表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リスティリア救世譚  作者: ともざわ きよあき
221/359

受け継がれるエメリフィム 第三話② 虚しく響く理想の統治

「おーい! 来たぞー!」


 日が落ちてすぐの頃、外から声を掛けられて、ティナが足早に外に出て行く。その後ろを、総司たちが慌てて追従した。トバリは既に、家の外で見張りをしていた。あの「最初の少年」の声である。


 外に出てみて、総司は目を丸くした。


 いつの間にこれほど周囲に集まっていたのか定かではないが、すり鉢状になった炭鉱入口付近のそこかしこに、リック族たちが大量に集まって、皆思い思いの場所に腰かけて、総司たちが休んでいた家の周りをぐるりと囲んでいたのである。


「トバリ! 言えよ! とんでもねえ状況じゃねえか!」

「いえ、別に敵意もなかったので」


 トバリが軽やかにさらりと答えた。


「王女様の“お話がしたい”という言葉にはどうやら、“みんなとお話がしたい”という想いが込められていたようですね。それが伝わったのでしょう、多分ほとんどここに集合しておりますよ」

「ええ……まさか、こんなに応えてくれるなんて、思っていませんでした」


 トバリのからかうような声に、ティナが感動しながら返答した。


「よう娘さん! 約束通り、来れるヤツは連れてきたぜ! 仕事に残ってるヤツもいるけどそれは勘弁な!」


 そんな約束はしていなかったはずだが、最初の少年はティナの想いを読み取って、勝手にその想いに対してまで「了承」していたらしい。ティナは屈みこんでその少年と視線を合わせ、心からの礼を述べようとしたが、ティナの一連の所作の間に、その感謝の念すら容易く伝わったようだ。


「イイってことよ、そんな気にすんな!」


 少年がふと振り向いて視線を向けるだけで、「何か」が発せられたようだ。歳をとった、髭と白髪が特徴的なリック族の一人がすすっと歩み出てきた。


「王家の者、あやつの娘。ワシが一応、一族の代表というやつじゃ。ヒトと会話する時は合わせねばならんからな。若いヤツはまだまだ下手でのぉ、ワシが話そう」

「お初にお目に掛かります」


 ティナが頭を下げた。


「ま、あんたは皆と話がしたいということじゃろうがな、それは別に杞憂じゃろうて」

「……ごめんなさい、ええと?」

「あんたも下手じゃねえか」


 最初の少年がからかうように笑ったが、すぐに笑顔を引っ込めた。恐らくリック族の老人から、黙っていろ、というような感情が発せられたのだろう。


「わざわざ、皆に『王家とまた仲良くしてほしい』と改めて言われるまでもない。またもなにも、我らは反意など微塵もない。話せるヤツがこんかっただけのことじゃ」

「やはり……」


 ティナはその事実を、ある程度想定していたようだった。


 ジグライドが何故、リック族の特徴を今日まで秘匿してきたのか、その意図は定かではない。そして事実として、先王アルフレッドが倒れて以来、リック族は他のどの種族とも、派閥とも意志の疎通を図ってこなかった。


 だから勝手に王家も、リック族は王家には協力的ではないのだと決めつけていただけなのだ。


 先王アルフレッドがいた頃は、リック族とも友好を結んでいた――――というよりは。


 先王アルフレッドだけが、リック族と誠意をもって話し、“仲が良かった”。ただそれだけのことなのである。そして今、その友好関係は、娘のティナに確かに受け継がれることになったのだ。


 ティナが発する、ヒトには知覚できない「何か」は、相対する老リック族のみならず、ここにいるリック族皆に伝わっているのだろう。彼らはうんうんと頷きながら、老リック族とティナの話を聞いていた。ほとんど聞く必要もないのだろうが、彼らは彼らで、他の種族が「リック族の意思疎通」を理解できていないことを、多少は知っている。最初の少年をはじめ、それを加味して丁寧なコミュニケーションをとることは不慣れらしいが。


 言葉にするまでもなく、ティナの想いは既に伝わり、それは杞憂だと断じられた。心配しなくても、王家とリック族の友好は損なわれていない。というよりは、ティナとリック族はこれから、友好を築いていける関係にあるのだと。王家の側が、勝手に身構えていただけだった。


