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リスティリア救世譚  作者: ともざわ きよあき
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贖いし/罪裁くカイオディウム 終話③ 知られたくないこと

 フロル秘蔵の酒が所狭しと並べられたのは、ベルの私室のテーブル上。


 料理を置くスペースがなく、フロルの内緒の命令によってつくられた料理の数々は「テーブルごと」ベルの部屋に運び込まれ、さほど広くはない、年頃の乙女らしいどこかファンシーな部屋は瞬く間に酒と料理で埋め尽くされた。自分のセンスで自分好みに仕立て上げた部屋が蹂躙されていく様を、ベルはただ見ていることしか出来なかった。


 何も、なかったと。


 そう片付けるからには、大規模な宴の席など設けるわけにはいかない。しかしフロルの心境として、まさかこのまま何の礼もせず総司とリシアを送り出し、ミスティルを国に帰すなんて真似が出来るはずもない。フロルの執務室では目立ちすぎるので、ベルの私室を宴席会場として選んだのである。


「うまい!」


 かくして、総司たち三人はベルの私室へと招かれ、乾杯と共にカイオディウムの騒動を乗り越えた五人によるささやかな宴が始まった。騒動から一夜明けた後も、軽食程度にしか腹に入れていなかった総司は、給仕係を務めるクレアが驚くほどの早さで次々と料理を平らげていった。フロルが「ソウシは年頃、大量の肉を用意するように」と言って、とんでもない量の食事を注文してきた時には、クレアも「大げさな」と半ばあきれたものだったが、どうやらフロルの方が見立ては正しかった。


「お前以外そんなに食べないのだから、もう少しゆっくり楽しめ」


 リシアが呆れかえったように言うが、総司は全く気にしない。流石はカイオディウムの権力の最高峰と言うべきか、出てくる料理の素材も味も一級品。しかも、隣国故に食文化もレブレーベントと似ているカイオディウムではあるが、今宵の食卓には総司にとって最高の食材ともいえる「米」があった。レブレーベントでは主食としてパンが基本だったため意外だったが、純然たる日本人であった総司にとって「米」の威力はすさまじく、総司が食を進める手はしばらく止まりそうもなかった。


 また、実はリシアの言葉は完全に正しいわけではない。


 細い体にクールな性格、はた目にはとてもそうは見えないのだが、実のところミスティルもかなりの大食いである。本人曰く「燃費が悪い」とのことで魔法の使用後に限定はされるものの、魔法を大規模に行使した後は食欲も相当湧き上がる様子。総司が派手に食べ進めるあまり誰も気にしていなかったが、実際のところ総司に負けず劣らずのペースで料理を平らげていた。


「注ぎましょう」


 空になったグラスめがけて、フロルがエールを注いでいく。女神教の枢機卿に酒を注いでもらえる機会はなかなかない。総司は気にしていない様子だったが、リシアはさすがに恐縮しながら酒を受け取った。


「申し訳ない……」

「何も謝ることはありません。あなた方は恩人であり友人ですので」


 自分はちゃっかり早速強めの蒸留酒をたしなみながら、フロルはにこやかに笑う。


 フロルにとっても当然激動の数日であったし、一度は死を覚悟した。その重荷から解き放たれた今、彼女は生来の気品こそ相変わらずではあるものの、どこにでもいる大人の女性に見えた。ミスティルは酒を飲まないため、果実のジュースで料理を流し込んでいた。


