表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リスティリア救世譚  作者: ともざわ きよあき
175/359

贖いしカイオディウム 第四話① 動き出すカイオディウム

 リシアと分かれた後しばらくしてから、ベルは注意深く動いて王女の目を盗み、ミスティルと共に王家の屋敷を脱出し、空を飛んでいた。


 ベルが操るサレルファリアの魔法は、風に乗って空高く舞い上がることが出来る。リシアの“ジラルディウス”ほどの速度は達成できないが、そもそもサレルファリアの魔法は伝承魔法ではなく、風を操る一般的な魔法の一つだ。通常の使い手が行使したところで、ヒト一人が自在に空を舞えるほどの力は発揮されない。使用者がベルであり、繊細な魔法のコントロールを簡単にやってのけるからこそ実現可能な所業である。


 王家の屋敷を出て、大聖堂を正面に捉えることのできる位置までふわりと飛ぶ。ミスティルがすいっと空を泳ぐようにしてベルに追いつき、月明かりの中で声を掛けた。


「本当に良いのですか?」

「うん。ごめんね、急に。ずっと巻き込みっぱなしでさ……いろいろ、気に入らないことも多いでしょ」

「……それは別に、良いのですけど」


 風もさほどない、穏やかな夜。空を泳ぐ二人の少女は月光の中で向き合う。


 ミスティルはしばしの逡巡の後、目を細めてベルを見つめ、言った。


「けれど……あなたはきっと後悔すると思います」


 ミスティルは、カイオディウムに来てから、自ら望んで盲目的になった。


 俗に言う内ゲバ、ヒト同士の諍いの様相が強くなったカイオディウムにおける一連の流れに、彼女自身は何の興味も持っていなかった。カイオディウムの実権を握るのがウェルゼミットであろうが、王家であろうが、どうでも良かった。フロルの生死についても関心はなかった。うら若き女性一人の命を奪うために、あれやこれやと画策するヒトたちを冷めた目で見る程度には、フロルへの同情もあったかもしれない。しかしだからと言ってその命を救いたいとは微塵も思っていない。


 ミスティルは“ベルが望むことをする”。カイオディウムについてきたのはミスティルなりの罪滅ぼしであり、それはベルの望みを叶えることによって達成される。だからミスティルは、王女の作戦にも加わることを良しとした。


 けれど、ベルがミスティルに“望んでいる”ことは、本当にベルの本心なのか。そこには疑問が残る。


 ミスティルの見立てとしては、ベルは使命感で動いていると思っていた。しかしその言葉では言い表せない何かがベルにはあって、ベルはそれをミスティルだけでなく、誰にも話していない。悟らせてもいない。


 幼い頃からスティンゴルドの血の呪縛に囚われたまま、たった一人で戦ってきた彼女の心境は、彼女が言わなければ誰にも理解できない。そしてミスティルには、強い言葉でベルを問い詰めてそれを吐かせる資格もない。


「優しいね。止めてくれるんだ」

「止めはしません。諭しているだけです」

「同じことじゃん? あはは、そういうとこ好きだな~あたし。ミスティルもあたしのこと好きなんだっけ」

「そんなこと言いましたっけ……?」

「言ったよぉティタニエラで。あたしの自分勝手なトコロが好きだって」

「嫌いじゃないと言った覚えはありますが……まあ、好きですよ、自分勝手なあなたのこと。だから今のあなたは好きではありませんね。自分勝手じゃないベルさんは、好きじゃない」