「……ありがとう。もう一つ、お願いしたいことがあるのです」

「うむ。見せてみぃ」


 やはり、言わなくても伝わることがかなり多いようだ。ティナがリシアに目配せした。リシアがさっと前に歩み出て、砕けたオリジンのパーツを全て、老リック族の前に出して見せた。受け取ったのは老リック族ではなく、最初の少年の方だった。


 少年にしか見えない彼は、かなりの「やり手」らしい。


「おー……おぉ、おう。派手にやられてるじゃんか」

「難しいのぉ」

「何もかもってわけでもねえな」

「カルチ石とクレツェン鋼じゃ。他にもある」

「足りねえ」

「二日」

「保証は出来ねえ」


 会話のテンポがやはり凄まじく早かった。最低限の単語だけで完璧に、互いの言いたいことがわかっているらしい。リック族同士の、ティナや総司たちに気を遣う必要もない、技術的な話なのだろう。断片的な単語だけではほとんど意味がわからない。総司たちが理解するには、抜けている言葉が多すぎる。


 修理の依頼をティナは口にしていないのに、もうそれが伝わっているようだ。


 ティナの話では、「一言一句全てを悟られるというわけではない」とのことだったが、これまでの会話の流れを読むに、リック族に伝わる「何か」はかなり多い。


「うむ、うむ。娘さんや」

「はい」

「直せるぞ」


 総司とリシアがパン、と手を叩き合った。ティナはほっと胸をなでおろした。


「良かった……!」

「じゃが時間が掛かる。三日じゃ。二日ではちと足りん。それと」


 老リック族の目が、初めて、間違いなく、総司へと向けられた。


「モノとしては直せるが、中身は別じゃ。……これで伝わるな?」

「ええ、そのことについてはこちらで」

「では引き受けよう。大仕事じゃぞぉー」

「うーし行くかぁ」


 最初の少年を筆頭に、集まったリック族たちがぞろぞろと、鉱山の方へと戻ろうとする。ティナは慌てて、


「お、お待ちを! 何もこんな夜更けから取り掛かってほしいとは決して――――」

「わかっとるわかっとる」


 老リック族が笑いながら頷いた。


「まあ要は、皆も寂しかったのじゃよ。あの若造がこなくなって以来、ワシらと話をしたがる者は久しく来なかったからのぉ」


 老リック族は懐かしそうに言った。


 厳密には決して、老リック族の言ったことは事実ではない。リック族の工業的な価値は高く、ヴァイゼを筆頭に誰もが彼らの技術力を欲していた。


 だが、リック族にとっては、先王アルフレッドが来なくなってから今日まで、「誰も話をしに来ていない」のと同じなのだ。ヒトにはなかなか理解しがたい彼らの知覚の上ではあるが、事実として、老リック族はティナと話すまで、「客は来たことがない」という認識だ。


「あの若造がこんようになってから、どれだけ経っておったかの」

「四年です。父がとてもお世話になったと聞きます。改めて、ありがとうございます」

「よう似とる」

「……母に似ているとはよく言われますが、父に似ていると言われたのは久しぶりです」

「そうかね? 瓜二つじゃがのぉ」


 リック族が“色”のように識別する、「何か」。


 老リック族の目にはきっと、先王アルフレッドとティナの「それ」が、そっくりに見えているのだろう。


「あの若造は王であったとか。ではあんたが次の王か」

「いえ、私は王女の身で――――」

「ならんのか」


 ティナが黙った。だが、老リック族はその沈黙からも、やはり多くのことを読み取った。


「なればよかろ。あんたはあの若造によく似とる。少なくともワシは、アイツに似とるヒトを初めて見た――――今日、二人もな」


 ティナがぱっと振り向いた。老リック族の視線の先には、確かに総司がいた。


「レブレーベントの」

「ウス」


 総司が歩み出てぺこりと頭を下げた。


「違うな。なるほど。女神の」

「……わかるんスか」

「あんたは正しいぞ。それでいい」


 リック族は決して「心を読める」わけではない。思考の全てを読み取れるわけではない。


 だがそれでも、老リック族は、総司が「女神の騎士なのだな」と問われた時の反応を――――その時に総司から発せられた「何か」を鋭敏に察知し、うむうむと頷いた。


「あやつに惚れてもロクなことがない。あんたの一歩引いた今の考え方が正しいぞ。自分のため、女神を助ける。良いではないか。レブレーベントからここまで、よい旅をしてきたのじゃな」