「カイオディウムの飯は香辛料強めだよなァ。うまい。好き」

「お前、語彙力が……」

「そうでしょうか? レブレーベントの食文化も似たようなものだったと思いますが」

「自然の味が基本のティタニエラから来たので、特にそう思うのかもしれませんね」

「あとコメがあるのが良いな!」

「あぁ、それは私の趣向に拠りますね」

「最高だなフロル! 出来る女!」

「こら、枢機卿猊下だぞ。今更畏まれとは言わんがもう少し言葉を選べ」

「気にしませんよ。あなた方ならば」

「……どうかしました?」


 食べる手を止め、ミスティルが静かに聞く。


 わいのわいのとにわかに盛り上がりを見せる宴の最中にあっても、相変わらずベルの表情は晴れない。


 居心地の悪さは当然、ミスティルにも理解できる。既に赦しは得たと言っても、まだ一日しか経っていないのだ。事実として、ベルは間違いなく、ここにいる四人の友人たち全員を裏切った。その内二人に対しては殺意すら向けた。ちまちまと料理を口に運ぶ彼女の心境を思えば、口数が少なくても無理からぬこと。


 しかしそれを許さぬデリカシーの欠片もない男が一人。


「ベル!」

「はいはい?」

「まー小難しい話は後だ! 今は食おう! 全然食ってねえさっきから!」

「食べてるよ……ソウシの早さが異常なんだよ……」

「お前に付き合ってたら胃袋が三つあっても足りん。無茶をさせるな」

「ベルだって疲れてんだろ。食わねえと疲れは取れねえ。俺の持論だ」

「言っていることは正しいがな」


 ベルはかちゃん、と食器を置いて、ぱっと立ち上がった。たまりかねた様子だった。


「みんな、聞いて」

「だーから、そういうのは――――」

「ソウシ」


 総司が渋い顔をして苦言を呈したが、リシアが優しく止めた。


「聞こう」

「……後っつーか、別に聞きたくもねえんだ俺は」


 眉根を寄せ、総司は下らなさそうに言う。だが、リシアは引かなかった。


「わかっている。その上で言っている」


 総司は露骨に嫌そうな顔をしたが、仕方なさそうに食器を置いて、姿勢を正した。


 ベルは深々と頭を下げて、四人に向けて言った。


「いっぱい嘘をついて、騙しました。あなた達を徹底的に裏切りました。ホントはこんな席にいちゃいけないんだと思う。みんな許してくれるって、朝聞いたけど……でも、もう一度ちゃんと謝りたい。本当に、ごめんなさい」


 ベルは頭を上げない。リシアはすいと視線を流して総司を見た。ミスティルも総司を見ていた。フロルも総司を見ていた。総司は、いらだった様子で腕を組み、眉根を寄せ、三人の顔を代わる代わる見つめ――――ようやく場の空気を悟った。


「……えっ。俺がなんか言うのか!? 俺は要らねえって言ってんだけど!? フロルだろここは!」

「私は身内のようなものですので」


 フロルが何気なく言った言葉に、頭を下げたままのベルの目頭が人知れず熱くなっていたが、誰もそのことには気づかなかった。


「そうでなくとも上司ですから。ベルと共にあなた方には謝罪せねばならない立場かもしれませんね……ともあれ、『巻き込まれた』にも関わらず、最後までベルの身を案じ、尽力してくださったのはあなた方三人であり、その代表となるべきは間違いなくソウシでしょう」

「んなこと言われても……」


 総司はため息をついて、ベルに座るように促した。


「……俺の考えは、ジャンジットに言った時から少しも変わってない。先祖が誰だろうがベルはベルだ。今回のことはまあ……そうだな、普通はもっと怒られるっていうか、裁かれるべきことなんだろうが……事情を知った以上はな」


 修道女エルテミナとの会話を経て、ベルの「事情」には総司とリシアの安否すら含まれていることを知ったからには、糾弾する気も失せるというもの。総司は苦笑して、


「ダメだ、こういう時に気の利いた言葉が思いつかねえ。ま、気にすんなってぐらいだな! 済んだことだ!」

「……うん。ありがと」

「さあ飲め! お前と飲めるのも今夜が最後だからな!」


 明日の朝、総司とリシアはカイオディウムを発つ。

 “レヴァンフェルメス”を獲得し、カイオディウムにおける一大騒動も終わった今、長くとどまる理由もなくなった。


 一度目のカイオディウム訪問からティタニエラでの冒険、そして今日に至るまでの旅路は一区切り。今宵はフロルだけでなく、短い期間だったが共に旅をしたベルとミスティルとの別れの夜なのだ。