 ベルはニコニコ笑いながらミスティルに近づいて、その頬に優しく触れる。ミスティルはその手を払いのけることもなく、ただベルのまっすぐな瞳を見つめ返していた。


「ティタニエラからここまで付いてきてくれて、本当にありがとう。これで最後だよ、ミスティル。お願いできる?」

「……そうですか」


 ベルのまっすぐな瞳を見て、自分の言葉にはもう意味がないのだと悟ったか。


 ミスティルはそれ以上何も言わず、そっとベルから離れて、大聖堂デミエル・ダリアに向き直る。


「どうしても自分の手で決着をつけたいというなら……その意思に従いましょう」


 破格なる力、“次元の魔女”の凶悪にすら思える力が、月光を背に拡散する。


 その手に宿すは、雷光のように荒れ狂う白銀の光。携える光は弓の形を取り、この世のものとは思えない莫大な魔力が広がって、やがて収束し、弓につがえる巨大な矢と化す。


 古代魔法“星の雫”。神獣にすら届き得る、次元を断絶する力。敵とみなしたものをこの世から排斥する一撃が遂に放たれ、眩い光が稲妻のように空を走り、大聖堂デミエル・ダリアを護る不可視の結界にぶつかった。大聖堂に強い衝撃が加わる。


 結界全体に広がるように、白銀の光が拡散する。バチバチと音を立てて大聖堂全体を包み込むように走った光が、結界の一つを、巨大なガラスが凄まじい勢いで割れたような轟音と共に破壊した。


 大聖堂の権能の一つ、枢機卿の地位にある者に対する絶対的な護りを突破した瞬間である。


 強固なる大聖堂の魔法障壁は、ミスティルの古代魔法にも、「それ以上」の破壊を許さなかった。ミスティルによる攻撃は確かに大聖堂の護りを突破したが、それは性質がミスティルの魔法と同質のものだったからだ。物理的・魔法的な攻撃を防ぐ障壁までは、ミスティルでも流石に突破できそうもない。しかし、それで十分だった。


「ありがとう――――お別れだね」


 ゴウッ、と風がうねりを上げる。ほとんどなかったはずの風が勢いよく渦巻き始めたのは、ベルが本気になった証だ。


「短い間だったけど、いろいろあったけど……ミスティルと会えて良かった。こんなくだらない争いに巻き込んでごめんね」

「いやな言い方ですね、まるで今生の別れみたいに」


 最早、止められない。

 決意を秘めたベルの横顔に、ミスティルは静かに言葉を掛けた。


「大老さまとも約束していたでしょう。またいずれティタニエラに遊びに来ると。私も楽しみにしていますから――――必ず、来てくださいね」

「へへっ……うん、ありがと! じゃあね!」


 努めて明るい声で言って、ベルが飛び出そうとした、まさにその瞬間。


 大聖堂デミエル・ダリアを抱く空中都市そのものが震え、動き出した。


 他の衛星都市と繋がる通路、その接続部分が轟音を立てて破壊され、大聖堂が徐々に、徐々に浮かび上がっていく。役目を終えて引き下がろうとしていたミスティルが飛び出して、ベルの前に回り込んで彼女の体を押さえた。


 ベルも、突然起こった目の前の事態に理解が追いつかず、ただ目を見張るのみだ。


「なっ――――」

「これは……」


 轟音を立てて通路を引きちぎりながら、巨大な空中都市が上昇していく。ゆっくりとわずかずつ、しかし確かに、大聖堂は天に向かって昇り始めていた。


「一体、どういう……!」

「聞いていた話と随分違いますね。何が起こるんでしょうか」


 ミスティルは興味深げにその光景を眺めていた。しかしベルはそれどころではない。想定外の事象だが、このまま取り残されるわけにはいかなかった。


「何が起こるかわからないから、ミスティルはとにかくここから離れて!」


 ベルがギュン、と、上昇していく大聖堂へ向かって飛んだ。ミスティルはふわふわと浮かびながらその背中を目で追いかけて、ふーっとため息をつく。


「……出来るわけないでしょうに」


 カイオディウムの行く末にも、これから起こることにも、興味はないが。


 ベルにとっても想定外の事態の中で、ベルを放っておくというのは、流石のミスティルも気分が悪い。


 ベルの後を追いかけてミスティルもまた、大聖堂に向けて飛んだ。




「ぅえっ――――リシア!」


 自由落下の中でどうしようもなくなっていた総司がリシアの姿に気づき、ぱっと顔を輝かせた。リシアを見つけた途端、泣きそうな顔が一変した。既に遠目に見える首都ディフェーレスよりも低い位置まで高度が下がっていた。


