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リスティリア救世譚  作者: ともざわ きよあき
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清廉たるティタニエラ・第四話③ 秘境中の秘境

「絶対に! 挑むべきではありません!」


 ミスティルの家は、クローディアの神殿から少し離れた、里の中心部に位置していた。


 総司とリシア、それにベルの分も寝床を整えて、ミスティルは三人を歓迎してくれた。しかし、彼女は開口一番、三人を止めるために叫び声を上げていた。


「って言われても、俺達にはそれ以外に選択肢がねえしな」

「ああ。場所と実在が確定している分、ルディラントの時よりわかりやすい」

「どうかしています! 感覚が狂っていますよお二人さん! 絶対にダメです!」


 きわめて冷静なまま、クローディアに聞いたジャンジットテリオスの情報を整理しようとする二人を見て、ミスティルがわたわたと身振り手振りで押しとどめようとする。


「天空の覇者、リスティリアの空を制圧する者! ヒトもエルフも敵う相手ではありません! 八つ裂きにされて終わりです!」

「なら陽動作戦だな」

「クローディア様の話では、オリジンを飲み込んでいるわけではなく、山の頂に安置されているそれを護っているとのことだ」

「俺がジャンジットテリオスをひきつける。その隙にリシアがオリジンを確保、後は逃げる。戦うのは最後の手段だ」

「聞いてますかー! おーい!」

「いやホント……頭おかしいよ、お二人さん」


 藁を詰めたソファに体を預け、ベルがあきれ果てた様子で言った。


「まああたしのせいなんだろうけどさ。体よく追い返したいだけでしょ。あたしがいなくなれば、ひょいっと取ってきて二人に渡してくれるんじゃない?」

「いいえ、それはありません。エルフの秘宝は確かにジャンジットテリオスの御許にあり、軽々に触れることは出来ませんから……」

「そうなの」

「ええ。しかし……あまりにも、無茶苦茶な……」

「ベルも話聞けよ。俺らの補佐しなきゃ目的が果たせねえんだろ」

「いや……っていうか、正気?」


 ベルは体を起こすと、総司とリシアを呆れた表情のまま見据えた。


「無理に決まってんじゃん。神獣だよ相手は。わかってる?」

「そりゃあ……」

「ルディラントでも戦ったしな。その脅威、身に染みているとも」

「さっきの話でも言ってたけど、え、それマジなの!? じゃあ何で生きてるわけ!?」

「そりゃ逃げきったからだろ」


 総司はこともなげに言って、


「強かったなァアイツ。元気にしてんのかな」

「我らが心配せずとも、今頃のんびりどこかで寝ているんじゃないか」

「いやいやだから! 戦ったんならわかるでしょ!? それもホントかどうか知らないけどさ!」

「マジだよマジ」

「剣と魔法でどうにかなる相手じゃないっての! この地上で、あいつらに勝てる奴なんて存在しないんだって!」


 総司の究極の一撃ですら、わずかな時間昏倒させる程度にしかダメージを与えられなかった、“真実を司る獣”ウェルステリオス。天空の覇者ジャンジットテリオスは、それと同格の存在だ。


 ウェルステリオスは、ただ逃げに徹するだけでも凄まじい強敵だった。無尽蔵の魔力で以て繰り出される深紅の砲撃は、満足に防ぎきることすら一苦労で、最後にはその余波を受けて吹き飛ばされた拍子にかの神獣の領域を脱し、何とか逃げ切っただけである。


 倒すとなれば、一体どのような手段を取れば成し得るのか、見当もつかない相手だ。リスティリアにおいては破格の力を持つ総司であっても、真正面から戦ってしまえば、勝ちの目があるのかどうか疑わしい。ベルの言う通り、そもそも挑むこと自体が頭の狂ったとんでもない所業なのである。


「だから、別に勝つ必要はねえんだって」

「目的はオリジン、“レヴァンディオール”なる秘宝の確保だ。そのことに集中すれば突破口はある」

「……呆れたぁ……あなた達、思ってたより馬鹿なんだぁ……」


 わずかも気後れの様子が見られない総司とリシアに、ベルは心から呆れかえった様子だった。


 しかし二人は本気だ。


 ジャンジットテリオスが縄張りとしているのは、エルフが住まう森が面する海に浮かぶ四つの島である。『クルセルダ諸島』と呼ばれるその島々は、神獣ジャンジットテリオスの領域にして、強力な魔獣の領域。エルフですら踏み入ることのない禁断の地。


 ヒトの領域を逃れ、尚且つティタニエラの中でも非力な生命たちを無駄に傷つけることのないよう、力を持つ存在が好んで里を離れ住まう場所。あまりにも強すぎる生命体が自らの理性に基づき選んだ楽園。それ故に、望んでその島に入る者に対しては容赦がない。クルセルダ諸島に踏み入るということはすなわち、強靭なる生命であることの自負がなければならない。そして強者たちは己の領域が侵されることを容易く看過することはなく、侵入者を試すかのように挑みかかり、容赦なく排斥する。力ある者の手荒な歓迎である。


 人類未踏の地どころかエルフですら未踏の地であり、古代の姿がそのまま残る秘境中の秘境。妖精郷ティタニエラにあって最も謎に満ち、最も危険な領域。それが『クルセルダ諸島』である。

 エルフが古代より受け継ぐというクルセルダ諸島の地図を広げてみると、島々はティタニエラの海岸から少し離れた位置にある。しかも、海岸から最も近い島との間の海には、何やら不穏な化け物じみたマークが描かれており、“何かがいる”ことが示唆されている。


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