 ベルは寂しげに笑いつつも、総司から注がれる酒を受け取った。宴はまだまだ、始まったばかりだ。


 ようやく笑顔の戻り始めたベルも交えて、五人はいろいろな話をした。


 ベルとミスティルは既に知っていることだったが、フロルは「ルディラントの冒険譚」に凄まじい関心を示し、総司とリシアの話に熱心に耳を傾けた。千年前に滅んだ伝説の国に「行ってきた」などという話、他で聞けるはずがない。フロルもきっと、総司とリシアが語り手でなければ、出来の良い作り話程度にしか思わず、現実の出来事だったとは決して信じなかっただろう。ルディラントの終わり、王ランセムと王妃エルマが旅立つくだりに差し掛かった時には、女神教の信徒らしく祈りを捧げながら、結末の話に聞き入った。


 話はカイオディウムでの今回の騒動に移り、五人はこれまでの経緯を皆で振り返っていた。そこでようやく、ほとんど聞き役だったフロルが話題を切り出した。


「ソウシに伝えておかねばならないことがあります」

「何だ改まって」


 フロルがすっと居住まいを正したので、つられるようにして総司も背筋を伸ばした。


「私もエルテミナと共にいた時期がありましたので、千年前のことを少しだけ知っています。あなたには遺書という形で残そうかと思っていたのですが、幸い生き残りましたので、こうして直接伝えることが出来る」


 クレアに託した救世主への手紙は既に捨てた。そこに記していた内容は、総司にとって有益に違いないとフロルは確信している。総司とリシアの表情が変わり、二人ともがフロルをじっと見つめた。


「一つ目は、オーランドがあなた方に伝えたものとほぼ同じです。千年前、ゼルレイン・シルヴェリアの軍勢にいた猛者……カイオディウムの名だたる使い手を殺し、その力を奪い尽くした稀有な能力の持ち主のことです」


 ミスティルがぴくりと反応を示した。


 戦って下したライゼスが語った話の内容と合致する。あれは元を辿ればオーランドの知識だった。


「現在のカイオディウムに“伝承魔法”の使い手が少ないことを考えれば、実在したと考えてよいでしょう。恐らくですが――――」

「今のところ、“最後の敵”の最有力候補だ」

「ええ、しかし……その正体は、私も知り得なかった」

「ベルは?」

「ごめん、エルテミナの記憶は結構飛んじゃってて……残ってる部分もあるけど、そこは全く……」

「謝ることはねえよ。そう簡単にいかねえとは思ってたしな」


 総司が気楽に言った。


「その者の重要性は非常に高いと思われます。それが、伝えたいことの二つ目に繋がる」


 フロルが古びた書物と地図を取り出して、総司とリシアに差し出した。


「礼拝の間の転移魔法であなた方を一気にエメリフィムの王都まで飛ばすということも考えたのですが……エメリフィムに行く前に、ここに寄って行った方が良いと思うのです。エメリフィムへの道中からすれば少し外れる程度ですので、さほど遠回りにもならないでしょう」

「……地名がないな?」


 カイオディウム国内の地図だ。つまり、フロルが二人に「寄って行った方が良い」と提案した場所はカイオディウム領ということになる。だが、フロルが示したポイントには地名が記されておらず、地図上では荒れ果てた土地が広がっているようにしか見えなかった。


「ええ。正式名称としては存在しない単なる荒れた土地であり、古い遺跡がいくつか残るだけの場所……名前がないのは、これまでの歴史で誰もがその土地に関わりたくなかったから。誰も近づこうとしない、出来れば忘れ去ったままでいたい場所だから。ですが、そちらの手記で仮の名が付けられている」