「よかった、無事だったんだな! ここで何してんだ!? なんでこんなところに!」

「全部こっちのセリフなんだが! 一言一句違わずな! どういう状況だこれは!」


 自由落下の最中、空を泳ぐように体を動かして、総司が徐々にリシアへと近づく。二人は互いに手を伸ばし、その手が遂につながった。


「“ジラルディウス・ゼファルス”!」


 総司を捕まえると同時にリシアが魔法を使って、自由落下は終わりを迎える。リシアは総司を抱えながらギュン、と高度を上げた。再びディフェーレスを超える高さまで上昇していく。


「助かったぁぁ……俺はもうダメかと……」

「一日二日目を離しただけで、何をどうやったらこんな窮地に追い込まれるんだ! 奇跡的だぞ悪い意味で!」

「俺だって好きで死にかけてたわけじゃねえよ!」


 空中でぎゃーぎゃー言い合っていた二人だが、リシアにとって総司の健在は喜ばしいことだ。瞬間的に起きた出来事も多すぎて混乱していたが、肩の荷が一つ降りた気分だった。


「何が何だか全くわからないが、とにかくデミエル・ダリアまで飛ぶぞ。まずはお前の話を聞かないと」

「ああ、話したいことはたくさんある。今何時だ? 俺達がリラウフで分断されてからどれぐらいの時間が経った?」

「一日半……もうすぐほぼ二日、といったところだ。そのはずなんだがな……今何時かという問いには……すまない、答えられない。私も整理が必要だ」

「整理? ちょっと会わねえ間に時計の読み方も忘れちまったのか」

「落ちるか?」

「待て待てマジで落とそうとすんじゃねえ!」


 大聖堂デミエル・ダリアを抱く空中都市へ軽やかに着地し、総司とリシアはようやく落ち着いた。ベルに初めて案内してもらった時には、行きかう人々で賑わっていた大聖堂の前の広場にも、今は全く人気がない。荘厳なる大聖堂はただ静寂に佇むだけ。夕焼けに照らされて輝くその威容は相変わらずだ。


 二人はひとまず、大聖堂の礼拝の間へと入ってみることにした。扉は開かれ、二人を拒むものはなかった。


 総司とリシアの記憶にある姿そのままの礼拝の間が二人を受け入れる。やはり人気はないし、籠に囚われた獣・ティムの姿もなかった。


「大聖堂の“核”だって話だが、大聖堂そのものだな」

「“核”……?」

「ああ」


 総司は手近な長椅子に腰かけると、リシアにこれまでの経緯を話して聞かせた。リラウフからローグタリアまで飛ばされ、そこから更に大聖堂の、フロル枢機卿の元へと飛ばされたこと。その後、フロルとの話の中でベルとフロルのすれ違いを知り、最初から死ぬつもりだったフロルの覚悟を知り、止めようとしたところで囚われてしまったこと。


 レスディールとの邂逅を経て、最終的にはデミエル・ダリアの“核”と呼ばれたこの場所へ落ちてきたことまでを話す頃には、かなりの時間が経っていた。ローグタリアでのヘレネとの出会いから話し始めればそれなりに長かったし、リシアにとっても相変わらず情報量が多かった。


 リシアの側もこれまでの経緯を話したが、リシアは極めて簡潔に、重要なところだけを選択して話した。全てを話すには時間が惜しい。何より、総司も相当な情報を詰め込まれた状態で、リシアの持つ情報の全てを総司に押し込むのは得策ではないと判断した。余りある情報を整理し、適切な選択を考えるのは自分の役目だと考えた。王女ルテアによる作戦の詳細までは伝えきらず、この場所に来ることとなった顛末だけを話した。