 総司が目を丸くした。本当に心の内までは読めていないのか、疑わしいほどの慧眼である。


 それはきっと、リック族の特性というのももちろんだが、何よりこの老リック族の経験、老獪な智賢が齎すものだ。


「ほほっ。というよりは、人生の良い師に出会ったようじゃな。あんたにそこまで想われる誰か、会うてみたいものじゃ」


 総司の魔力の質から、総司が特別な存在であることももちろん読み取って。


 老リック族は、総司の憧れのヒト――――ルディラント王ランセムに対する敬意を述べた。


「……その言葉を聞けばきっと、あの御方もお喜びになる」

「叶わぬとな。亡きヒトか」

「はい。千年前の御方です」

「面白いことを言う。信じよう。あんたの胸に刺さっとる言葉、あんたの夢の果てまで決して忘れるでないぞ。まっこと、若いうちによい出会いをした……」


 老リック族はしみじみそう言いながら、他のリック族のあとを追って鉱山へと歩いて行こうとして――――はたと立ち止まった。


「……三日は、あんたらには長いな?」

「んっ」

「ッ……いえ――――」


 総司とティナがぐっと言葉に詰まった。老リック族は頷いて、


「届けるとしよう。今夜はひとまず休んで、明日、ここを発つといい。宴はまたの機会としようぞ」


 ティナがハッと言葉を返そうとしたときには、老リック族はもう皆に背を向け、さっさと行ってしまった。ティナが何を言おうとしたのかなど、老リック族には当然わかっているはずだ。それでも無視するというのだから、聞くつもりがないのである。


 ティナはその背中に向けて、必要ないとわかっていても、深々と一礼した。








「大丈夫か」

「ごめんなさい……感極まってしまって……」


 先王アルフレッドのための家に戻った途端、静かに涙を流し始めたティナを、総司たちは慌てて慰めた。


 無論これはうれし涙である。リック族との関係性は全く悪くなかった。四年の歳月を経て、エメリフィム王家は初めて、友好的な関係を築けていなかった種族との友好を結びなおすことに成功したのである。


 これは間違いなく快挙だ。微妙な情勢、危ういエメリフィムにあって、リック族と王家が再び仲良くできるというのは快挙と言うほかない。そしてそれを齎したのは、他ならぬティナ王女である。


「そうだな……いや、俺はまだここにきて日が浅いから、気持ちがわかるってのも薄っぺらいだろうけど……ひとまず良かったじゃねえか。リック族とは仲良くできそうだ」

「……初めて、言われました」


 ティナは涙をぬぐい、晴れやかな笑みを見せた。


「王になればいいって、初めて……」


 シドナが唇を真一文字に結び、目を伏せる。


 王城の誰もが、どうしてもティナに言えない言葉だったに違いない。ティナに忠誠を誓う側近ですらも、言い出せなかったたった一言。


 あの老リック族がいともたやすく言ってのけた言葉の重みは、並大抵のものではない。


 その夜、総司たちはいろんな話をした。聖櫃の森で出来なかった、総司のこれまでの旅の話。先王が逝去してからの日々、ティナのこれまでの苦労の話。トバリは総司の話には興味深そうで、ティナの話には興味なさげだったのだが、誰も気に留めなかった。


 その話の中で、ティナはこんなことを言った。


 エメリフィムにおける総司の運命を左右する、自らの誓いを。目標を。


「代々、エメリフィム王家が行ってきたのは、言うなれば『君臨する統治』。絶対的な力を持つ王家が、他を押さえつけることで達成される平和……父もまた、その統治の仕方を受け継いだ王でありました」