 とある魔法使いの手記を書籍化したもの。フロルがわかりやすく印をつけてくれているページを開くと、そこには――――“忘却の決戦場”『ロスト・ネモ』と記されていた。


「ッ……英語……!」


 総司はパッとリシアの手から書物を奪い取り、その著者を確かめる。


 著者名は、“ヘレネ・ローゼンクロイツ”と書かれていた。


 リラウフの街からローグタリアまで飛ばされた時に出会った、総司の元いた世界から四十年ほど前にやってきたという魔女、ヘレネ。


 ドイツの出だった、と言っていたはずだが、総司の知識にかろうじて「ポイント・ネモ」のことがあった。恐らくこの「ネモ」は、総司の元いた世界における「到達不能極点」が一つ、海の中で「最も陸地から遠い海域」を示す「ポイント・ネモ」から取ったものなのだろう。それが故に、その場所を形容する言葉にも英語を用いたのだ。


 或いは、ヘレネはリスティリアに来る直前の十年ほどを日本で過ごしたというし、日本で暮らしている以上、ドイツ語よりは英語の方が、カタカナ言葉、日本風の横文字も含めて日常的になじみ深くはなるから、その習慣に引っ張られたという可能性もある。


 フロルの言う“誰も近づきたがらない土地”を形容する表現として「ネモ」を用いたのだと仮定すると、「ロスト」に込められた意図は何か。


「……忘却の決戦場の意味は、知ってるか?」

「不吉な雰囲気と残留する禍々しい魔力を忌避して、いつしかヒトはおろか動物すら近づかなくなった土地……というだけではなく」


 フロルはコホン、と咳払いして、


「ウェルゼミットの言い伝えでは、ゼルレイン・シルヴェリアとロアダークの最後の激突があった場所とされています」


 千年前の最終決戦の舞台となった場所。そしてその余波が現代にまで残り、ヒトも動物も寄り付かなくなって忘れ去られた場所。まさに“忘却の決戦場”の呼び名通りだ。


「……千年前の事件の最終盤、ゼルレイン・シルヴェリアではなく“別の誰か”がロアダークを追い詰めていたのだとしたら……」


 リシアがぽつりと呟いた。その後を、総司が引き取った。


「そうだ――――クローディア様の仰っていた通り、ロアダークを討ったのがゼルレインではなかったのだとしたら、この場所にはそいつの痕跡が残っている可能性がある!」


 あくまでも可能性である。


 大聖堂デミエル・ダリアの秘密の部屋に刻まれた名前を消し去り、エルテミナの言葉を奪った周到さ。痕跡を一つ残らず消しているかもしれない。


 しかし、わずかな可能性に賭けてでも行く価値はある。おぼろげにでも見え始めた“最後の敵”の正体、その詳細、情報はほんの少しだけでも貴重に過ぎる。総司はあまり期待を持たないように努めつつも、やはりわずかな期待を抱いて胸を躍らせた。


 一方、リシアは、大部分が総司と同じように「痕跡がある可能性」を考える思考ではあったものの、総司より一歩先の予測に辿り着き、表情を険しくしていた。ヘレネの手記に夢中な総司は、リシアのわずかな変化に気づかなかったが、フロルが気づいた。


 フロルはパッと立ち上がると、ふう、とため息をついた。


「少し酔いが回ってしまいました。興が乗って飲み過ぎましたね。風に当たってきます。私から伝えたかったのは以上ですので」


 ベルの部屋のベランダに出る寸前、フロルが目配せした。リシアが気づき、その意図を見抜く。リシアは水をグラスに注いで、フロルから少し遅れて立ち上がった。


「水ぐらいあった方が良いだろう。持って行ってくる」


 今しがた得られた情報をもとに話を始めた総司たち三人を置いて、リシアはそっとベランダに出た。フロルは気分よく酔ってはいるらしいが、決して酩酊状態ではなく、にこやかにリシアを待ち構えていた。


 月明かりに照らされた大聖堂は美しく、昨日や今日の昼間の喧騒が嘘のように静寂に包まれている。夜も更けた頃合いだ。『下』で相変わらず巻き起こっていた聖騎士団と信徒たちのせめぎあいもそろそろ落ち着いていて、明日にはフロルが暇を出した聖職者たちが『上』に戻ってくる。