「オーランドを止めろ、か……」

「レスディールは確かにそう言ったんだ。何とかしてこの場所から出られたら、何よりも優先しろってな」


 リシアはきゅっと目を閉じて、眉根を寄せ、深刻な表情で黙り込んだ。


 湧き上がる感情を何と表現していいものか、リシアにもわからなかった。


 カイオディウムに来てオーランドと再会してから、リシアは本調子には程遠かった。ミスティルにもたびたび指摘を受けたように、常の彼女の冷静さが欠けて、視野が狭くなっていた。


 しかし――――リシアは大きく深呼吸して気持ちを落ち着かせ、決然とした口調で言った。


「レスディールなる女性の言葉一つで、最優先事項を定めてしまうのは危険だ」


 総司と合流したことで、リシアは自分の本分を思い出し、自らの強みを取り戻した。


 救世主を補佐し導く役目は、リシアにしか担えない。祖父を疑うリシアにしてみれば、レスディールの言葉は渡りに船であり、自分の感情のみに従ってしまえば、レスディールの言葉を根拠としてオーランドを止める行動に出るのは望ましい選択だ。


 だがそれでは足りない。レスディールが総司に与えた情報はあくまでも材料の一つ。あくまでも、他者から与えられた情報は判断のための材料であって、最終的に決めるのは総司だし、総司が決断できるよう整えるのはリシアの役目だ。


「しかし貴重な情報でもある。オーランドの真の目的を知る必要がある。枢機卿の地位を奪い取るというだけでそこまでレスディールに言わせたのかどうか……最終的に何をしようとしているのか。オーランドと明確に敵対すべきかどうか、奴の真の目的で以て判断する」

「そうだな。何もわからねえまま突っ込んでも仕方がねえ」

「それと、私も興味はあるが、ローグタリアでの一件はひとまず置いておけ。それもまた極めて重要な出来事ではあっただろうが、今考えを深める必要はないように思う」

「お前の言う通りだ」

「やるべきことは二つ。ここから出る方法を探し出すこと、ここから出てまず何をするか決めること。出る方法についてはこれから探るとして、出た後についてだが、お前の望みはあるか?」

「俺はとにかく、ベルとフロルを何とかして引き合わせて話をさせたい。だからまずはベルを止めて、フロルのことを話す」

「なるほど」


 リシアは軽く頷いて、一瞬だけ思考を回した。総司の望みをもとに今後の動きを組み立てて、彼に伝える。


「お前の望みはわかった。だがそれなら、まずベルのところへ行くというのは得策ではない」

「何でだ? とにもかくにもアイツを止めなきゃ話のしようもないだろ?」

「ベルは既に私がここに飛ばされる直前、ミスティルと共に大聖堂に対して攻撃を仕掛けた。恐らく大聖堂の護り、フロル枢機卿に与えられた無敵性を突破したのだろう。予定よりも数時間早い行動だ」

「そしてその後想定外の事態が起こったんだよな」


 リシアが手短に話した経緯を思い出し、総司が聞くと、リシアが頷いた。


「そうだ。大聖堂を地震のような振動が襲っていた。これの正体はわからないが、恐らくベルとミスティルの襲撃に対して、何らかの防衛機能が働いたのではないかと思う。大聖堂の権能は枢機卿の無敵性を保つだけではないというのは、お前の話にもあったな」

「ああ。詳しくはわからないけど、いろいろとありそうだった」

「フロル枢機卿は最後まで迎え撃つつもりだとは思うが、王女やオーランドたちがベルとミスティルの動きに合わせ始めたら、いずれは枢機卿も追い詰められてしまうだろう。元々ミスティルによって護りを突破出来たら、オーランドとライゼス殿が枢機卿を追い込む手はずだったからな」

「……つまり?」

「ベルを説得している間にオーランドの手が枢機卿に届いてしまっては意味がない。というわけで、ここから出たらまずは枢機卿を保護する。それがお前の望みを叶えることに繋がる」