 偉大なる先王の威光は、エメリフィムにおいて絶大。


 代々積み上げてきた「エメリフィム王家」の象徴的な存在であり、四年経った今も、エメリフィムに住まう多くの者たちが、その頃の治世を忘れられずにいる。


「けれど、父は私に言いました。父が私に受け継いでほしい、父の理想、目指すべき統治とは――――リック族の元へ足しげく通い、ただ仲良く宴を楽しんでいた父が、本当に目指していたのは」


 そんなエメリフィムの最中にあって、中心にいて、まさしく「エメリフィム王家らしい」統治の体制を維持していた先王が娘に語った理想。それは――――


 それはあまりにも美しく、あまりにも残酷で虚しく響く、空虚な願望。


「『調和する統治』。繋がり合い共に歩む統治――――種族の垣根を超えて、皆が同じ高さに並び立つ、そんな国を創りたいのだと――――」








「きぃっ――――っつい……!!」


 夜も更け、皆が寝静まった頃。


 先王アルフレッドのための家を出て、その家から十分離れて。


 総司は、相棒リシアの前で、とんでもなく大きなため息と共に、胸の内に渦巻くどうしようもない苦しさを思いきり吐き出した。


 恐らく同じ想いを抱くリシアが、苦しげな表情でぎゅっと目を強く閉じ、ティナの言葉を反芻している。


「……理想として、素晴らしいものだ」

「そうだ。間違いねえんだよ、もちろんな」


 ティナがしみじみと、しかし明るく語った「目指す未来」は、とても素晴らしいものだ。素晴らしいという言葉以外に形容しようのないほど、“これからのエメリフィム”が目指すべき目標として理想的だ。わずか数日しかエメリフィムに滞在していない総司とリシアにも、ティナの理想が今のエメリフィムにとってどんなに素晴らしいものであるかは十分に理解できる。


 だからこそ、苦しい。あの場では、やっとのことで「良いな、それ」という言葉しか絞り出せなかった。


「ティナが――――先代までの王と同じく、“強い女王”だったなら、どんなに素晴らしい方針だったかわからねえ。けど……!」

「ああ。決定的に選択肢としての説得力がないんだ」


 総司が言葉にしにくいことを、リシアが重々しく引き取った。


「今の……現状の王家では」


 “今のティナでは”と言いかけて、流石にそこまでは言い切れずに訂正し、リシアが言う。


「『君臨する統治』が“出来ないから”、『調和する統治』という道を“選ぶしかない”。客観的な評価としては……体制を変えるしかないから、そのための言い訳。そういうことになってしまうだろう」

「……リシア」

「ダメだ」


 総司が言いかけた言葉を察し、リシアがぴしゃりと言った。


「流石にそこまでは許容できない。お前があと何日、エメリフィムにいられるというんだ。その背中と胸に掲げた紋章の意味を忘れてはならない。我々はエメリフィムだけを背負って立っているわけではないはずだ」

「……わかってんだけどよ……!」

「カイオディウムとは状況が違い過ぎるんだ。気持ちは私にだってわかるが、留めておけ」


 その場にしゃがみ込み項垂れる総司の肩をポン、と叩いて、リシアが優しく言った。


「“オリジン”が直ったら、出来るだけ早くローグタリアに向かおう。酷なことだが――――エメリフィムに留まり過ぎるのは、お前に毒だ。全てを成し遂げて“戻ってきた”後は、お前の好きにすればいい。女王陛下とアレイン様への言い訳ぐらいは一緒に考えてやる」