 最初にカイオディウムを訪れた時、カイオディウム出身であるリシアは、自分がいた頃とのわずかな変化を感じ取っていた。暮らしぶりが少し良くなったか、まともな家が多くなっていた。『下』の生活が、リシアがいた頃よりも改善されていた。


 フロルは、女神教の厳格な指導者として権力とカリスマ性を維持しつつも、少しずつ『下』の状況を良くしようと努力していたのだろう。その成果が、十年ほど前を知るリシアにしてみれば確かに目に見える形となっていた。


「何かに気づかれたようですね、リシア」

「……思考を一元的にしてしまえば、可能性の幅は狭まります」


 フロルの隣に立ち、眼下のカイオディウムを眺めながら、リシアは静かに言う。


「“最後の敵”の痕跡……カイオディウムに残る名前と、エルテミナの言葉を奪ったのは“最後の敵”本人だと、つい先ほどまで私も思っていましたが、それは勝手な思い込みです」

「……どういう意味です?」

「女神様はソウシに何かを隠している」


 リシアの告げる核心が、フロルの思考に突き刺さる。


 突き刺さった楔は彼女の思考をそれまでと全く別の部分に繋げ、解が整うまで三秒と要しなかった。


「その“何か”の正体が、今まで掴めなかった。しかし、可能性という意味では……」

「“最後の敵”の痕跡を消したのは、女神様ご自身かもしれない。女神様がソウシに隠したい“何か”の正体が、“最後の敵”の情報だと……」


 女神を絶対的としてしまえば辿り着けない思考。しかし同時に、“ラーゼアディウム”を墜としたのが、各国の聖域の破壊を望む女神自身の望みと読んだリシアにしてみれば、当然の思考。


 意図はまだ読めない。総司が女神救済を成し遂げること、それが女神にとっての最優先事項なのであれば、“最後の敵”の名を隠すのは道理に合わない。普通に考えればあり得ない可能性のはずだが、女神が相手となれば話は変わる。


 総司は女神の思惑を知らないし、女神の側も総司に伝えてはいない。


 女神の騎士として、総司は間違いなく特別な存在だ。しかし、総司に対する女神の接し方、総司の扱い方は、果たして本当に彼を大切にしているのか疑問に思える部分もある。


 特別な状況限定だが、女神と会話することのできる総司は特別だ。だがそれも、女神の思惑を叶えるために必要な行動に過ぎない。


 レブレーベントで悲しくも総司が自覚した通り、総司はリスティリアを救うための「舞台装置」。総司の認識はルディラントを経て改められたかもしれないが、女神は違う。


 女神が総司に求めている役割の本質は、彼をリスティリアに召喚した時からわずかも変わっていないかもしれない。


 “ハルヴァンベント”への道は一方通行。それが事実なら、女神は総司を「捨て駒」として扱う気だったとすれば、いよいよ。


 リシアは、女神レヴァンチェスカを敬うことが出来なくなる。


「……ソウシは特別な存在であり、稀有な存在。その特異性はリスティリアに生きる生命とは別格です。しかし、最後までソウシの味方で在り続けられる存在がいるとすれば、あなたをおいて他にはいない」


 リシアの考えを聞き、フロルもまた、リシアと似た疑念を抱いてはいる。しかしフロルは女神教の最高権力者である。女神を疑い否定的な立場をとることなど、出来るはずもない。フロルに限らず、女神教の信徒に限らず、リスティリアに生きる生命の多くがフロルと同じような心境になるだろう。


 様々な冒険を経て、その輪から外れようとしているのは恐らく、リシアただ一人だ。


「彼を支えてあげてくださいね。きっと、彼にはあなたが必要です」

「……はい。わかっています」


 夜はゆっくりと更けていく。カイオディウムで巻き起こった騒動のみならず、様々な疑念も包み込んで。二人は話も程々に、宴の席へ戻っていった。


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