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リスティリア救世譚  作者: ともざわ きよあき
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清廉たるティタニエラ・第三話③ エルフの里へ

 妖精郷“ティタニエラ”は、他国のヒトやそれに類する種族が未だ到達していない、広大な未開の森と、そこに面する海といくつかの離島を仮初の領土としている。


 明確に国境らしき境はなく、レブレーベントやカイオディウムから見てどのあたりに位置しているのか、総司には把握する術もない。森のほぼ全域に結界が張られており、招かれざる侵入者の踏破を強固に拒む。ミスティル曰く、結界は単なる「防御」の役目を持つものではなく、そもそも「次元」や「空間」といった概念のレベルで、他国の領域と断絶されているのだという。わかりやすく弾かれるのではなく、踏み入ったものを迷わせ、そのまま元の場所へと送り返す。他国と言うよりはヒトとのかかわりを断ちたいがために施された、数千年来の護りだという。この護りは歴史上、千年前の「カイオディウム事変」の折りを除いて解かれたことはない。


 その強固な護りを突破して、カイオディウムからの空間転移を成功させられたのは、大聖堂デミエル・ダリアの礼拝の間に仕掛けられた転移魔法が異常に強力だったからだ。招かれざる者を何が何でも排斥しようとするカイオディウムの性質そのものが、ティタニエラの結界を突破して三人を転移させられるほどの強烈な魔法を実現させた。ただし、無論ではあるが要因はそれだけではない。


 外界においてティタニエラの正確な「位置」を把握している者はほとんどいないと言っていい。そして、ヒトであるならば、強力な魔法を持ち、ヒトに対してあまり友好的ではないエルフの領域へ踏み込もうとする奇特な考えを基本的には持たない。ベルが実現させた転移はそれこそ史上唯一と言っていい、ティタニエラへの飛び込み方なのである。そもそも前述のとおり、結界そのものは物理的な障壁ではない。空間そのものを飛び越える転移魔法にアレンジを加えた離れ業によって、ベルはティタニエラへの転移魔法を完成させた。それだけでも、彼女の魔法の素質が並大抵でないことが窺い知れるというものである。そして、そこまでしてティタニエラに飛ばなければならないと決心した、彼女の覚悟をも示している。


 森の中に形成されたいくつかの隠れ里にエルフが住まい、それ以外の森の領域は魔獣を含むヒト型でない生物たちのもの。豊潤な自然の実りと、エルフ特有の高度な魔法によって、ティタニエラは原始的な生活と機能的な生活を見事に両立させていた。機械文明の一切は国の中に入っておらず、レブレーベントやルディラント、カイオディウムとは全く様相の違う世界を形成している。


 ミスティルの隠れ里は、国王にしてエルフの族長である大老“クローディア”が住まう里である。その美しさに、総司はしばし言葉を失った。


 流れる水と木々の根、風と水によって削られた岩が織りなす、息をのむほどに美しい自然の調和。窪地となった土地に形成された隠れ里は、おとぎ話の世界に登場する妖精郷のように華やかではなく、静かで優美なるリゾートのようだ。ヒトの世から隔絶された大自然の神秘、ヒトが到達し得ない領域。総司の元いた世界でもわずかにそうした場所が残っているが、もしかしたらその場所にも、このような美しい世界が人知れず営みを続けているのかもしれない。


 崖を削って造られたであろう神殿のような横穴が、大老クローディアの住まいであり、エルフにとっての聖域だという。遠くに見えるその姿は、大聖堂デミエル・ダリアほどの威圧感を持たないが、総司の目を奪うには十分の神秘的な気配を纏う。どちらかと言えば、ルディラントで訪れた真実の聖域、あの神殿の跡地に近い雰囲気を感じた。


「ねえねえ、そろそろ拘束を解いても良いんじゃないかなぁ! ほら、里に着いたし! 人目が気になるお年頃なんですけどぉ!」

「うるせえ」


 縄で手を縛って拘束したベルを引き連れ、総司が言う。


「お前はちょっと物騒らしいんで、詳しい話を聞くまではこのままだ。危ないわ普通に」

「いやいや、あなた達に危害は加えませんことよ! ベルちゃん女神さまに誓っちゃう!」

「事もあろうに殺人を計画するような輩を信じろと言うのか?」

「うーわ! 盗んだり人質取ったり企んでた人がそれ言うの! 恥ずかしくないのか騎士団長!」


「同じく犯罪だな確かに。程度の違いも論じるつもりはない。だが、それを差し引いてもお前は危険すぎる。しばらくそのままでいてもらう」

「うわーん人でなしぃ!」

「何とでも言え。ソウシ、絶対に離すなよ。逃がすことも出来ん」

「わかってるさ。エルフの皆の前で危ない真似されても困るしな」


「あたしもっと感謝されても良いと思うんだけどなー! 八方ふさがりのあなた達に新しい道を作ったんだけどなー! そこんとこどうなのかなー!」

「そうだっけ? 忘れたなァ」

「あーコイツ絶対女神さまの騎士じゃないわ、悪逆非道じゃん! はーなーせー!」

「……ミスティル、随分と騒がしい獣を捕らえてきたね……」


 エルフの隠れ里、大老のお膝元で護衛を務めるエルフの女性が、少々呆れた面持ちでミスティルを出迎えた。


 透き通るような白い肌のミスティルとは対照的な、褐色の肌と色素の薄いミルキーブロンドの長髪を靡かせる、戦士然としたエルフ。


 名をレオローラ。剣術を含む武芸に長けたエルフでも選りすぐりの戦士とはミスティルの弁である。


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