 その時まで、エメリフィムは今のまま、何とか均衡を保っていられるだろうか。カトレアとディオウも国内にいる、この不安定な状況で、どれだけ――――


「……すまん。また嫌な役をさせた……」

「良いさ。お前のそういうところは嫌いではないよ。それで?」


 腕を組んで苦笑しながら、リシアがさらりと話題を変えた。


「私に話したいことがあるんだろう。おおかた、聖櫃の森での出来事か」

「なんだ、わかってたのか」

「そろそろ、お前との付き合いも長くなってきたからな」


 総司はパン、と頬を叩き、気合を入れなおして、すくっと立ち上がりリシアに向き直った。


 リシアに聖櫃の森での出来事、泡沫のネヴィーとの邂逅と、彼女が語る「世界に迫る危機」の話の一部始終を聞かせる。


 リシアは神妙な面持ちで総司の話に聞き入り、いつも通り思考を回しながら一言一句聞き漏らすまいとしていた。


「“レナトゥーラ”。“怨嗟の熱を喰らう獣”の名であり、『召喚獣』。ふむ」

「どう思う?」

「またざっくりとした聞き方だな」


 リシアがくすっと笑った。


「まず前言を撤回することになる。レナトゥーラがエメリフィムのみならず世界を脅かす存在であり、放置は許されないというなら、“オリジン”が直ってもすぐには動けないということだ。お前には……あまり情を移さぬよう、気を付けてもらいたいが」

「けど、ネヴィーの言う『目覚めは本当にすぐそこまで』の、『すぐそこ』ってのが具体的にどれぐらいのもんかわからねえよな……」

「無論、その間、様子を見ているだけというわけにもいくまいな」

「……っていうと?」

「何だ、もう忘れたのか。お前は王都フィルスタルに入った直後に何を見たんだった?」


 総司がハッと目を見張った。


「王城の地下……!」

「城に戻り次第、ジグライド殿に言って案内してもらおう。まずはその確認からだ」

「待て待て、ってことは――――」

「レナトゥーラは千年前ロアダークと戦ったとされる各国の英傑が一人、大賢者レナトリアが使役した『召喚獣』。もしも、王城の地下にある、お前が脅威に思うほどの『何か』がレナトゥーラの召喚に関係するものだったとすれば」


 リシアは不敵に笑った。


「狙いが読めてきたかもしれない、ということだな。今代の『召喚者』は賢者アルマであり、カトレアの企みがそこにある可能性は高い」

「……あの女、俺にぶつけるつもりか」

「可能性としてはあり得るな。今のところカトレアが“オリジン”の修理を妨害しないのは、レナトゥーラの召喚が成し遂げられるまで、お前にはエメリフィムにいてほしくないから……言い換えれば、さっさとローグタリアに渡ってほしいから。ただ……」


 リシアがまた考え込んだ。


「ネヴィーがお前に言った『召喚そのものは止められない段階』という部分が引っ掛かる。カトレアがエメリフィムでお前との決戦を望むなら、むしろエメリフィムに留める方向で動きそうなものだが……召喚が達成されるまで、あらゆる想定外を排したいのか。それとも、エメリフィムでの決戦は望んでいないのか……」


 リシアのつぶやきを聞いて、総司が思い出した。


「“一人の少女がかの王を呼び覚まし、世界にというよりは、お前に挑む”」

「ッ……カイオディウムで聞いたな。ヘレネ様の御言葉だったか」

「あのヒトの『未来予知』がどれほど正確なもんかはわからねえが……この言葉を信じるとすれば、カトレアは“ローグタリアで俺と事を構える”つもりじゃねえのかな」

「では、私の推測は間違っているのか……? 無論それはあり得る、いや、しかし……」


 リシアはしかめっ面をして、


「ネヴィーが語ったという『目覚めの近いもう一体』とも繋がるし、ヘレネ様の予言は状況に合っている……」

「“神獣の王の目覚めが近づいている”、か」

「そうだ。レナトゥーラは精霊を下界に落とし込んだものだと言っていたのだろう。であれば『神獣の王』はまた別に存在しているのだから……だが……あぁ、ダメだ、今すぐには纏められん」


 リシアが首を振り、いったん思考をリセットした。


「早めに整理してお前にも報告する。ひとまず、この件は私にいったん預けてくれ。何かしら答えを出して見せよう」

「そう気負うなって。少なくとも城に戻れば、地下で情報が一個増える可能性が高いし、アルマもいるんだ。直接疑問をぶつけてみるのも面白いじゃねえか」

「ああ、わかっている。だがアルマ殿と話をするにしても、こちらにも準備が必要だ。ほしい情報を引き出すためにもな。なに、心配するな。考えが凝り固まらないようにする」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