に身を屈め、ティナからシドナの体を受け取りながら、その言葉に耳を傾ける。


「襲われた……アルマが、一人残って、足止めを……! 援軍を呼んでくれって……!」

「……こちらの動きが読まれていたと?」

「わからない……でも異常だった……!」

「異常?」

「うまく言えないけど……アイツら、ただ事じゃない雰囲気だった……ごめん、数も多かったし、いくらアルマと二人でも、とても応戦できる状況じゃなくて……」

「責があるとすれば私だ」


 ジグライドは、彼にしては珍しくきっぱりと、自分に非があることを認めた。


「その動きは想定していなかった。対話の場が設けられればそこに罠がある可能性は考えたが……まさか申し入れに行くだけの道中で、君たち二人が逃げるしかないような大軍にぶつかるとはな……」


 ヴァイゼ族の影響力が強い領域の片隅で、適当に敵対勢力の者を捕まえて、主要なヴァイゼ族の誰かに伝言を預けられれば十分。まずはそこを足掛かりにすることを皆で打ち合わせていた。


 それでも念には念を入れて、エメリフィム王家にとって大きな戦力であるアルマとシドナの二人を割いた。王城の防御力と言う意味ではかなり削られることになるが、今回の対話の申し入れにはそれだけの価値があると考えた。それでも足りなかった。


「どうしよう……アルマが死んじゃったら、私……!」

「少なくとも王都フィルスタルの結界は未だ健在だ」


 ジグライドは極めて冷静に言った。


 ジグライドの言う通り、アルマによって維持される王都の結界は未だ破られていない。術者であるアルマがまだ生きていることの証左でもある。


「護りに特化した魔法使いだ。敵勢力の撃滅を目的としなければ、彼女は難攻不落に近い。援軍が到着するまでの時間を稼げると判断して一人残り、君を城へ帰したのだ。つまり――――」

「出番ってわけだな!」


 バシッと拳と手のひらを突き合わせ、総司が強く言った。


「私が思っていたより早く君らの出番が来てしまったが、頼めるか。私が行くわけにはいかん」

「貴殿は万一に備えて、護りの布陣の陣頭指揮を執る必要がある。当然だ」


 リシアが頷き、光機の天翼“ジラルディウス・ゼファルス”を展開した。ゴウッとうねりを上げる風と強烈な魔力にあてられて、ティナが思わず顔を腕で覆った。


「ッ……凄い……!」

「ティナ様、リズーリに言ってもう一度、トバリの助力を請えないか打診していただきたい」

「は、はい、すぐに!」

「その必要はありませんよ、ジグライド」


 どこで話を聞いていたのか、空からトバリがふわりと現れて、軽やかに着地し、ジグライドに笑いかけた。


「盗み聞きとは趣味が悪いな」

「わかりきっていることでしょうに。敵対勢力に遠慮はしなくてよろしいですね?」

「致し方あるまい。『必要以上の犠牲を出すのは避けろ』と言って、その通りにするのかね、君が」

「努力はしますよ?」

「……フン。良かろう。現場での判断はアリンティアス団長に一任する。最低限、彼女の指示には従え」

「おや」


 トバリは意外そうに目を丸くした。


「エメリフィムの民である私より、他国の異邦人ですか?」

「軽口を叩いている時間はない。まさか自分が指揮官に向く器と自負しているわけもあるまい」

「ええ、確かに」


 ジグライドが小さな地図を取り出して、何らかの魔法で素早く別の紙にも複写し、丸めて総司たち三人にぽいっと投げた。


 トバリはそれを受け取るや否やダン、と地を蹴って、凄まじいスピードで駆け出した。先陣を切る気概があるわけではなく、彼女はただうずうずしていただけである。メイルの村での戦闘は、彼女の戦闘欲をわずかに満たすことすら出来ず、どうやら更に火をつけてしまったようだ。


「先に行けリシア! できればトバリより速くだ、好き放題やらせたら多分ロクなことにならねえ!」

「わかった!」


 空を飛べるリシアの方が当然、現場への到着速度という意味では分があるはずだが、いかんせんトバリの健脚は規格外である。総司の号令を受け、リシアはすぐさまトバリの後を追う。ひとまずはトバリの魔力を追っていけばその直線上に目的地があることは明白だ。後はジグライドの地図と照らし合わせればいい。


「うし」


 総司は軽くストレッチして、気合を入れた。


「俺も行ってくる」

「頼んだぞ」

「任せろ!」


 総司もまた本気のダッシュで、一目散にトバリの後を追う。リック族の元を目指していた時とは比較にならないスピードで遠ざかっていく総司の背を目で追いかけて、ティナが思わず声を漏らした。


「わかっていたつもりでしたが……やはりとんでもない……」

「呆けている暇はありませんぞ、ティナ様」


 シドナを担ぎ上げて、ジグライドが厳しい声で言った。ティナがハッとしてすぐに立ち上がる。


「緊急事態のための部隊編成で兵の配備を行います。ヴァイゼの襲撃に備えるよう王都全体へ触れも出さねば。先に『紅蓮の間』へ。リズーリを呼んでおいてください。シドナを医療班に引き渡したら私もすぐに向かいます」

「はい!」


 慌ただしくティナが駆け出す。ジグライドはシドナを抱えて医務室へ向かいながら、今回の事態のために思考をフル回転させていた。


「……どう考えても道理に合わん……何を考えている……?」


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