清廉たるティタニエラ・第三話② ベルの目的
「伝説の通りなら、ヒトが訪れるのは実に千年ぶりです。私は一目お会いしてみたいとずっと思っておりました……まさか今日、夢がかなうとは」
「いや、そんな大層なアレじゃないんだけどな俺達は」
「その通り。いずれ訪れることになってはいたと思うが、もう少し丁重に、礼を欠かぬ形を取るつもりだった……ベル、お前のおかげでいろいろとご破算だがな」
リシアが厳しい声で言う。ミスティルはすっと笑顔を消し、リシアに対して少しだけ、非難するようなまなざしを向けた。
「リシアさん。事情は私もわかりかねますが、そろそろ剣を下ろしては如何でしょう。ヒトであれエルフであれ、女神さまに授かりし命が刃を向け合うのは悲しいことです」
「あなたには恩があるが、いかに恩人の言葉と言えども聞き入れられない。私たちにとってこの子は、敵か味方かまだわからないんだ」
「いや」
総司が言った。リシアが横目で総司を見る。
「ソウシ?」
「下ろしてやってくれ。敵か味方かの区別をつけるとすれば『少なくとも敵じゃない』と思う。付いてくる意味がねえし、命を取りたいなら礼拝の間に兵を詰めさせれば良かっただけだ」
「枢機卿の命令があるとすれば?」
「あの人の心の内はわからないけど、少なくとも普通に追い返すつもりでしかなかったように見えた。そうだろ、ベル」
「そうだね。フロルはあなた達をレブレーベントの王都へと強制的に送り返すつもりでいた。それをこっそり捻じ曲げたのがあたし。目的は私利私欲のためだけど」
転移魔法に細工を施し、王都シルヴェンスめがけて転送されるはずの総司とリシアを“意図的に”ティタニエラへと飛ばした。ベルは最初から、今この瞬間のために総司たちと接触を図ってきていたのだ。
彼女の言う目的とやらを達成するのに、救世主とその相棒を利用するため。
「あのままカイオディウムに留まろうが、レブレーベントに戻って出直そうが平行線でしょ? あたし達は利害が一致してると思うんだよね」
「……お前の『利』は、何だ」
ベルの口元に妖しい笑みが浮かんだ。
からかうような、小悪魔的ないつもの笑みでもないし、苦笑いでもない。少なくとも総司とリシアがこれまで見たことのない――――危険な笑み。
「フロル・ウェルゼミット枢機卿とその一族を殺害し、カイオディウムの現体制を崩壊させる。それがあたしの最終到達目標。そのためには必要なんだよ――――あなた達二人の協力と、ティタニエラのエルフが持つ“古代魔法”がね」