 リシアの方針を聞き、総司はすぐに頷いた。


「了解だ。よし、そうと決まればさっさとここを出るぞ」


 総司は礼拝の間を見回し、何かヒントがないものかと隅々まで観察した。


 まず、この空間はやはり現実の大聖堂ではなく、時間が止まっているようだった。総司とリシアがこの場所にやってきて、総司がこれまでの経緯を話し始めた時には、ほとんど夜の帳が降りかけた夕暮れ時だった。しかし今も変わらず、大聖堂には眩い紅蓮の光が差し込んでいる。時間が全く進んでいない証拠だ。


「出る手段のあてはなんかないか? 俺はない!」

「お前にないのは困るな……」


 リシアが呆れたように苦笑した。リシアは礼拝の間にしか入ったことがない。この場所以外の大聖堂を知るのは総司の方だ。


「例えば、そうだな……枢機卿と共に入ったという、大聖堂の中枢はどうだ。聖域の最深部を切り取って移し替えたという場所。“核”というには相応しい気がするが」

「それだ。行こうぜ」


 総司がすぐに乗っかって、礼拝の間の奥、階段へと進んだ。リシアもその後に従った。総司が頭脳労働より行動派であるのはもちろんその通りだが、リシアもまた、総司より思慮深いとはいえ行動力にも長けた女である。大聖堂デミエル・ダリアの“核”と呼ばれたこの場所から出る方法についてはほぼノーヒントである以上、考えたところで答えに辿り着ける可能性は低い。二人はとにかく動こうと、礼拝の間の奥の階段から上へ――――


「おぉっ……え? なんだこれ」


 礼拝の間の奥の階段を登り、小さな扉を開いて奥へ進んだ先にあったのは、二人とも最早見慣れた礼拝の間だった。


「……あん?」


 総司はパタン、と扉を閉めて、ささっと階段の中腹まで下った。


 そこから見下ろす景色も、やはり礼拝の間だ。


「リシア、扉を開けて中を覗いてみてくれ」

「わかった」


 総司の意図を察して、リシアが言われた通りに扉を開け、その場で止まった。


 総司が階段から見下ろす礼拝の間の奥、大聖堂の開かれた巨大な扉のすぐ横にある勝手口のような場所が開いて、リシアがそこにいるのが見えた。リシアの後ろには大聖堂前の大広場が背景として見えている。今すぐそばにいるリシアの後ろには大聖堂の壁があるはずだが、どうやら――――


「ループしてやがる。入ったら扉が閉じて、振出しに戻るってやつだ」

「……この上に行くべきではないのか、それとも何らかのなぞ解きをしなければならないのか。さて、時間もさほどないが、どっちだと思う」

「俺は“ここじゃない”って方に賭ける!」

「よし」


 二人は階段を駆け下り、大聖堂の外に出た。


 やはり誰もいない。しかも今になって気づいたが、『下』の街が消えている。空中都市から見える景色はほとんど変わりないが、首都ディフェーレスを構成する衛星都市以外の全てが消え去っている。


 過去の大聖堂の姿ではないか、と思った総司の予想も外れた。ここは完全な異空間で、総司とリシアが知る首都ディフェーレスと似ているようで違う場所だ。


「ソウシ!」

「っと!」


 二人ともが、小さな影を視界の端に捉えた。


 薄暗い大広場の最中にあって、小さな子供ぐらいの大きさの影が走っているのがわずかに見えた。


 その影は王家とは反対側にある衛星都市へと繋がる通路の方に、かなりすばしっこい動きで消えていく。


「どうやら賭けに勝ったみたいだな」

「罠かもしれん」

「じゃあどうする、ここで茶でも飲んでくか」

「まさか。何が起きても突破できるように身構えておけという意味だ。行くぞ」

「おう!」


 二人は小さな影を追って、一目散に駆けだした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