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リスティリア救世譚  作者: ともざわ きよあき
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眩きレブレーベント・第二話④ 女王のスカウト

 女王は月明かりの中に立ち、総司を優しく手招きした。


 周囲を覆う植物は、総司の世界にないものだった。月光に照らされて発光する異世界の草花。総司の来訪を歓迎するかのように煌めくそれらの一つに手を触れて、女王は言う。


「惨劇の後でも、子供たちは気丈だった。お前もな。耐えがたい試練をよくぞ乗り越えた」

「……陛下のおかげです。この事態を止めることは出来なかったけれど、それでも前に進まなければならないということ……心に染みました」

「ならば、老人の説教にも多少の意味はあったということ。さて、ソウシ。お前はこれからどうする?」

「これからですか? もちろん、女神を救う旅路に出ます。あなたが仰った通りに」

「ははっ」


 女王は楽しそうに笑って、


「具体案を聞いておるのだ。女神を救うため、まずはどうする」

「……それは……これから探るというところですかね……」

「困った男だな」


 総司は何も言い返せず、戸惑いながら目を伏せた。


 「何かしなければならない」、行動しなければならないと、この悲劇を乗り越えたからこそ焦りがあった。しかし、ではどういう行動をしなければならないかがわからないままだ。総司は結局、この二日間、女王の言う通り苛烈な試練を乗り越えたものの、未だ無知なままだった。


「さて、ソウシよ、提案がある」

「提案ですか……?」

「右も左もわからぬまま歩み出したところで迷子になるだけよ。お前には力はあっても知識が足りんし、何より問題はお前の目的だ」


 女王は、裏庭の簡素なベンチに腰掛けて、ふーっと長く息をついた。


「“この世界を見渡せる場所”……女神の住まう神域、恐らくお前はそこに向かわねばならんのだろうと思う。推測だがな」

「リシアもその言葉を口にしていました。レヴァンチェスカのいる場所、そこから彼女がどこかへ隠れてしまっていると」

「感覚的なものだ。リスティリアの民は皆感づいておるよ。女神の平和に異常があることは。だが、その神域への到達は困難を極めるだろう。何となれば、誰もかれもその手段を物語の中でしか知らんからだ」

「……え?」


「レブレーベント王家の書物には、『七つの鍵を集めた勇者が神域の扉を開く』とある。しかし他国の王に聞いたが、あちらはあちらで伝わり方が違ってな。遥か北方で待ち構える暗黒の巨人に気に入られれば、その剛腕で女神の領域まで投げ飛ばしてもらえるらしい」


 レヴァンチェスカは、リスティリアに住まう全ての民にとって当たり前にそこにある女神であると共に、伝説の存在でもあった。それでも彼女がいること、彼女が世界を形作り、護っていることを皆が理解しているのは――――


「女神は気まぐれに下界に姿を現しては、その慈愛を振りまいてくださる。その慈愛によって多くの国が豊かになった。だが……それでも女神は伝説の存在。お前がまず何をすべきか、私にも見当がつかん」


 甘く考えていたわけではなかったが、やはり道のりは気が遠くなるほど険しい。問題は、レヴァンチェスカがそのあたりの知識を総司に与えていないこと。


 時間はたくさんあったはずなのに、あの女神は大事なことを伝えていないのだ。


「そこでだ」


 女王も、流石に女神の全てを知っているということはない。彼女にあるのは現実的な当面の提案だ。


「まずは知識を身に着け、ひとまずどうすべきか大まかな方針が決まるまで、レブレーベントに腰を落ち着けるがいい。明日、私たちと共に王都へ引き上げるぞ」


 総司は目を丸くして女王を見た。


「よろしいのですか? こんな、得体のしれない――――」

「今更だな」


 女王はおかしそうに笑った。


「もう私も、リシアも、お前の話を聞いた皆がお前のことを信じておるよ。それにタダとは言っておらん」


 女王がトントン、と、自分の隣のベンチを叩いた。総司は一礼しながら女王の隣に腰かける。


「活性化した魔獣の出現は、これが初めてではない」


 リシアもそう言っていた。彼女が活性化と言う言葉を使うからには、その前例がある。これが女神不在による影響なのかどうか定かではなかったが、無関係とは思えない。


「お前はリシアの下につける。第三騎士団にな。そして第三騎士団には勅命を与える。この活性化の原因を突き止め、解決すること。もしかするとそれは、お前の使命を全うすることに繋がるかもしれんし、何よりレブレーベントの国益となる。悪い話ではなかろう」

「……陛下は」


 総司は、ぽつりとつぶやいた。


「何故、今日出会ったばかりの、どこの誰とも知れない男に、そこまで……?」

「一日もあれば十分だ」


 女王は、何だそんなことか、とでも言わんばかりにすぐに応じた。


「それに足る男と思った。お前を見ていると希望を持ってしまう。そういう気配があるんだよ。自分ではわからんかもしれんが」


 女王は月を見上げながら続けた。


「まだ、こちらに来て二日。気ばかり焦っても事態は好転せんよ。まずは落ち着くことだ。それとも不服か?」

「いえ、まさか! ありがたい話です。是非」

「うむ、結構。リシアにも話を通さねばならんな。あれも嫌とは言わんだろう」


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