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リスティリア救世譚  作者: ともざわ きよあき
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清廉たるティタニエラ・第七話⑤ 帰還

 総司とミスティルがクルセルダ諸島に取り残され、リシアとベルがエルフの隠れ里に戻ってから二日が経った。


 その間、リシアは何度かクルセルダ諸島へ向かおうとしたが、クローディアに厳しく止められていた。ジャンジットテリオスが二つの組に分けたのには明確に意味があるだろうし、余計なことはすべきではない、との判断である。


 やることもないためにレオローラの仕事の手伝いをしていたリシアは、魔獣討伐を終えてエルフの隠れ里に戻り、ミスティルの家に帰ってきてぎょっと目を丸くした。


 夕暮れ時となったミスティルの家では、総司とミスティルが戻ってきており、二人ともぐったりとした様子で横たわっていたのである。


 ジャンジットテリオスは「数日預かる」つもりだったと記憶していた。わずか二日で二人が帰ってくるとは思ってもいなかった。


「お、おい、大丈夫か?」

「あぁぁぁ~」


 リシアが慌てて総司の傍に跪き、心配そうに声を掛けるが、返ってくるのは疲れ切った彼の気のないうめき声ばかりである。


「ミスティル? 無事か?」

「うぅぅぅ」


 ミスティルもまた疲労困憊と言った様子で、体の力が抜けたまま何とかディナの実をつまむ程度の動きしかしていない。


 リシアがどうしたものかとしどろもどろしていると、木の桶に水を入れてベルが戻ってきた。彼女は意外にもてきぱきとした様子で総司を木造りのベッドに放り込み、ミスティルにせっせと食事を摂らせ、同じように寝かしつける。濡れた布を二人の顔や首筋にあてがいながら献身的に世話をしているベルを、リシアも不器用ながら手伝った。


「い、一体何が……」

「さっき帰ってきたばかりなんだけどさ、ずっとそんな感じ」


 ベルが呆れた様子で言った。


「見てわかるぐらい魔力がすっからかんだし、体力も使い果たしてる。ちょっと私じゃどうしようもないからさ、クローディア様を呼びに行ってもらってるんだ」


 ほどなくして、ミスティルの家の前にどこからともなくクローディアが出現し、足早に二人の元へと近寄った。


 随分と弱り切った、しかし命に別状はなさそうな二人の様子を観察し、そっとその額に手を当てたり、総司の全身を触ったりして、状況を確かめる。リシアはハラハラしながらその様子を眺めていた。


 クローディアは、手のひらに淡い光を宿し、総司とミスティルの額に手を当てた。


 しかし、途中で何かを思ったか、ミスティルにのみ何らかの処置を施し、総司には何もしなかった。ミスティルは疲労困憊の真っ青な顔色から徐々に顔色が良くなり、すぐに起き上がれるほどにまで回復したが、総司は相変わらずぐったりとしたままだ。


「クローディア様、ソウシには……?」


 リシアが遠慮がちに声を掛けると、クローディアは薄く微笑んだ。


「魔力の回復補助として、私の魔力を流し込んだのだが……この子には、どうやらそれをしてはならんようだ」


 クローディアはジャンジットテリオスの狙いを見抜き、魔力の補充を取りやめたのだ。


「なるほど、神獣の考えることは大したものだが、やはり容赦もないな」

「どういうことでしょう」

「ジャンジットテリオスはソウシの魔力を徹底的に使わせて空にした。この子は女神の加護を受け、ほとんど無尽蔵に近い莫大な魔力を持っているはずだったが……それをほぼすべて消費させるとは、流石は神獣だ。かの神獣にしか出来ん所業だな」


 総司が今すべきことは、自分の魔力を掌握し、リスティリアに生きる生命に近づけるほどに十全な制御をおこなうことだ。


 リスティリアの生まれではない総司にとって、魔力とは単なる武器、道具であり、他の生命とはその認識が決定的に違う。それ故に、ジャンジットテリオスは何らかの試練を与えて総司の魔力を使い果たさせた。


 一度空になった魔力が戻る感覚を覚えることこそが、自分の中に流れる魔力の波動を感じ取る最も端的で効率的な手段。かと言って、総司の無尽蔵に等しい魔力をすっからかんにするというのは並大抵の難しさではない。


 一体どんな試練を乗り越えてここまで帰ってきたのか。クルセルダ諸島での壮絶な二日間を思い、リシアは身震いしそうになる。


「この子はただでさえ強力で特殊な魔力の持ち主……回復まで時間を要する。しっかりと看てやるようにな」

「ハッ。もちろんです。ありがとうございます」


 クローディアに深々と頭を下げ、その背中を見送る。苦しそうな顔で眠る総司を前にしてリシアに出来ることもなく、額に当てた冷たい布を取り換えることぐらいしかやることもない。


 総司がこんな状態になるまで苛酷な試練を切り抜けてきたというのに、自分はいつまで、自分の殻に閉じこもったままでいるのか。ティタニエラに来てから自分に嫌気が差すばかりのリシアの落ち込みようは、ここにきて最低最悪の状態にまで達した。


 その日の夜――――リシアは総司の傍を離れることなく、深夜までただ彼を見守り、苦しそうな寝息が少しずつもとに戻っていくのをじっと見守っていた。冷たい布を洗い、取り換え、彼を見守る。


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